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未来の会

菅首相に取り入る日医・中川会長に「世論」はそっぽ

菅首相に取り入る日医・中川会長に「世論」はそっぽ
「患者受け入れ調整に動かない」「不安あおっている」等

「国民の皆様、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 年末年始に新型コロナウイルス感染症患者が急増する中、1月6日午後に東京・本駒込の日本医師会館小講堂で開かれた日本医師会の今年初の定例記者会見は、中川俊男会長の国民への新年のあいさつから始まった。記者会見は民放ワイドショーで生中継されており、中川氏のこうした発言もお茶の間を十分意識したものだった。

 首都圏1都3県への緊急事態宣言再発令の前日だった事もあり、医療界を代表する中川氏の一挙手一投足に注目が集まっていた。

自らの発言で首相が方針転換とPR

 中川氏は、菅義偉首相の緊急事態宣言の再発令方針を「高く評価する」と強調した。そして畳みかけるように「緊急事態宣言下においては全国会議員の夜の会食を、人数にかかわらず全面自粛してはいかがでしょうか。国会議員に範を示していただきたい。まず隗より始めよです」と呼び掛けた。

 この日の午前、自民党の森山裕、立憲民主党の安住淳の両国対委員長が緊急事態宣言下での国会議員の会食ルールづくりで合意した事を聞き付けての提案だった。

 昨年12月の菅首相と自民党の二階俊博幹事長らの〝ステーキ会食〟が世論の批判を浴び、国会議員の間でも会食への自粛ムードが広がっていたが、森山氏の「2年前に妻に先立たれて独り身の二階氏が会食出来るように」(自民党国対筋)という配慮もあり、野党とも「4人以下」等の条件付きで会食を容認しようとしていた。

 ただ、それも中川氏の挑発的な提案でマスコミ報道が一斉に批判的な論調に傾き、最終的にルール化は見送られた。

 自民党のベテラン議員は「医師会の医者は自由に会食している。ブーメランになって跳ね返ってくるんじゃないか」と恨みがましく語った。

 副会長時代は政治マターをあまり担当せず、昨年6月の会長就任以来、ずっと政治との付き合い方について力量を問われていた中川氏。そんな中川氏が政治に対し、ここに来て強気な態度を取れるようになった背景には、菅首相との関係構築がある。

 この日の記者会見でも「(年明けに)私と総理が直接お話をしたという事は事実です」と明かした上で、「総理が頑張っておられる病床の更なる確保、これも非常に重要で有り難い事ではありますが、すぐにしなければならない事は、感染者数を極力何がなんでも減らす事だというお話をして、ご理解を得たというふうに私は思っています」と述べ、緊急事態宣言の再発令に一貫して慎重だった菅首相が方針転換したのは、自分の発言がきっかけだったとアピールした。

 日医関係者によると、中川氏が1月2日に菅首相に新年あいさつのメールを送ったところ、折り返しで首相から電話がかかってきて、今後の新型コロナ対応についてアドバイスを求められた。中川氏は、病床確保の補助金を増額しても増える病床数は限定的で、緊急事態宣言といった感染者を減らす対策を早急に実施する方が最優先だと返答。菅首相は「分かった」と同意したという。

 政府は昨年末、病床確保の緊急支援策として、病床が逼迫している都道府県でコロナ患者を入院治療している医療機関に、重症患者の病床なら1床当たり最大1500万円、中等症以下は450万円を年度内に補助すると発表。財源は予備費2693億円が確保された。

 昨年11月末時点で厚生労働省のシステムに登録している急性期病院のうち、コロナ患者を受け入れている割合を設立主体別にみると、公立病院は71%、公的病院が83%なのに対し、民間病院は21%にとどまる。こうした実態から、政府は民間病院にコロナ患者を受け入れる余地があるとみて、破格の補助金で協力を促しているところだった。

コロナ対策の矛先をかわす必要に

 民間病院を多数抱える日医としては、コロナ患者の受け入れについて「徹底した感染防止策や人員確保等対応が面倒で、補助金を積まれてもやりたくない」(地方医師会幹部)というのが本音だろう。現在コロナ患者を受け入れている民間病院も、使命感から受け入れているところが少なくない。中川会長はコロナ対策の矛先が民間病院に向かう流れを変える必要があったが、そこに渡りに船とばかりに飛び込んできたのが菅首相だった。

 菅首相にとっても、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長らから年末の段階で「緊急事態宣言はまだ不要」と進言されていたにもかかわらず、大みそかに報告された東京都の新規感染者数が1000人の大台を初めて突破し、窮地に陥っていた。

 菅首相は、自分より学歴の高い霞が関のキャリア官僚を「スキあらばだまそうとする」と心の底から信頼してはおらず、民間の有識者らに〝セカンドオピニオン〟を求める事を常としている。

 今回も、毛嫌いする東京都の小池百合子知事が年始早々、首都圏の知事を取りまとめて緊急事態宣言の再発令を迫り、困り切っていたところに中川会長がたまたまタイミングよく手を差し伸べ、それが首相の決断を後押しした。

 菅首相は、中川氏と電話で話をした翌日の1月3日夕、首相公邸での西村康稔・経済再生相らとの打ち合わせで、30分ほど報告を受けた後、自ら緊急事態宣言の再発令について「やんなきゃいけないんじゃないか」と初めて切り出した。打ち合わせ後、出席者の1人は方針転換の理由を「首相の耳に医療関係者から『医療崩壊しそうだ』という話が入った」と明かしたが、その医療関係者こそ中川氏だった。

 自民党厚労族との関係も希薄な中川氏がいきなり政権トップと直接交渉出来る立場に躍り出た事で、中川氏本人も自信を深めているという。日医内からは「最近急に菅首相と親しくなった」(中堅職員)と驚きの声が上がる。

 ただ、中川氏に対する世論は、緊急事態宣言の再発令以降、菅首相とは全く逆で、批判が強まってきている。コロナ患者の急増に伴い、テレビのニュースやワイドショーでは連日、医療機関の病床逼迫を報道。それに合わせて、日本の人口当たりの病床数が世界でもトップクラスにもかかわらず、あまりにも民間病院がコロナ患者を受け入れないため病床が逼迫していると報じられたからだ。マスコミ各社には「何で医師会が調整に動かないのか」「中川会長は出来ない理由を並べ立てて不安をあおってばかりいる」といった訴えが相次いでいるという。

 正当な理由なくコロナ患者受け入れを拒否する病院名を公表する措置を盛り込んだ感染症法の改正にまで議論が及んでいる事を気にしてか、中川氏は1月14日に首相官邸で開かれた菅首相と医療関係団体との意見交換会で、日医と病院団体で病床逼迫の対策組織を立ち上げると表明した。火消しを図った格好だが、本気で身を切る姿勢を見せない中川氏に対して政府高官の1人は「支持率急落の菅首相はだませても、日々の生活に苦しむ国民はだませない」と吐き捨てた。

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