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未来の会

すべての医療機関に対前年比の収入減少額を 補填して医療崩壊を防ぐべき

すべての医療機関に対前年比の収入減少額を 補填して医療崩壊を防ぐべき
1.「前年度の診療報酬対比での収入減少額を
そのまま医療機関に補償すべき」

 いよいよ、新型コロナの第3波がやって来た(執筆時点2020年12月6日)。感染者数や重症者数が過去最高を記録するなど、病床が足りない、看護師などの人材が足りない、などの報道が相次いでいる。

 新型コロナが問題になって10カ月も経過するのに、病床が用意できていない、人材を集められていない、という事態は、おそらく新型コロナウイルス感染症対策という観点だけで対策を講じていたからなのであろう。事の本質は、新型コロナ用に足りないというに留まらず、国内の医療全体の提供体制への対策を十分に講じていなかったこと、または、その視点が十分でなかったことに起因するように思われる。

 すでに2020年夏時点にこの視点から警告していたのが、『前年度の診療報酬対比での収入減少額をそのまま医療機関に補償すべき』と題した論稿であった(一般社団法人医療法務研究協会副理事長・平田二朗、2020年7月27日付医療ガバナンス学会メールマガジン〔MRIC〕Vol.154)。

2.受診控えなどで浮いた財源から
放出して診療報酬減少分を補填すべき

 その論稿では、以下のような記述がある。

 「PCR検査も受けられず自宅で亡くなる人や軽症者と判断されて自宅で亡くなる人が出てきたが」「市中感染者の全数を把握する体制を取らず、中等症以上を病院に収容する施策にしていても、感染症指定病院はすぐにパニックとなり、一般病院まで対応をさせる事態となった。この間医療機関の体制はひっ迫し救急患者のたらい回しや、一般疾患の手術などの繰り延べなどで医療機関は対応したが、国民の不安感を拭い去ることはできず、深刻な受診控えと風評被害、医療者やその家族への差別などで、医療従事者は言いようのない虚しさを感じている」

 「ウイルス感染症という特殊な分野なので、それを専門的に対応する機関も限定されるが、縦割り行政の故か対応する保健所や検体採取機関、搬送体制、分析機関などの実務体制は、もともとパンデミックなどを想定していない。収容施設の体系化と整備も同様である」

 「もともと限定的な体制で臨みかつそれで実行してきたが、それは初期の段階から破綻の兆候が見えていた。水際作戦から始まり、クラスター対策、重症者対策にしか手が回らないので、市中感染の蔓延をいくら指摘されても『医療崩壊』をだしにされて、その他の必要な体制の構築がなされなかったり、遅らされていた」

 「コロナ問題を起点とする世界恐慌を抜け出すためには、まず医療体制の再構築からスタートしなければならない。医療体制でコロナの蔓延を抑止しない限り、労働力の確保や移動の自由も出来ないし、生産や経済活動も再建できない。経済再建対策は何よりも優先して実行すべきは医療体制の再構築である」という基調で論旨が展開されている。

 その結果、受診控えなどで保険者に浮いた財源から放出して医療機関の診療報酬減少分を補填すべきだと言う。

3.医療機関の救済策はシンプルに

 その上で、「医療機関の救済策は簡単である。昨年度支払った診療報酬のうち直接物件費の差額を除いた診療報酬を補償すれば済む。特別な財源がいるわけではない。国民は保険料や国庫支出という形で今も負担しており、新たな財源をねん出する必要はない。現在診療自粛や受診控えで費用が浮いているのは保険者や国庫である」という対策を提示したのであった。

 確かに、ごくシンプルに、医療機関の救済策を提示している。

 さらに、「もともと保険とは国民の健康を守るために制度として存在している。医療が崩壊してしまえば何のための保険制度か問われる。医療機関に小出しに助成や支援金を交付しても、実際はどんどん医療機関は経営危機に見舞われている。緊急事態である、国の根幹を揺るがしている事態だからこそ前年度の診療報酬の補償が大きな歯止めとなる。幸い厚生労働省には前年度の診療報酬の医療機関別、診療科別、入院・外来別の詳細なレセプト集計が手元資料としてある。1年間の新設医療機関以外にはまず前年度補償をお願いしたい。そうすれば医療従事者の大量退職などの事態も回避できる。第2波第3波の新型コロナウイルス感染症が襲来することは専門家でなくても予測している。最低限医療崩壊をさせずに準備する必要がある。感染対策の新たな手立てはその上に成り立つ。喫緊の課題として取り組みをお願いしたい」と述べて結んでいるのであった。

4.医療提供体制の基盤を急ぎ補強すべき

 新型コロナに直結する対策強化は当然である。大切なのは、新型コロナに着目した支援金などにとどまらず、広く深く医療提供体制の全体に着目してその基盤を補強することにほかならない。

 診療科で言えば特に小児科が大変であろうが、小児科にとどまらず、それこそ全ての診療科・医療機関に広げ、そして、その基底にまで深く補強すべきところであろう。

 そのためには、新型コロナ用の対策とは異なった視点で補強することが必要であり、まず、ベースとして、すべての医療機関に対前年比の収入減少額を補填して、医療崩壊を防ぐべきなのである。

 なお、当然、カネ(資金)だけでなく、モノ(病床その他装備用具・薬品・機器など)もヒト(看護師のみならず、医師も一般職員も)も補填がなされねばならない。

 ただ、それらはむしろ、個々の医療機関の必要に応じて調整して調達する方が適している。

 まずはすべての医療機関に資金を大胆に供給して、医療機関ごとの調整・調達に委ねるべきところであろう。

 こうして医療提供体制の基盤を急ぎ補強することが、今まさに要請されているのである。

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