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ベネッセホールディングス

ベネッセホールディングス
個人情報流出事件で地に落ちた 「プロ経営者」の看板

 通信教育大手のベネッセホールディングス(HD)は5月11日、原田泳幸会長兼社長が6月25日付で退任し、野村証券出身でベネッセに転職した福原賢一副社長が社長に昇格すると発表した。原田氏は米アップルコンピュータ(日本法人)社長、日本マクドナルド社長と外資系企業を渡り歩き、2014年6月にベネッセHD社長に招かれた「プロ経営者」と呼ばれた人物だった。

 しかし、原田氏が社長に就任した直後に、ベネッセでは最大で3504万件にも上る顧客の個人情報流出が発覚。この過去最大の個人情報流出事件でベネッセがイベントを開催しては来場した人の個人情報を取得、利用していたことが明るみに出た。

 しかも、子供たちの情報はあらゆる通販やネット販売に利用価値の高いものだったことから、事件は大問題に発展。会員が逃げ出し、同社の評判を大きく傷つけた。

 事件後、原田氏は信頼の回復、体制の立て直し、新サービスへの切り替えを進めたが、中心事業の通信教育講座の会員数は減少、2年連続の赤字となった。プロ経営者の力が及ばなかったのか、それともプロ経営者に力量がなかったのか。

 くしくも原田氏退任発表の2カ月前の3月末、東京地方裁判所立川支部は同社の個人情報流出事件の犯人、元システムエンジニアに対して懲役3年6月、罰金300万円の判決を言い渡した(控訴中)。事件発覚後、担当役員2人が引責辞任した。社長就任間もない原田氏は個人情報漏えいとは無関係ということで、立て直しに専念することになった。

 しかし、ベネッセが巨額の損失を出したとして、都内に住む男性株主が昨年12月、原田氏ら現・旧役員6人に対し、総額260億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を岡山地方裁判所に起こしている。

個人情報の集め方が極めて狡猾

 ベネッセの個人情報持ち出しが始まったのは13年末。持ち出された個人情報は名簿業者に売られ、さらに別の名簿業者の手に渡った後、ジャストシステムに転売された。そして、ベネッセの会員にダイレクトメールが次々に届いたことから、不審に思った会員がベネッセに問い合わせた結果、個人情報漏洩が発覚。大報道されたのはすでに周知の通りだ。

 だが、事件はベネッセの個人情報収集が極めて狡猾だったことを改めて思い知らせた。なにしろ、模擬試験や幼児教育のイベントに参加した人から「同意を得ていた」とはいえ、氏名、年齢、住所はもちろん、家族構成などを聞き出していた。妊婦の場合は出産予定日まで記されていた。通信販売業者だけでなく、赤ちゃん用品を販売する業者にとっても最も便利な名簿だったし、長年月にわたって利用できる〝貴重な〟データだった。

 大問題になったため名簿を購入した業者が利用しないことを表明し、被害は最小限に抑えられたが、だからといってベネッセが許されるわけではない。

 事件の影響でベネッセの会員制通信教育講座「進研ゼミ」では1年間で94万人の会員が退会。ピーク時には420万人だった会員は、今年4月には243万人にまで減少した。2016年3月期の連結決算も2期連続の最終赤字になった。

 このような状況にもかかわらず、15年3月期の原田氏の役員報酬は1億4200万円だったことが報じられた。

 原田氏は漏出被害に遭った会員への対応と再発防止策を進めるとともに、進研ゼミは従来通りの通信教育では伸びないと判断し、デジタル時代に合わせて会員にタブレット端末として「iPad」を貸し出す新サービスを始めた。アップルコンピュータやマクドナルドで培った得意の手法だ。しかも、時代は小中学校でタブレット端末を利用する教育に進もうとしている追い風もある。

 さらに、少子化が進むことから塾事業は吸収合併が進み、通信教育の進研ゼミだけではおぼつかないベネッセは、学習塾のお茶の水ゼミナールや東京個別指導学院を買収するとともに、中小の塾とフランチャイズ契約を結び、端末を利用した教育を進めた。

 しかし、タブレット端末は貸し出し料金が少々高く、思ったほどには伸びない。貸し出す端末は教育専用ではないため、子供たちが友達同士でメールをやり取りしたりゲームをしたりしてしまうことが起こり、家族が端末利用に難色を示して思ったほど会員数が伸びなかったともいわれている。「経営のプロ」としての成果を出せなかったのだ。

 ベネッセの事業は手広い。もともとは福武哲彦氏が岡山県で創業した福武書店である。当初は文芸雑誌『海燕』と福武文庫を出版していたが、2代目の福武總一郎氏(現・ベネッセHD最高顧問)は社名をベネッセに変更し、文芸出版から撤退。子供の通信教育に切り替えた。

 その結果、進研ゼミで成功。さらに、妊婦から出産、育児の情報誌『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を出版し、出版社の痕跡は残したが、統一模擬試験や介護事業にも進出し、それぞれの分野で大手に成長した。

 例えば、介護分野ではベネッセスタイルケアを設立。介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を各地に展開している。先頃、ワタミとメッセージを買収した損保ジャパン日本興亜に2位の座を明け渡したが、それまではニチイ学館に次ぐ大手だった。

 事業が通信教育であり、対象が子供と母親、介護では声が届きにくい高齢者だったため、個人情報流出事件まではベネッセの経営の在り方は、むしろ好意的に受け取られてきた。

 例えば、13年に昭和女子大学が行った「女子学生のためのホワイト企業ランキング」調査では、仕事と家庭を両立しやすい制度や管理職の32%を女性が占め、女性が活躍できる企業として堂々1位になった。

「追い出し部屋」に違法判決

 ところが、同じ13年に「ブラック企業大賞教育的指導賞」に選ばれている。理由は社内に「追い出し部屋」をつくり、辞めさせたい社員を異動させて自主退職に追い込んでいたことが明るみに出たからだ。追い出し部屋に異動させられた女性社員が起こしていた訴訟で、12年に東京地裁立川支部がベネッセの行為を「違法」と判決した。

 判決によれば、ベネッセは09年に人事を担当する人財部の中に「人財部付」という部署が密かに新設され、17人が配属された。17人には上司から「あなたたちには問題があります。受け入れ先を自分で獲得する活動をしなさい」と告げられたという。

 名刺は与えられず、電話に出ることも禁止され、社内の段ボール箱の片付け、備蓄用飲料水のペットボトルの運搬などをしながら、どこかの部署に入れてもらえないか探させた。「社内就職活動」が実らなければ、給与をさらに下げた。嫌がらせやいじめを続けて退職に追い込む体のいい退職強要だ。

 このような追い出し部屋の存在に歯止めを掛けるため、厚生労働省は全国の労働局に「不適切」とする初の通達を出す方針を、16年3月に発表。通達とともに配布するパンフレットには、12年のベネッセの判例を紹介する。

 追い出し部屋の存在が明らかになり、ベネッセはブラック企業と見なされた。

 しかも、敗訴すると、東京高裁に控訴した後、和解した。こうした控訴後、和解の手法はワタミの介護でもしばしば使われた。「敗訴ではなく、和解だ」という記録を残すためだが、こすいというしかない。

 昭和女子大の女子大生が持つイメージとは随分違うが、この二面性こそベネッセの特徴だ。

敏腕社長が部下の妻と不倫

 ベネッセでは創業家の福武總一郎氏の後、ソニー出身の森本昌義氏を社長に迎えた。森本氏は東大法学部卒業後、ソニーに入社し、海外子会社の業績を上げ、本社に戻ると、アイワを整理した辣腕の人物。多くのマスコミが「創業家以外から初の社長」と絶賛した。

 実際、森本氏はベネッセで英会話教室のベルリッツを買収し、IT教材の導入にも力を入れ実力を示した。

 ところが、週刊誌に「幹部社員の妻を愛人にし、社長室長に抜てき」と現場写真付きで暴露されてしまった。森本氏は辞任したが、子供の教育を事業にしているベネッセではトップが部下の妻と不倫を楽しんでいたのだ。表の事業とは全く異なる顔を持っていたのだ。

 介護事業でも似たり寄ったりだという。ベネッセは介護事業として介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などを展開し、立派な建物に手厚そうな介護ぶりが想像される。

 ところが、介護職員によれば、「たまにクリニックの医師が往診に来るくらいで、日常は過重労働サービス。神奈川県川崎市のSアミーユ川崎幸町で殺人事件が起こったが、ベネッセの老人ホームでは忙し過ぎて事件を起こす時間もないだけの違いだ」という。これも表の顔と実体との落差といえる。

 マスコミは原田氏に対して、「経営のプロ」と持てはやしたが、日本マクドナルドでは売り上げを落とした人というマイナス評価もある。チキンナゲットをつくる中国の工場で、消費期限切れの鶏肉を使っていたことが発覚したが、この中国での製造は原田氏が始めたというのだ。

 あるコンサルタントが言う。

 「ベネッセは森本氏や原田氏を社長に迎えることでマスコミに話題を提供してきました。しかし、海外経験の長い森本氏も原田氏もアメリカ的な合理主義経営を行ってきた。日本マクドナルド創業者の藤田田氏が亡くなったとき、お別れの会も行わなかった。こういう合理主義と教育とは全く次元が違うはず」

 ベネッセ創業者の福武一族は資産管理会社と併せて大株主になっているが、持ち株は全て信託銀行に信託している。大株主の名前には信託銀行の名前しか出ていない。もともと表と裏の二面性を持つ企業というしかない。教育上、これで良いのだろうか。

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