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未来の会

地域医療構想、病院の統廃合は進められるか

地域医療構想、病院の統廃合は進められるか

大学や地域住民を巻き込んだ議論がカギ

地域医療をどう進めて行くのか。2019年9月、厚生労働省は異例とも言える全国400余りの公立・公的病院の名前を公表し、病院を再編・統合する議論を進める様、都道府県に求めた。背景には25年を見据えた地域医療構想の実現が在る。

地域医療は、病院や診療所等の医療機関での治療やケアといった枠組みに囚われず、地域全体で住民の健康を支える医療体制を指し、地域住民の疾病予防や健康作り、高齢者や障害者への支援活動、子育て支援も含まれる。高齢化が進行して行き医療ニーズが増大する一方で、医師や看護師等の医療従事者の不足が見込まれる。限られた医療資源を効率的に活用する為には、分散した地域の病院を1つにまとめる等の集約化が急務だ。

都道府県が調整役を担う医療計画

地域医療は街作りにも直結する。医師不足の医療機関に医師を派遣している大学の協力も必要になる。

厚労省はこれ迄、17、18年度の2年間を集中的な検討期間と位置付け、公立・公的医療機関に於いては、地域の民間医療機関で担う事の出来ない高度急性期医療や過疎地や僻地への医療提供に重点を置き、再編や統合の議論を進める様に都道府県に要請して来た。都道府県は、構想区域の実情を踏まえながら、年間スケジュールを計画し、年4回は地域医療構想調整会議を実施する事となった。同会議では25年を見据えた構想区域に於いて担うべき医療機関としての役割や医療機能毎の病床数の方針を取りまとめる事とされた。

例えば、18年10月から病床機能報告で診療実績に着目して報告される様に定量的な基準が明確化され、実績の無い高度急性期・急性期病棟を適正化した。17年に手術や重症患者に対する治療の実績が全く無い病棟は18年から高度急性期・急性期の選択が出来なくなった。奈良県の構想区域では、医療機能が低下している3つの救急病院を1つの救急病院と2つの回復期・慢性期病院に再編し、ダウンサイジングが行われた。急性期病床が572床有ったのが、1つの病院が急性期のみを担い232床に、残りの2病院が回復期・慢性期を担い、90床ずつ受け持った。医師数は48人から61人と1.26倍に増え、年間救急車受入数も約2倍となった。

基準厳格化で「なんちゃって急性期病院」を淘汰

急性期病床にテコ入れする様になったのは「なんちゃって急性期病院」が増えた為だ。急性期病床は病気を発症して間も無い時期など患者の状態が急速に悪化する時期に必要な医療を提供する為の病床で、医師や看護師など医療スタッフを手厚く配置する為、政府は入院患者に対する診療報酬を高く設定している。

本来の医療は、急性期から回復期、療養、最終的には在宅で生活出来る様にする事が目的の筈だ。しかし、療養型病床群の制度が出来た1993年は急性期病床の算定要件は緩く、更に老人保健施設や特別養護老人ホーム等の高齢者施設が未だ少なく、急性期以降の高齢者の受け皿が少なかった。その為、看護師の数だけ揃えれば、現実的には急性期を過ぎた高齢者が多くても、一般病床の点数が算定出来た。こうして入院費が最も高い急性期病床を標榜しながら、実際は慢性期の患者も多く受け入れている「なんちゃって急性期病院」が生まれた。

しかし、2008年度診療報酬改定で、看護師数だけではなく、どの様な状態の患者を入院させるかによって、算定出来る入院料が左右される様に基準が厳格化された。22年診療報酬改定では更にメスが入り、「急性期充実体制加算」が新設された。高度急性期医療を提供する体制が十分に確保出来ている急性期病棟に対して評価するもので、所謂“スーパー急性期病院”に与えられる加算だ。高度急性期医療を高く評価する一方、一般急性期入院を担う病院に対しては病棟からの移動を6割未満に留め、それを超える場合には診療報酬が大きく減算される事になった。こうして「なんちゃって急性期病院」は淘汰され、病床の機能分化が進められて行った。

19年からは25年の地域医療構想の実現を見据え、病院の統合に力を入れ始める。同一構想区域内で似た診療実績がある病院が複数有り、その病院が地理的に近い場合は代替出来る可能性が有るとされ、再編や統合を会議で検証される事となった。病院数は1990年の1万96施設をピークに減少しており、2022年は8156施設まで減った。

人口減少による経営難や後継者不足も考えられるが、厚労省は「地域の医療需要を把握した上で統廃合を進めた結果」と説明しているが、元々減少傾向であった事を考えると、本当に統廃合が進んでいるかは疑問が残る。

病院の閉鎖には住民への丁寧な説明を

病院統合が上手く行った例は有る。石川県加賀市は、市内の市民病院と公設民営の病院を統合し、新たな病院を開設した。何れも救急を受け入れる急性期の病院で、それぞれが医師不足で救急患者を受け切れず、3人に1人が市外に搬送されていた。当初は市民の反発が有ったものの、最終的には目立った反対は無くなったという。

これは、統合計画の検証を行った委員会が住民の意見を聞き、取り入れた事や市内全域と新たな病院を結ぶ乗り合いバスが整備され、病院へのアクセスが確保された事など住民を安心させる説明が有った事が奏功した好例と言えよう。

又、地域医療の拡充には大学の協力も必要になって来る。地域医療構想では、大学には医師が不足している病院等への医師の派遣の他、人材育成や病院の統合の議論にも参画する事を求めている。これを受けて、神戸大学の藤澤正人・学長は今年9月、京都で行われた地域医療を議論する第10回LMC研究集会で「医学における大学の役割」と題して講演した。

その中で、病院の統合について、自身が県内の病院の統合に尽力した経験から「住民の方々の理解が非常に重要」と訴えた。病院の再編や統合は医療資源の効率的な配分には必要な事だが、その地域に暮らす住民にとっては通い慣れた病院が無くなってしまうというネガティブな印象を与え兼ねないという。

厚労省が19年に、病院の再編・統合について議論する様に公立・公的病院を名指しした時、「病院が無くなるのか」といった不安の声も多く上がった。同学長は「大学は医師を派遣するだけではなく、市町村等と協力して統合について地域住民に納得出来る説明をする必要がある。大学は地域の人の命を守るという気持ちでやっているという事を理解して貰わないといけない」と強調した。更に、病院の統合は簡単には行かないとした上で、「市町村に覚悟を持ってもらう事も重要」と述べた。

大学や地域が一体となって医師の育成支援を

医師の都市部への流出も大きな課題だ。政府は医師不足が深刻な地域で、卒業後規定の年数をその地域で働く事を出願条件にしている「地域枠」という仕組みを作った。

藤澤学長は先の集会の中で、地域枠の活用に加えて、「大学は人材育成の核。最終的に指導医になったり、地域を活性化する重要なポストに就いたりする優秀な医者が兵庫県に残ってくれるという事が重要」と述べた。

同学長は、地域医療に於ける大学の役割は「大学の医療に携わるスタッフを循環させて、県や市の受託事業を推進する事」と話す。神戸大学は兵庫県と年数回話し合う中で地域循環型の人材育成プログラムやキャリア支援事業、産婦人科に特化した人材育成事業を兵庫県から受託し、大学として地域を支えているという。

病院の再編・統合は、街作りにも寄与する。厚労省は医療関係者で作る地域の会議で議論を進める様求めているが、病院を再編・統合するのかしないのか、医療関係者だけでなく、大学や住民を巻き込んで議論を尽くし、納得を得る努力が欠かせない。超高齢社会に合わせた医療の未来図を作る為に、地域の実情に合った実りある議論を今後期待したい。

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