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正規・非正規の「格差是正」に逆行する最高裁判決 

正規・非正規の「格差是正」に逆行する最高裁判決 
「同一労働同一賃金」原則に司法の判断が追い付かない

最高裁の裁判官とは司法の権威の上に胡坐をかいて、庶民の生活実態等にはまるで関心を持たない特権集団ではないのか——。こうした疑問を抱かざるを得ないような判決が、10月13日に2件下された。

 いずれも、今日のコロナ禍で正規労働者との経済格差が極度に深刻になっている非正規労働者の待遇にからむ訴訟で、1件目の原告は大阪医科大学の研究室で以前秘書のアルバイトをしていた50代の女性。同じフルタイムの秘書でも、正社員の秘書と違いボーナスや病欠手当は支給されてこなかった。このため、それらの支給を求めて提訴し、2審の大阪高裁で「正社員の6割未満のボーナス支給は不合理」との判断を引き出したが、最高裁は一転して不支給は「不合理とは言えない」とした。

 2件目の原告は、東京メトロの子会社「メトロコマース」で売店の契約社員として10年8カ月働いてきた70歳の女性。正社員と全く同じ業務を続けたのに、65歳の定年退職時に退職金が出なかったため、待遇格差を問題にして提訴した。

 こちらも2審の東京高裁は格差を「不合理」と認め、正社員の4分の1の退職金支払いを命じたが、最高裁はやはり退職金ゼロでも「不合理ではない」と判断した。

 秘書のアルバイトをしていた女性は、判決後の記者会見で「国が格差をなくそうと法律を作っても、裁判所の判断は追い付いていない」と語気を強めて批判したが、的外れではないだろう。この「法律」とは、「同一労働同一賃金」の原則により、正社員と非正規との間の不合理な格差是正を目指す改正労働契約法20条の事。既に大企業では今年4月から施行されており、中小企業は来年4月から施行される。

 同法の掲げる「均等待遇」という趣旨からすれば、施行後初の最高裁判決となった今回、「同一労働」であるにもかかわらずボーナスや退職金を非正規労働者には出さなくとも「不合理とは言えない」という判断は、「不合理」に思える。「格差是正の動きに逆行していると言わざるを得ない」(『北海道新聞』10月16日付社説)という印象が否めない。

 これについては、「ボーナスや退職金の支給には正社員確保などの意味合いもあるという経営側の事情を重くみた」(『東京新聞』電子版10月15日付)という解釈も見受けられる。

非正規の救済策を講じる上で障害に

 だが仮にそうだとして、これが果たして非正規労働者には支給しなくてもよいという正当な理由になるのか。何よりも最高裁が法の上に「経営者側の事情」を優先させたとしたら、もう法治国家ではなくなる。コロナ禍に直撃された非正規労働者の本質的な救済策を講じる上で、今回の最高裁判決は障害となるだろう。

 今年2月14日に、総務省統計局が発表した「労働力調査(詳細集計)2019年平均(速報)」によると、役員を除く雇用者数に占める非正規の割合は約38%に達した。前年比で45万人増となり、もはやその割合が「高止まり」している。

 また、今年3月30日に発表された厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」によると、企業が非正規雇用を増やす理由(複数回答)のうち最多だったのは、「賃金節約のため」で38・8%を占めたのだ。

 非正規の年収は正規と比較して3分の1と大きな格差があるが、最初から企業に「同一労働同一賃金」という原則を求めるのは困難のようだ。そして11番目に「景気変動に応じて雇用量を調整するため」という理由が登場し、20・7%となっているが、現在これが大きな問題となっている。

 19年には前年比で45万人増加した非正規労働者の雇用者数は、総務省統計局が10月2日に発表した8月の労働力調査によると、前年同月から逆に120万人も減少して2070万人となり、6カ月連続の減少となった。言うまでもなく、コロナ不況で真っ先に「雇用量」の調整が非正規労働者を直撃しているのだ。

非正規労働者が雇用の調整弁に

 厚生労働省が10月6日に発表した、コロナ禍の雇用への影響に関する今年1月末から10月2日までの調査データによると、解雇や契約を更新しない「雇い止め」で失業を余儀なくされた人は、見込みも含め6万3347人に達した。このうち、5月25日から10月2日に限定すると、職を失った非正規労働者が全体の半数の3万1050人となっている。このデータは、主にハローワークでの調査を元にしており、失業者となった総数及び非正規労働者の比率はもっと高いと推測される。

 こうした雇用情勢について、「非正規労働者が雇用の調整弁になっている」という表現をよく耳にするが、非正規労働者は「弁」というモノではない。正規労働者と同じ仕事をし、同じように社会で生活しながら、コロナ禍のように経済が変動を余儀なくされると真っ先に非正規労働者が辛酸をなめさせられるという構造は、果たして「合理的」なのだろうか。

 日本で経済的格差が深刻化したのは小泉政権時代の「構造改革」からであるのは論を待たないが、それから20年近い歳月が流れるうちに、格差について何か自明なもの、当然なものであるかのような意識が定着してしまったのではないか。

 だがコロナ禍の到来は、よく報道されているように多くの非正規労働者とその家族を筆舌に尽くし難い生活苦のどん底に突き落とし、改めて格差がもたらすむごさ、非情さを如実に示しているように思える。

 それでも戦後の一時期まで、「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」という『論語』の精神が、保守政治家も含めこの国である種の「暗黙のコンセンサス」を得ていたのは疑いない。それが中間層をなるべく厚くするという政策を生んだ事で高度経済成長の実現に寄与したという指摘は事欠かないが、「小泉改革」から始まり「アベノミクス」に至るまで、全ては逆転してしまった。

 よく「空白」と称されるこの時代は、内には非正規労働者の増大に正比例して格差が拡大し、実質賃金の低下が止まらなくなり、外には日本経済の国際経済に占める地位の劇的低下を招いたのは疑いない。

 そう考えると、コロナ禍はこの国の歩みを再考する機会を与え、施行となった改正労働契約法20条は経済の軌道修正を図る上で軽くはない意味を持つように思える。

 だが前述の最高裁判決は、改革を拒む巨大な「国家意思」の存在を浮き彫りにしたのではなかったか。事実、内部留保を貯め込むだけに専心し、「同一労働同一賃金」の原則より「賃金節約」と「雇用調整」を優先しようとする財界・大企業の姿勢に、ここに至っても変化を感じる要素は乏しい。

 コロナ禍がこのまま進行して雇用不安の深刻化を食い止められないと、極端な格差が後戻り出来ないほど固定化された構造が完成するだろう。この国は今、重要な岐路に立たされている。        (敬称略)

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