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第152回 後期高齢者の「患者負担割合」、所得基準で駆け引き

第152回 後期高齢者の「患者負担割合」、所得基準で駆け引き

 コロナ禍で休業状態だった政府の全世代型社会保障検討会議が再始動した。年末にかけて最大の焦点になるのが、75歳以上の人が支払う医療費の自己負担割合(原則1割)の引き上げだ。既に「一定所得以上」の人を2割とする事は方向付けられているものの、肝心の所得基準の線引きはこれから。厚生労働省は「収入上位20%」程度の人を2割とする事等を模索するが、来年10月までに確実に衆院選がある中、与党内には慎重論も高まっている。

 菅義偉政権で初の開催となった10月15日の「全世代型」会議。議長でもある首相が最初に選んだテーマは、りの不妊治療への保険適用等少子化対策だった。

 ただ、「全世代型」の主軸は支払い能力のある高齢者に負担を求め、現役世代の負担を軽減する事にある。今年の本命は「高齢者医療」だ。この日、民間議員の中西宏明・経団連会長は「高齢者に偏りがちな社会保障給付を見直し、子ども・子育て分野に財源を振り向けるべきだ」と訴えた。今後本格化する、高齢者の所得線引き問題をにらんだジャブだった。

 75歳以上の後期高齢者医療制度の自己負担割合は原則1割だが、現役並み所得(単身世帯で年収383万円以上)があれば3割。ただし、対象は全体の7%程度にすぎず、大半は1割負担で、その中でも41%は自己負担の上限額が低い「低所得」者だ。75歳以上の医療費の8割は現役世代の保険料と税が支える。2022年からは戦後ベビーブームの団塊の世代が75歳になり始め、社会保障給付を一層逼迫させる。このため、同会議は昨年末の中間報告に2割への引き上げを盛り込む一方、対象の線引きは今年夏に先送りしていた。

 ところが、コロナ禍により議論の開始は今秋にずれ込んだ。1割負担の人が2割になれば、上限額に達しない限り自己負担は2倍に跳ね上がる。衆院選が迫る中、与党内では「コロナを織り込んでいなかったのだから、1年先送りしていい」(公明党幹部)、「コロナで収入減に苦しむ人に、医療の負担増等求められない」(自民党厚労族)といった声が上がる。

 一方、菅政権になって経済産業省から財政運営の主導権を取り戻した財務省は「原則2割だ」(幹部)と鼻息が荒い。10月8日の財政制度等審議会分科会では「可能な限り広範囲」の人を2割にすべしと提言し、「22年度までに」と年限も切った。自民党財政再建推進本部の小委員会も28日、「75歳以上の半数」を2割負担とする案をまとめた。

 厚労省は落としどころとして、収入が上から20%(単身世帯で年収240万円以上)程度の人を2割とする案を探っている。介護保険の2割負担の人と同様の線引き基準で説得出来れば、というわけだ。しかし、財務省は「財政効果が小さい」と撥ね付け、逆に厚労族の一部は「範囲が広過ぎる」と難色を示している。厚労省幹部は「双方を満たす解を得るのは容易ではない」と漏らす。

 そうした中、注目が集まるのが菅首相の判断だ。財務省幹部は「まずは自助」との首相の発言を捉え、「自己負担増は首相の方針だ」と言う。だが、この問題に関し首相はだんまりを決め込んでいる。「首相の言う『自助』は、行政や企業に実利重視を迫るもので、国民に痛みを強いる政策にはあまり踏み込まないのでは」。厚労省内ではそんな見方もされている。

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