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未来の会

認知症団体が協働して初のシンポ開催

認知症団体が協働して初のシンポ開催
当事者とは〜本人の思い、家族の思い〜

認知症に関わる4団体で構成する「認知症関係当事者・支援者連絡会議」は9月16日、「認知症で日本をつなぐシンポジウム2018」を東京・千代田区の東京都医師会館で開催した。同会議は、認知症に関する一般への啓発や、国の認知症関連施策に当事者の声を反映させることを目指しており、今回のシンポはその最初の取り組みだ。

 同会議は、昨年4月に京都で開かれた国際アルツハイマー病協会国際会議への参加を契機に、「認知症の人と家族の会」「全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会」「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」「レビー小体型認知症サポートネットワーク」が連携、昨年8月に発足した。

 冒頭、4団体を代表して「認知症の人と家族の会」代表理事の鈴木森夫氏が挨拶、「認知症にまつわる団体はここ10年ほどで増えてきた。互いに緩やかな連携をし、当事者の声を日本国内だけでなく世界へもアピールしていきたい」と述べた。

 次に、認知症全体の約5割を占めるアルツハイマー型認知症研究の第一人者で、国立長寿医療研究センター研究所所長の柳澤勝彦氏が「認知症 これからの予防・診断・治療」をテーマに記念講演を行った。柳澤氏はまず、アルツハイマー型の発症メカニズムを説明した。発症の詳しい原因はいまだに不明だが、「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積することで、「老人斑」という異常な構造物が作られ、これが原因で神経細胞に障害を与えることは分かっている。また、老人斑は発症の20年以上前から形成され始めていることも明らかになっている。

 高齢化の進む先進国では、アルツハイマー型を中心とした認知症が増えており、世界的な課題となりつつある。ただ、高齢化による認知症患者の全体数は増えているものの、個々人で見てみると、軽度認知障害(MCI)や、認知症の前段階の人が認知症になる確率は下がっている。「はっきりした原因は分からないが、認知症のアクセルとなっている生活習慣病の早期発見や早期対応が進んできたためではないか」と柳澤氏。

血液検査でアルツハイマー病変を早期発見

 アルツハイマー型の根本的な治療薬はないが、早期に発見することは可能となってきた。アミロイドβの脳内蓄積の状況を少量の血液を使って調べる検査方法の研究が進められている。もう一つ注目すべきこととして、老人斑ができていても発症しない例が報告されているという。それは「認知予備能」と呼ばれ、脳内に病変があっても認知症を発症することがない、脳の体力のようなもの。様々なことに関心を持って脳を活性化させておくことが大切なようだ。さらに、最近分かってきたことで、腸内細菌のバランスが良いと認知症の予防に効果がある可能性が期待され、腸内細菌に悪影響を及ぼすストレスを回避する生活を送ることも認知症予防には大切だという。

 この後、各団体の参加者によるビデオメッセージの上映と、リレートークとディスカッションへ移った。ビデオメッセージでは、各地に暮らす認知症患者と家族の生の声が届けられた。

当事者だからこそ感じること

 「認知症の人と家族の会」からは、アルツハイマー型認知症と診断された花田芳さんと、娘の里村智恵さんが登場。智恵さんはデイサービスで楽しく過ごす芳さんを見て、「働くことのできる場所、当事者が集まれる場所は必要」と語る。

 「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の桐山淳さんは、認知症全体の約2割を占めるレビー小体型認知症と診断された妻の信子さんの介護をしている。「2人で最期まで家にいて人生を全うしたい」と話す。

 「レビー小体型認知症サポートネットワーク」の新井佳子さんは母の髙橋志づ子さんを介護している。「患者会などに積極的に関わること、良い医師に巡り合うことがとても大事」と言う。

 「全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会」の平井正明さんは57歳だが、約1年前にアルツハイマー型認知症と診断された。「不幸だとは思っていない。前向きに考えていくしかない」と明るく語る。

 同会議からは村尾香織さんも登場。結婚を機に米国から日本に移住した母スーザンさんが約5年前にアルツハイマー型認知症と診断された。病院から介護保険などの説明を受けたが、「それよりも認知症とはどういうもので、どうしたら楽しく生きられるか、そのようなサポートが欲しかった」と話す。

 リレートークとディスカッションでは、認知症患者として「認知症の人と家族の会」の渡邊雅徳さん、支援者として「全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会」の松倉典子さん(若年性認知症サポートセンターゆえみセンター長)、介護家族として「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の正敏さんと、「レビー小体型認知症サポートネットワーク」の小倉和代さんが登壇した。

 41歳の渡邊さんは、ある朝目覚めると、仕事のことを全く思い出せず、受診したところ、アルツハイマー型認知症と診断された。認知症であることを周囲に話すと、社会の偏見を感じることもあったという。

 松倉さんも「支援者や介護・福祉の現場の中の偏見をまずなくしていきたい」と述べた。

 馬場さんは両親(父は認知症、母は脳梗塞など)宅に往復約3時間かけて通う中、人と人との繋がりや尊厳ある生活の大切を痛感し、介護者への支援を訴えた。

 小倉さんは5年前に夫がレビー小体型認知症と診断された際、住んでいる徳島県で専門医を見つけられず、絶望的な気持ちになったという。当事者・家族同士が交流する場が大切と考え、レビー小体型認知症研究の第一人者で、患者会「レビー小体型認知症サポートネットワーク」を立ち上げた小阪憲司・横浜市立大学名誉教授らの協力を得て、同ネットワーク徳島を立ち上げるために活動中である。

 最後に、「全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会」会長の宮永和夫氏(南魚沼市病院事業管理者)が閉会の挨拶に立ち、一本締めで閉幕となった。

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