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所得減税は逆効果? 選挙への不安浮き彫りに

所得減税は逆効果? 選挙への不安浮き彫りに

焦る岸田首相、増税イメージ払拭に躍起

岸田文雄・首相は与党に対し、税収増の還元策として所得税減税等の検討を指示し、政府方針となった。1人当たり年4万円の「定額減税」が柱だ。

 「増税メガネ」との揶揄を気にし、支持率アップを睨んで増税イメージを拭い去るのに躍起の首相だが、この期に及んでの減税には効果も必要性も、更には実現性にも疑問符が付きまとう。

 10月26日、首相官邸であった政府与党政策懇談会。居並ぶ自民、公明両党幹部を前に岸田首相は賃金上昇が物価高に追い付いていない現状を踏まえ、「国民の負担を緩和するには、所得税、個人住民税の減税が最も望ましい」と述べた。そして2021、22年度で増えた両税3・5兆円分を国民に還元する、と踏み込んだ。

 この会議が異例なのは、与党等に「検討を求める」と言いながら、減税の中身の大枠を首相が指示した事だった。首相は来年6月から来年度限り、と時期まで明示した上で、①所得税減税は24年度分の所得税から1人3万円、個人住民税から1人1万円を定額減税、②住民税非課税世帯に7万円を給付、③納税額が少ない人や低所得の子育て世帯には、別途交付金等での対応を検討——を伝えた。

 所得減税は扶養家族も同額とする。③は納税額が低く4万円分を差し引けない人が対象となる。今年3月、住民税非課税世帯には物価高への対応として3万円の支給を決めており、首相は「合計10万円を目安に支援を行う」と強調。しかし、税の専門家を自負する面々、自民党税制調査会の頭越しの決定に、出席者からは「与党に追認を求めているだけじゃないか」との不満も漏れた。

 内閣支持率が低迷する中、首相主導で進む今回の減税策については与党内からも「選挙を意識し、過剰に心配している」(自民党幹部)との疑念が伝わって来る。

 切っ掛けは今年6月、政府税制調査会の中期答申が通勤手当等の非課税所得や退職金の税控除見直しを求め、SNS等で「サラリーマン増税だ」との批判が沸き起こった事だった。既に昨年末には防衛費の上積み財源として法人税や所得税の増税方針を決めており、首相には「増税メガネ」との呼び名も付けられた。

支持率低迷打開の起爆剤となる期待は薄い

 首相はこの呼び名に過剰に反応し、焦りを募らせていた。減税に固執する理由を問われ、首相は「同じ税でお返しする分かり易さ」を挙げるものの、実際は増税色の打ち消しにひた走っている格好だ。夏頃には側近の木原誠二・自民党幹事長代理と「減税」をぶち上げるタイミングを見定めて来た。財務省の抵抗を想定し、「公表の時期は選ぶ必要が有る」と慎重に進めて来たという。

 年内の衆院解散を見据えていた当時、首相が徹底的に拘ったのが「自らによる発信」だった。9月25日、首相は先ず企業向け減税を柱とする経済対策を打ち出した。ただ、「税収増を国民に適切に還元する」としながらも、所得減税には触れなかった。

 これにはネット上に「企業偏重」「ニセ減税」といった批判が飛び交い、慌てた与党から「(所得減税も)当然対象だ」(世耕弘成・自民党参院幹事長)、「所得税の減税を考えて行きたい」(山口那津男・公明党代表)と所得減税を求める声が相次いだ。それでも首相は反応を示さず、与党内には「首相は所得減税に後ろ向き」との見方が広まった。

 それが10月半ばになると、首相は「所得減税」に関心を示す様になる。与党が10月17日、官邸に出そうとしていた経済財策の提言に対し、首相は「所得税減税は盛り込まない様に」とわざわざ指示した。提言に応える形ではなく、首相から与党に所得減税を指図する形を取ろうとした、というのが実情だ。

 「異次元の少子化対策」を巡り、首相は児童手当の所得制限撤廃表明に関して自民党の茂木敏充・幹事長に先を越されている。この際に苦い思いをしているとは言え、演出過剰の感は否めない。

 当初、首相は10月22日の衆参補欠選挙を睨み、前々日20日の臨時国会の所信表明で「減税」を打ち出そうとした。ところが「露骨な補選対策だ」とする野党の猛反発で23日にずれ込む。再考した首相は19日、従兄弟でもある宮沢洋一・自民党税調会長を官邸に呼び、「明日所得減税の検討を与党に指示したい」と伝えた。宮沢氏も「期限付きの減税なら」と受け入れ、首相は20日、初めて与党幹部に所得減税を検討する様求めた。

 しかし、こうした右往左往振りは国民に「首相はぶれた」との印象を与えている。与党の税調関係者も「露骨な選挙対策だ」と苦い顔をしている。

 「来年の通常国会での法改正が要り、即効性が無い」「負担減を実感して貰えない」

 10月18日、首相が麻生太郎・副総裁や茂木幹事長ら自民党幹部5人を集めた6者会合では、所得税減税案に出席者から異論が飛び出した。それでも首相は「国民への還元」に固執した。周辺には「ぶれず所得減税をやり抜く」との決意を示している。

 だが、そもそも毎年赤字国債を大量発行しないと予算が組めない状況で、「増収分の還元」を主張する事への違和感は拭えない。税収が不足すれば、その分また赤字国債の増発に追い込まれる。

 更に実現に際しては課題も多い。1つは納税額が減税分の4万円より少なく、7万円の給付対象となる住民税非課税世帯との格差だ。

 定額減税は1人に付き4万円なので、4人家族なら計16万円分となる。これに対し、給付は世帯毎に7万円(3月の物価高対策分を含めると10万円)。4人家族なら1人当たり4万円を割り込む。

 納税額は4万円に満たないが所得税、住民税とも課税されている層(約400万人)、住民税のみ課税されている層(約500万人)への対応も悩ましい。翌年度に減税出来なかった分を繰り越すにしても自治体の負担は相当大きくなる。減税でなく、1世帯に一律10万円を支給する案も取り沙汰されているが、税調関係者は「どうやっても完全に公平と成る様に仕組むのは不可能」と言う。

 又、この時期の減税には「過度の景気刺激策によるインフレ招来」(稲田朋美・自民党幹事長代理)を懸念する向きもある。31日の同党政調全体会議では減税の撤回を求める声まで飛び出した。

 政府は防衛財源の確保に向け、所得増税をする方針を示している。この年末、所得税の増税と減税を同時に議論する事になり兼ねないチグハグさには自民党からも不満が続出し、岸田首相も臨時国会の答弁で来年度の防衛増税は否定、減税との整合性を優先せざるを得なくなった。

 原油価格の上昇を受けて高騰が続くガソリン代について政府は補助金を中々打ち切れず、支給の延長を重ねている。所得減税についても本当に単年度で終わるのかという疑念が残る。「一度減税すると戻した時に増税と言われる」(公明党中堅議員)からで、現に与党幹部からは延長に含みを持たせる発言が相次いでいる。

即効性無い減税政策は過去には失敗例も

橋本龍太郎政権では追加減税を巡って首相の姿勢がぶれ、1998年の参院選で自民党は惨敗、橋本氏は退陣に追い込まれている。一般に国民受けのいい減税であっても、政権に混乱を招く例は有った。与党内には所得減税自体への異論が有り、「即効性」に分のある給付金に絞るべきだ、との指摘も有る。所得減税論に火を付けた自民党の世耕氏は、10月25日の参院代表質問で「給付なのか、減税なのか、両方なのか。何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と首相批判に転じた。

 臨時国会の所信表明で「経済、経済、経済」と連呼した岸田首相。「所得減税」で支持率回復を見込んだものの、30日の衆院予算委員会では、立憲民主党の早稲田ゆき氏から「国民は選挙目当ての一時的減税でこれから負担が増えると分かっている」と痛い所を突かれ、結局、年内の衆院解散・総選挙の断念に追い込まれた。

 自民党の閣僚経験者は「減税を断念し、政権も終わりという事態も有り得る」と漏らす。

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