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未来の会

病理医不足でニーズ高まる「遠隔病理診断」

病理医不足でニーズ高まる「遠隔病理診断」

人間にしか出来ない診断に集中し〝働き方改革”に

長引くコロナ禍をむしろ追い風として、遠隔医療関連の市場は活況のようだ。2025年の市場規模は432億円になり、19年比で79.3%増に拡大する。これは、富士経済グループの市場調査、富士キメラ総研が先頃、遠隔医療等医療・ヘルスケア分野におけるIoT(モノのインターネット)関連の国内市場を調査してまとめた報告書を公表した中での試算である。

 遠隔医療関連市場は20年には260億円となり、前年比で7.9%増であると見込まれている。

 オンライン診療は同年の診療報酬改定から導入され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、時限的ながら初診からの適用も認められた事で大きな伸びを示している。その後、恒久的に認められる事になっており、医師−患者間のオンライン医療ソリューションが市場を牽引するものと予測されている。

 また、テレビ会議やウェブ会議等の遠隔医療システムは、病院同士の連携やオンライン診療等を目的として導入されるものだ。こちらもCOVID-19の影響によって、カンファレンスや研修等がオンラインで開催されるようになった事で、需要が増加している。従業員300人以下の中小病院や診療所は、IT導入補助金の活用が可能な事もあり、導入しやすくなって普及が進んでいる。

市場規模大きい画像解析ソリューション

 そして、遠隔医療で最も市場規模が大きいのは、遠隔画像診断等の画像解析ソリューションだと予想されている。19年の市場は147億円だったが、20年はコロナ禍の受診抑制もあって診断件数が減少し、130億円(前年比11.6%減)になるとされる。しかし、21年以降は成長に転じ、順調に伸びていくと見られている。

 4月現在で引き続きコロナが蔓延している事を考えると、この予想の通り市場が拡大するかは分からないが、これまで及び腰だった医療機関も本格的な遠隔画像診断の導入を検討するようになっているようだ。

 遠隔画像診断では、例えば、医療機関から送られてきた医療画像に対して専門医が的確な読影を行って、迅速にレポートを返信するというサービスが既に立ち上がっている。とりわけCTやMRIの画像診断では、装置を有していても放射線科医が常勤していなかったり、不足していたりする医療機関にとっては有り難いサービスだろう。セカンドオピニオンとしても利用出来る。

 これらの画像検査データは、近年ではそもそもデジタル化されている事が多いので、遠隔サービスを利用しやすい。

 それに比べて、病理組織の画像診断は、ひと手間多い。組織検査標本のプレパラートをスキャンする等して、まずデジタルデータを作製しなくてはならないからだ。しかし、病理医が不足する中、遠隔で病理組織の遠隔画像診断サービスを提供しようという試みも内外で始まっている。

 病理医は、世界的に不足している。日本の現状を見ると、病理の専門医は約2200人で、人口1000人当たりで見ると1.6人しかいない。産婦人科、小児科、麻酔科等で医師不足が社会問題化しているが、病理医はそれらの科目に比べても更に少なく、全医師数に占める割合は0.76%、米国でも1.6%にすぎない。このため、大病院には常勤の病理医がいるが、中小病院では病理診断を外注しなければならないところも多い。

 とりわけ深刻なのはがん診断で、がん発生率は世界的に上昇しており、病理医の仕事は増える一方だ。更に、病理医不足によって検査結果が出るまでに時間がかかっており、がんの診断の遅れ、すなわち患者の不利益に繋がるのではないかと懸念されている。

サービス展開目論むベンチャーが台頭

 そこで、遠隔にするだけでなく、AIによる病理画像解析を組み合わせたサービスを提供すると、医療ベンチャーも出てきた。メドメインは、18年に「PidPort」というサービスをリリースし、国内外の医療機関や大学等50施設においてテスト運用で実績を重ねてきた。

 「PidPort」では、まず、病理診断用の標本プレパラートをデジタル化し、これをクラウドに保管する。そして、AIによってそれを瞬時にスクリーニングする事も出来るし、オンラインで病理医に遠隔病理診断を依頼する事も出来るようになる。

 こうしたデジタルデータを作製するためのスキャナーは高額であるが、同社では自前イメージングセンターを立ち上げる事で、コストを圧縮する努力をしている。

 このようにして取り込まれたデジタル画像は、AIによって瞬時にがんの有無等を判断する事が出来る。もちろん、最終的には、病理の専門医が病理診断を下す、あくまでも診断を支援するツールという位置付けである。

 サービスの利用料は、使用人数やデータ量等に応じて月額数万から数十万円だという。

 同社は18年1月、九州大学医学部に在学中の飯塚統氏が中心となって立ち上げた九大発ベンチャーで、20年8月には、総額11億円の資金調達をしている。

   出資したのは、福岡和白病院等を傘下に置くカマチグループや、福岡県を中心に全国各地に医療機関を持つ国際医療福祉大学・高邦会グループ(IHWグループ)の2つの病院グループ、九州電力系通信会社のQTネットや複数の個人投資家等だ。

 また、ソフトバンク系ベンチャーキャピタルであるディープコア等の既存株主も追加出資に応じる等、期待のほどがうかがわれる。これらの資金は、イメージングセンター等の拡充に充てられるという。

 先述した通り、病理医不足に悩まされているのは日本だけではなく、メドメインでは世界を視野に入れたサービス構築を進めている。

 世界的にもこうしたサービスの展開を目論むベンチャーが台頭している。

 例えば、英国では病理医の不足により、生検で採取した患者の組織標本は宅配業者によって 専門医に送られ、診断がなされているとされる。そこで、病理AIの開発を手掛けているIbex Medical Analyticsは、国営医療の英国民保健サービス(NHS)参加の病院に対して、プロバイダーであるLDPathと共に、デジタル病理サービスの提供を始めている。

 また、LDPathは、NHS病院に対して病理組織画像システムやレポートサービスを提供するネットワークを有している。

 16年に設立されたIbex Medical Analyticsはイスラエルに拠点を置いており、生検で採取した組織中のがん細胞を、AIによる画像処理によって迅速に検出する「Galen」というプラットフォーム技術を有している。21年3月には、3800万ドル(約41億円)を調達しており、更に欧米における診断研究に力を入れるという。

 病理医であれ、放射線科医であれ、人間にしか判別出来ない診断に集中する事が出来れば、当然ながら“働き方改革”にも繋がる。様々な理由で、遠隔医療導入の期は熟してきている。

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