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病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「未収金問題」に向き合う

考え得る予防措置を事前に講じる

療費を督促しても支払わない患者は少なからずおり、医療機関における未収金の発生は避けられない状況にある。加えて、近年は訪日外国人旅行客の未払い問題も浮上している。医療機関において永遠のテーマである患者の未収金問題を改めて考えたい。

訪日外国人の3割は旅行保険に未加入

 2016年の訪日外客数は2403万9000人で、前年に比べて21.8%増加した。日本政府は中国や東南アジアなどを対象にビザの条件緩和を実施するなど、観光客増加の取り組みに熱心だ。海外では日本への評価や関心が高まっており、観光は日本の経済成長の鍵を握っているともされる。

 しかし、訪日外国人旅行客の医療費未収問題は、その陰の部分であり、医療機関に少なからぬダメージを与えている。

 国土交通省近畿運輸局が16年、大阪府で実施した調査では、訪日客を受け入れた病院の30%で未払いが発生していた。観光庁によれば、訪日客の約30%は旅行保険に加入していないとされる。

 未加入であれば全額が自費払いになり、未払い金発生の大きな原因となる。中には、救急病院にかかり1件で約800万円かかったが、未収という事例もあった。

 沖縄県医師会でも17年2〜3月にかけて、県内救急病院(27施設中19施設が回答)を対象に外国人旅行客患者の受け入れについて調査したところ、5施設で未収金が発生し、多い施設では12件に達した。急性大動脈解離で医療費が500万円以上掛かったにもかかわらず、支払われなかったケースもあった。

 受け入れ施設では、診療後の決済時のトラブルとして、高額となり現金やクレジットカードでの決済が出来なくなるケース、言葉の壁やコミュニケーションの取りにくさ、無断帰宅で連絡が取れない、などを挙げている。

 こうしたことは、観光地や都市部だけではなく、今後は地方に波及してくることが予想される。とりわけリピーター客などは個人で地方を観光する機会も増え、地方の病院は外国人患者を診る機会が増加する。しかし、医療通訳を全ての病院が抱えるわけにもいかず、問題が深刻化する危険もある。

 近畿運輸局では16年、医療通訳に24時間相談出来るコールセンターや、未収金の半額以上を国などが補填する取り組みを試験的に運用した。今後、各自治体において実情に合った対策を講じなくてはならず、国がそれを支える支援策を取ることを期待するよりないだろう。

 未収金問題は、古くて新しいテーマである。

 四病院団体協議会では05年に治療費未払問題検討委員会を設置し、加盟する約5500病院に対して実態調査を行ったところ、04年度の1年間で回答施設の93.5%に未収金が発生し、その合計額は約218億9413万円(1施設平均716万円)に達していた。

 08年度の調査では、未収金のあった施設は93.8%の施設、136億1234万円(1施設平均548万円)と、前回よりは約100億円減ったこともあり、委員会はいったん廃止されたが、13年に再設置された。医業収入の大きな伸びが期待出来ない中では、未収金は看過出来ない問題なのだ。

背景に応召義務と患者の過剰な権利意識

 未収金の発生する背景には、医師法19条が定める応召義務と、1949年の旧厚生省の通知で「患者の貧困や医療費の不払いがあっても、直ちにこれを理由として診療を拒むことは出来ない」とされていることがある。

 加えて、近年、非正規雇用者やワーキングプア層、急速な高齢化で、いわゆる貧困老人層などが増加している。自己負担額が増える中、患者が過剰な権利意識を持つようになり、医療サービスへの不満や医療機関への不信感から支払を拒否するケースも少なからずあるという。

 未収金問題には、ある程度の予防措置を講じることも可能だ。

 例えば、支払い方式で、クレジットカードや電子マネーの導入は検討されていい。会計窓口での待ち時間が短縮され、現金を持ち歩くことがなくなれば、一定の未収金防止策に繋がる。決済金額の約3〜6%に相当する利用手数料は医療機関が負担しなくてはならないが、未収金が低減するメリットがそれを上回る可能性もある。iPhoneを用いた決済システム(ApplePay)、あるいは交通系の電子マネー(Suicaなど)も、同様にキャッシュレスのメリットに繋げられる。

 一般に医療費は後払いのため、患者は医療サービスの提供を受けてから、医療費の総額を知らされる。特に高額になるだろう手術や検査の費用などを、事前に一覧にして説明することも有用だ。

 実際には、患者は高額療養費制度を活用出来るので、自己負担金は一定額以下で抑えられることが多い。そうした制度や社会資源の活用について説明をしておくことも、結果的に未収金発生の予防策となる。

 また、入院時には、単なる「保証人」でなく、「連帯保証人」の署名・捺印を求めることだ。保証人も連帯保証人は、主債務者の保証をするという点では同様だが、主債務者の弁済資力の有無にかかわらず、同等の支払い義務が課せられている点では、より責任の重い制度である。細かいことだが、診断書や証明書なども、後日郵送して次回来院時に一部負担金を請求すると、それが未収金に繋がるケースもある。こうした書類は即日発行出来るような体制にした方が望ましいだろう。

 自院で回収不能となった未収金については、法律事務所に業務委託する医療機関が増えている。しかし、手数料支払いが発生するため、一概に効率的な方法とも言い切れない現状がある。

 入院費回収を保証する新たな金融商品も登場した。滞納家賃保証を手掛けるイントラストが三井住友海上火災保険と共同で開発、発売した医療費用保証商品「虹」は、全国50以上の医療機関で導入されている。東京女子医科大学八千代医療センター(千葉県八千代市)や公立岩瀬病院(福島県須賀川市)など、大学病院や公立病院でも採用された。同社が連帯保証人となることで、医療機関は滞納未収金督促・回収業務の負担が軽減されるという商品だ。

 しかしながら、回収の費用対効果という点から見れば、まず、日頃から管理を徹底して、関わる職員が危機意識を持って望むことが重要だ。患者の保険証や運転免許証などを確認したり、来院時には前回までの未収額を確実に請求したり、さらには段階に応じた督促方法を検討したりする。未収金発生後は早く患者への督促を行うといったシステム化こそが重要だろう。

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