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未来の会

医療機関に求められる「ダイバーシティ」

医療機関に求められる「ダイバーシティ」
〝女子減点〟でクローズアップされる女性医師の労働環境

経済ニュースで「ダイバーシティ」や「ダイバーシティ経営」という言葉を耳にするようになって久しい。ダイバーシティ(diversity)とは多様な属性の違いを意味し、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・心情、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などに関する多様性も含まれる。

 ダイバーシティ経営とは、こうした多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出して、価値創造に繋げる経営だ。

 日本では、持続的な出生率低下が続き、世界に類を見ない速度の少子高齢化の進展を背景として、労働力人口の減少が確実視されている。もちろん医療現場も例外ではない。子育て中の女性や、60歳以上の高齢者の労働市場への参加を促進することは、雇用政策として極めて重要になってなる。また、グローバル化が進む中での要請もあり、大手企業を中心として、ダイバーシティを推進する部署を設けるなどして力を入れている企業が増えている。

 一方、医療機関では、東京医科大学の不正入試問題をきっかけに、背景にある女性医師の労働環境がクローズアップされるなど、女性という1点に限っても、果たしてダイバーシティは推進されているのか疑問の声も少なくない。改めて女性医師の問題を考えると、育児支援や時間勤務制度などの整備といった取り組みを始めている病院は増えているが、実態はいかがなものだろうか。

医師の労働環境を巡る構造的問題が浮上

 医療機関の経営コンサルティングや医療従事者の人材紹介などを行っている株式会社メディウェル(札幌市)では会員医師を対象として、東京医大での入試における女子減点やその背景事情に関してアンケートを実施、10月に結果を発表した。

 回答者(653人)のうち「良いことではないが、必要悪だと思う」が47%、さらに「必要な措置だと思う」も8%あり、実に55%の医師が東京医大の対応を「必要」と考えていることが明らかになっており、回答割合は男女ともほぼ同じで偏りはなかった。

 また、医学部生・医師として性別による不当な扱いを受けた(見聞きした)経験について、44%が「ある」と回答していた。67%が「女性医師の割合の増加が医師不足や診療科の偏在に繋がる」と回答。「女性医師の割合の増加により、現場が回らなくなることが実際に起きている」は44%いて、「起きていない」(33%)を上回った。

 さらに、自由回答による“本音”からは、事の背景にある医師の労働環境を巡る構造的な問題点も浮き彫りになっている。例えば、「医療の現場は男性でないと無理、それだけ激務」(50代男性)、「当直や時間外当番などしない女医でも、男性医師と同じ1名と換算されるので、一緒に働く男性医師の負担は増える」(30代男性)、「女医が半分にまでなってしまうと、仕事のカバーに入れる人がいなくなって、働く女医としても大変になる」(40代女性)、「医者は肉体労働の部分が工事現場と一緒」(50代女性)。

 また、「入局時に3年間は妊娠しないという誓約書を書かされた」(50代女性)など、女性医師の6割が不当な扱いを受けた経験があるという。

 東京医大の一件を受けて、女性差別だと糾弾したり、出産後も働きやすい体制を作らない病院の問題を指摘したりする識者意見が聞かれたが、現場にはやむにやまれぬ事情もあるという見方も強い。

 率直なところ、女性医師を敬遠する傾向は現場には少なからずあるだろう。例えば、産休・育休・時短によって、勤務シフトのマネジメントが煩雑になるだけでなく、人件費がかさんでくる可能性がある。女性医師が産休や育休を取得しているからといって患者数や手術件数を減らすことはできないはずで、他のスタッフが業務を代行するか外部から人を手当てしなくてはならないからだ。ある程度までスタッフがカバーするとしても、“働き方改革”が叫ばれる時代に過労死しかねないような勤務を強いることは難しい。

 かつて女性医師は、“男性の3倍働いて一人前”のような時代を経て仕事に邁進していた時代があった。現在、管理職を務める世代の女性医師は、今なお男性社会である医学界にあって個人の工夫や努力、家族の理解と協力、さらには職場での有形無形の柔軟な支援があってこそ困難な局面を乗リ越えてきたのではないか。

女性に良い環境は男性医師も働きやすい

 それに比べると、今の20〜30代の若手の女性医師は最初から支援ありきということで、使命感・責任感も薄まり、ライフスタイルも多様化している。

 一方、2018年度から新専門医制度がスタートしたことで、若手医師が多忙な科や地方での勤務を避ける傾向はより強まっていると見られている。女性外科医を描いた人気テレビドラマの影響で外科志望者が少し増えたとも言われるが、皮膚科や眼科のように比較的仕事が楽である専門医が依然人気で、多忙な科は激務に拍車が掛かりかねない危惧がある。

 大学によっては医学部の女子学生が4割を超えるところも出てきており、全医師における女性医師は2割を超えた。子育てや介護に関わる女性医師が安心して働ける環境は、全ての医師にとって働きやすいとも言えるだろう。

 今後時短が必要な医師が確実に増える中、民間の中小病院こそ、特色ある支援策を打ち出して環境整備に力を入れるべきかもしれない。育児支援だけでなく、医師としてのキャリアを支援していくことも必要だ。

 例えば、勤医協札幌病院には女性医師を支援するため、通常3年の家庭医療専門医を5年かけて取得する研修プログラム「彩〜いろどり〜」がある。妊娠・出産・子育て・ブランクといった経験を人生の彩と捉え、育児と両立しながら確実に専門医取得もできる環境が用意されている。

 ワークシェアリング(仕事の分かち合い)についても工夫が要るだろう。午前中などフルタイム勤務の医師の手薄になる時間があるはずで、そこに時短勤務者の活用を考えたい。

 女性医師が発展的に成長できる環境がない病院、時間外労働ができない医師は戦力外と考える病院であれば、入職者は減りどんどんと先細りしかねない。

 

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