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第127回「コロナ治療薬」「売上高5兆円」は話題作りか

第127回「コロナ治療薬」「売上高5兆円」は話題作りか

 日刊工業新聞の記事を配信しているインターネットサイト「ニュースイッチ」の2020年12月12日付で、「売上高5兆円達成へ。武田薬品・ウェバー社長が狙う市場」と題した記事が掲載されている。一見して景気のいい見出しだが、記事の内容は果たして額面通りに受け取っていいのかという、疑問符が付く。

 それによると、「クリストフ・ウェバー社長は、主力となる消化器系疾患や希少疾患、がん領域などの14のグローバル製品や、2024年度までに承認取得を目指す12の新規医薬品候補を中心に、30年度までに売上高5兆円(470億㌦)の達成を目指す考えを表明した」とある。

 ウェバーが何を「表明」しようが勝手だが、武田の広報でもあるまいし少しは疑問の1つでも提示して良さそうなものだ。

 武田の20年3月期決算では、買収したアイルランドの製薬大手・シャイアーの連結子会社化により、売上高は3兆2911億8800万円と3兆円を突破した。すると、10年後にはこれに約1兆7000億円が加算される計算で、記事の通りになれば武田はこれから意気天を衝いて進撃する未来が待っている。

景気の良い記事の2日後に株価下落

 達成前から10年ほどで売上高を2兆円近く増やすと豪語する会社が世間にどれだけあるのか知らないが、このようにお先がバラ色なら、武田の株主はさぞかし喜色満面となってもおかしくないだろう。ところが皮肉にも、武田の株価はこの記事が掲載された2日後に下がり始め、3800円台から年明けの1月5日現在、3665円と低迷している。理由は単純だろう。市場は、ウェバーの「売上高5兆円達成へ」という発表をホラ話程度にしか受け止めていないということだ。

 そもそも素朴な疑問として気になるのは、前月号でも触れたように、新型コロナウィルスが大問題となってから、武田は20年3月段階で「最短で9カ月で」治療薬を独自で開発して「承認を得られる」と吹聴していたはず。「9カ月」はとうに過ぎたが、この記事にはなぜか「コロナ」の「コ」の字もない。

 の口上でもあるまいし、「14のグローバル製品」だの「12の新規医薬品候補」だのと怪しげな話題を持ち出して期待を煽らなくとも、この時世の事だ、社が宣伝したはずの「コロナ治療薬」を世に出すだけで、おそらく「売上高5兆円達成」等造作もないはずではないのか。

 それでも百歩譲って、武田の「コロナ治療薬」開発の努力を辛抱強く見守ったとしても、株価を押し上げるような好材料はありそうにない。

 独自開発を打ち上げた翌月に、「米国、欧州のバイオ企業と提携契約」と急変。更に、「米ノババックスが開発中の新型ワクチンの日本における開発、製造、流通に向けた提携」(8月)だの、「米モデルナから、新型ワクチン5000万回接種分が供給」(10月)だのと情報が飛び交う中、今度はロイター電の20年11月30日付によると、「米バイオ医薬品のアムジェン、ベルギーの製薬UCB、武田薬品工業の3社」が各社の治療薬の「世界的な臨床試験を連携して始めた」とか。

 次から次と「連携」相手が登場するものの、ウェバーが「コロナ治療薬」に口をつぐみだした事実が示すように、先代の長谷川閑史以降これまで、ヒットするような新薬を何一つ生み出せなかった武田が、今になって世界が待ち望む「コロナ治療薬」を創薬出来たら逆におかしいぐらいだ。実際、20年2月に武田の株価は一時4500円まで付けていたが、コロナ禍が荒れ狂ったこの1年間で900円近く下落している。いかに武田関連の「コロナ情報」が相手にされなかったか、歴然としていよう。あるいはたとえ眉唾でも、仮に「コロナ治療薬」を宣伝せずとも済むような平常の年であったなら、案外もっと株価は悲惨な下落ぶりを示したのではないか。

 そんな武田ウェバーが今さら「売上高5兆円達成へ」等と吹聴しようが、市場が真に受けるはずがないのもうなずける。第一、「2024年度までに承認取得を目指す12の新規医薬品候補」が、本当に売上高の底上げ予想の根拠になるのか。たとえパイプライン(新薬候補)に12の品目があっても、それが認可されるかどうかは全く別問題のはずだ。

「根拠なき数値を目標に掲げるのは無謀」

 この点について、武田の創業家筋の株主が中心となった「武田薬品の将来を考える会」は20年12月31日、「2020年12月R&D説明会について『考える会』としての見解」と題し、自身のブログで武田が同月9日に開催したオンラインでの「5兆円」の説明会について言及している。武田側が示す「10年後の2030年には、パイプラインの1兆5000億円の貢献により5兆円に達する」という見通しについて、「パイプラインの評価額1兆5000億円については、全品目成功確率を100%と仮定した数値である」と指摘。「明確な根拠がないと感じられる数値を10年後の目標として掲げるのは無謀であるとの印象はぬぐえない」と苦言を寄せているが、反論の余地はあるまい。

 しかも、武田の今後の見通しに関する説明は、「売上高5兆円」の信ぴょう性に留まらない重要な問題が含まれている。21年1月で完了から2年目を迎えた、シャイアー買収の評価に関わる事だ。以下少し長くなるが、前出の「見解」を続ける。

 「10年後の売上収益目標5兆円について、ベストケース(成功確率100%)の場合の研究開発パイプライン貢献額1兆5000億円のうち、旧シャイアー社製品の合計は4000億円以下(34億㌦)で、成功確率を50%としても2000億円でしかない。一方、タケダが5年後に想定する45億㌦(4800億円)の売上減少は、3分の2以上(3300億円)がシャイアー社製品によるものとみられる」

 「5年後(2024年度)にタケダが期待する『グローバルブランド12品目による80億ドル以上の上乗せ』については、実現の可能性が低いと思われるが、この数値においても旧シャイアー品目の貢献度は3分の1以下、26億㌦(2800億円)にとどまるとみられる」

 こうなると、「コロナ治療薬」にしろ「売上高5兆円」にしろ、結果的に「話題作り」に精を出しているだけという感が否めなくなる。そうこうしているうちに、史上最高額の海外企業買収劇となったシャイアーが「タケダの将来の成長に貢献していない」(「見解」)事実が明らかになったら、ウェバーはどう責任を取るのか。それとも、30年にはとっくに武田にはいないという計算で大風呂敷を広げたのだろうか。

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