医療モール促進で勤務医不足に拍車を掛けた 「地域ヘルスケアサービス」の詭弁
今年9月に創立30周年を迎えた調剤薬局。調剤薬局業界や医療界での評判はすこぶる悪い。その理由は業績の悪化とともに岡村幸彦創業社長の私生活にあるといわれている。
今期4〜6月の第1四半期決算で経常損益が初めて赤字になった。岡村が静岡薬科大学を卒業し、千葉県市川市に調剤薬局を創業して以来、業績は順調に伸びてきた。2001年5月期から12年3月期まで11年間年率30%の急成長を遂げ、調剤薬局業界の話題をさらってきた。ところが、中期経営計画をスタートさせた13年3月期以後、決算数字に陰りが出てきた。売り上げこそ新規出店やM&A(企業の合併・買収)で目標を達成したが、営業利益は減少する一方で、ほぼ半減した期もあった。かつて2000円台だった株価は下がり続けて1700円台まで落ちた。
それにもかかわらず岡村は、調剤薬局業界トップの三津原博・日本調剤社長に次ぐ3億8400万円もの報酬を得ている。この巨額の役員報酬には疲弊している医療業界から「あの若造は何を考えているんだ」「病院経営は四苦八苦しているにもかかわらず調剤薬局だけがもうけ過ぎだ」と厳しい意見が相次いだ。国民が「日本の薬代は高過ぎる」という事実を知り、調剤薬局業界が白い目で見られる羽目になったのは自業自得というものだろう。「株式時価総額400億円程度の企業のトップが4億円もの報酬を受け取れるのは調剤薬局業界だけ」と調剤薬局業界全体に逆風を吹かせた。この高額報酬について、同社に取材を申し込んだところ、「取締役の報酬については、株主総会で決議いただいている報酬枠の範囲内で適正に決定している」と木で鼻をくくった回答を寄せてきた。
株価は急落の裏で進行する「闇の私生活」
13年3月期の中間決算期に発表した株主通信は01年から12年3月期までの11年間、「売り上げ高成長率30%」とぶち上げた。さらに13年3月期の売上は420億円、15年3月期には600億円を実現すると掲げている。ちなみに、株主通信のタイトルは「わらおう。」世の中をなめ切った岡村をうまく表現したタイトルになっている。岡村は今の調剤薬局の仕組みを熟知し自信満々なのだ。
だが、13年3月期の売り上げこそ新規出店とM&Aによる店舗数の増加で422億円と目標を達成したものの、営業利益は前期比5億円減の14億円、当期利益は半減に近い4億円だった。翌14年3月期の売り上げが487億円の微増にとどまり、営業利益は再び5億円減の9億円、当期利益は1・4億円と激減。期末配当も55・5円が40円に下がり、来年3月期にはさらに半額の20円と予想されている。その上、今度は第1四半期とはいえ赤字だ。株価が急落するのも当然といえば当然。株主通信のように高笑いをしてはいられない。
同社は苦戦の原因を調剤報酬が厳しくなっていることと薬剤師不足による人件費高騰だと説明している。診療報酬の改定で処方箋が同一病院に偏っている門前薬局は基本料引き下げがあり、薬剤師不足で人件費も上がったのは確かだが、同業他社も同条件であり、その苦戦理由は言い訳でしかない。これまで「調剤報酬の引き下げにはジェネリック医薬品の増加で利益をカバーする」とIR(投資家向け情報提供)で株主に強調したことを忘れたのか。
多くのチェーン薬局は病院やクリニックの門前への新規出店に精を出し、小規模調剤薬局のM&Aにも熱を入れているが、岡村は自ら医療モールを仕立て、そこに調剤薬局を開くことで薬局網を拡大してきた。開業希望の医師を診療科ごとに集めて医療モール化し、処方箋を独占する方法だ。既に手掛けた医療モールは82カ所まで膨らんだ。
しかし、こうした医療モールづくりは、見方を変えれば、病院勤務医の引き抜きによる既存病院の医師不足、さらに病院破綻に拍車を掛ける行為である。岡村がうたう「地域のヘルスケアサービス」という言葉はにしか聞こえない。また、岡村が資金提供などをした医療法人の実質オーナーに納まっているとすれば、法律に抵触するのではないか。この件を厚労省に取材すると「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」に抵触する可能性もあると指摘した。静岡県在のアイセイ薬局関係者は「岡村の不正」を、また都内のキャバクラ関係者は「岡村の私生活」について多くを語ってくれたが、この件は号をあらためる。
もう一つ、岡村が他の調剤薬局との違いを見せつけたビジネスがある。お薬手帳機能をスマートフォン対応アプリにした「おくすりPASS」だ。薬剤師は患者の服薬履歴を継続して管理・指導することが求められているが、お薬手帳を持参しない患者が多く、服薬指導など行われていないのが現実だ。各調剤薬局も調剤報酬の点数に関わるだけにどうしたらいいか試行錯誤しているが、同社はいち早くスマートフォン向けのおくすりPASSを開発、実証実験を今秋にも全店で始める。お薬手帳は忘れてもスマートフォンは肌身離さず持参しているから効果的な薬歴管理が可能だという。しかし、飲み忘れ防止が最も必要な高齢患者がスマートフォンを持ち歩いてくれるかどうかに成否がかかっている。
こんな斬新な経営姿勢を貫いている岡村が率いるアイセイ薬局の経営がなぜ悪化したのか。
疑念呼んだオーナー岡村の社長交代劇
実は、同社の業績下降は同社のゴタゴタと時期が重なっている。ゴタゴタとは2年前の12年12月26日に突然、発表された社長交代だ。発表文ではオーナー社長の岡村から「健康上の問題を理由に代表取締役及び社長執行役員辞任の申し出があった」とされ、代わって旧太陽神戸銀行(現三井住友銀行)京橋支店長からアイセイ薬局に転じ、取締役専務執行役員を務めていた垣東勝が社長に就任するという内容だった。オーナー社長退任の報は業界を駆け巡った。岡村に何が起きたのか。
ところが、わずか4カ月後の13年4月、株主総会に向けた新任役員候補者が発表されたが、そこには岡村が社長に復帰することと年末に就任したばかりの垣東ら3人の取締役退任が記されていた。業界通の間では「国税の査察情報があり、代表の座から逃げた」「岡村自身のコンプライアンスの問題が発生し、それに危機感を抱いた経営陣が岡村退任を迫り、精神的に弱っていた岡村が退任をのんだものの一難去ったと知った時に、再びトップの座を欲した」「銀行出身の垣東専務と一部の役員がコンプライアンスを無視する岡村に引導を渡したものの、岡村側の逆襲で追放されたということではないか」と騒がしい。
上場会社として不適切な会計処理
岡村と岡村の資産管理会社「おかむら」は合わせて33%強の株式を握っているし、大株主には医薬品大手のメディパルやチェーン調剤薬局大手のクオールが名を連ねている。こうした大株主を味方に付けてクーデター側を追放し、社長に復帰したらしいというのだ。アイセイ薬局は取材に対し、「岡村は健康上の問題で辞任したが、健康が回復したこと、併せて主要事業である調剤薬局の厳しい業界動向を踏まえ、創業者として代表取締役社長執行役員に復帰することとなった」と通り一遍の説明をするが、これを信じる業界人はいない。
同社関係者は「アイセイ薬局は社長交代とほぼ同時期に2件の民事訴訟を起こされた。どちらも福島県で調剤薬局を開設する際のトラブル。原告は岡村の資産管理会社『おかむら』からの依頼でアイセイ薬局の出店する土地を先行取得したのに、突然中止にされ損害を生じたことから損害賠償請求訴訟を起こした」「訴訟で提出された陳述書の内容に震え上がったのではないか」と話す。
原告は福島県内の工務店と都内の不動産会社だ。工務店からの訴訟ではアイセイ側が勝訴し、もう一件は和解が成立している。工務店の敗訴について言えば、裁判所に提出された証拠だけで争う民事裁判の限界といえる。アイセイ側が勝訴はしたものの裁判内容を閲覧すると上場会社としての見識を疑われても仕方がない。もう一方の都内の不動産会社から提訴された損害賠償訴訟の和解の理由は「たとえ勝訴判決を受けたとしても、裁判記録が世間の目に触れることを恐れたのでは」と推測される。不動産会社から提出された書面には「岡村が流用した会社の資金の穴埋めのために、資金をつくる目的で土地取得を依頼したのではなかったか」と釈明を要求されているが、「流用した資金」とはいったい何を意味するのか。上場会社として不適切な会計処理の具体的な指摘を受ける恐れのある裁判記録を残したくないために和解に持ち込んだのではないか、といわれている。この一連の内容を察知した銀行出身の垣東専務や幹部が不安を抱いて岡村を退陣させたのではないだろうか。
岡村は法令順守を掲げる垣東らを追放し、実権を取り戻したが、「社長の報酬が多過ぎる」「女性問題で暴力団幹部に高額な資金を支払った」という関係者の声を消すことはできない。
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