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未来の会

「福島の医療・介護」の状況を関係者が発信

「福島の医療・介護」の状況を関係者が発信
ICTや遠隔画像診断の活用、若手が魅力感じる病院づくり

東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故から9年。被災地の医療・介護の状況はどうなっているのか。一般社団法人医療ガバナンス学会が事務局を務める「現場からの医療改革推進協議会」の第14回シンポジウムで、福島の医療・介護をテーマにしたセッションが開かれ、4人の医療・介護関係者が講演した。

 最初に登壇したのは、県中エリアの田村市に2018年に開所した特別養護老人ホームさくらの里の施設長、佐久間裕氏。同市の人口は約3万7000人で、65歳以上の人口は約1万2300人。高齢化率は32.5%と、福島県平均の31.2%を上回る。一部は過疎地域に該当し、市の東端は原発事故により警戒区域に指定されていた。

 さくらの里は東日本大震災で倒壊した小学校跡地に建てられた。地域住民が跡地の有効活用として介護施設の建設を市に要望したからだ。同市の介護保険申請理由の4割は廃用症候群が占めており、虚弱高齢者を地域全体で支える仕組み作りが不可欠となっている。そのような中、さくらの里は効率を高めながら新しい介護を模索している。1つは情報通信技術(ICT)の活用だ。ベッドにセンサーを備え、入所者の起床・就寝の状況、呼吸数の情報等を集中して把握出来る。デイサービスではマシントレーニングやストレッチを取り入れ身体機能の向上を図っている。

 佐久間氏は「独居の高齢者のちょっとした困り事を解決出来るように、一般の人が空き時間を利用して他人に貢献するウーバー型サービスの構築も目指している」と話す。

専門医不足の地域に遠隔画像診断を

 次に登壇した嶋田裕記氏は、南相馬市立総合病院に脳神経外科医として務める一方、週末には遠隔画像診断サービスを提供している株式会社エムネス(広島市)で、医師・医療機関・患者をクラウド上で結び付ける「LOOKREC」というサービスに携わっている。

 嶋田氏はまず、福島県内の脳神経外科の状況を紹介した。脳神経外科医は基本2〜3人体制で稼働し、周囲に脳神経外科がない病院では頭蓋内の緊急疾患の対応が難しい状況にあるため、同病院に患者が送られてくる。しかし、嶋田氏が画像を確認すると、頭蓋内に病変を認めない事が週1回ぐらいの頻度で起きている。転院前に遠隔画像診断を行い、手術が必要か否かの判断が出来れば、患者の無駄な移動を回避出来る。

 嶋田氏は「情報を共有し迅速に対応するという点で、遠隔画像診断は脳神経外科に限らず、他科の緊急疾患や手術の緊急性のある疾患等でも同様なメリットがある。脳ドックの画像診断でもAI(人工知能)の応用を検討中」と話す。

 具体的なデータとしては、脳の画像が約5700例あると、医師の目視で脳動脈瘤が確認出来るのが約700例、AIを使うことで追加して確認可能なのが約55例となっている。偽陽性が多くなるのが課題で、嶋田氏は医師の目視とAIをどう組み合わせるか検証を続けている。

 続いて、常磐病院で乳腺外科を立ち上げた尾崎章彦氏が登壇した。同病院のあるいわき市は約34万人と東北第2の人口を誇るが、慢性的な医師不足に悩まされている。例えば、10万人当たりの医師数(2017年)は全国平均の233.6人と比べ172.1人に留まり、医師の平均年齢は55.5歳と43の中核市の中で最も高い。しかし、市内で乳腺専門医の資格を持つ常勤医は1人だけで、乳がんの治療を専門に行っている医師もその専門医と尾崎氏を含め数人に限られる。女性のがんの中でも罹患率でトップは乳がんで、死亡者数で5位。データ上、市内の乳がん患者の約20%が市外で治療を受けている。

 このような状況下、尾崎氏は2018年に同病院で乳腺外科の常勤医として赴任して以来、乳がんの外来患者数を増やしてきた。同病院では初期研修医も増えている。背景には、手術支援ロボット「ダヴィンチ」の導入等、同病院に関する記事が全国紙等に掲載されたり、同病院の勤務医による論文が注目されたりして、認知度が高まっている他、尾崎氏が診療以外の活動である“課外活動”を充実させてきたこともある。例えば、英国のエジンバラ大学やネパールのトリブラン大学、中国の復旦大学等、海外の学術機関との共同研究、ジャーナリズムNPO「ワセダクロニクル」との製薬マネーに関する調査等だ。

 尾崎氏はこれまでの活動を振り返り、「地域ニーズをとらえ個別案件にしっかり応える事。また、院内・院外・地域の方々の助けや力を積極的に借りて任せる事。特に若手のリクルートは重要で、医療とともに“課外活動”も重視して、魅力ある病院づくりを目指していきたい」と述べた。

海外へ福島の正しいデータを伝える

 最後に、福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座特任教授の坪倉正治氏(相馬中央病院特任副院長)が、フランスから中継で発言した。坪倉氏は今年1月末までの4カ月間、パリの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)に出向していた。

 フランスは電力の77%を原子力発電で賄っている。長期的には50%程度まで下げる計画だが、原子力の依存度は今後も相変わらず高い。福島原発事故の教訓を自国に生かそうと、事故が起きた際のシミュレーションや対策の検討が進められている中、坪倉氏はIRSNで福島原発事故で得られた知見を伝える役割を担っていた。

 坪倉氏は「フランスでは福島にはまだ人が住んでいるのかという驚きの印象が持たれている。放射線の被害が実態以上に過剰なものとして受け止められており、誤解と見られる点には1つ1つ反論している」と話す。

 具体的には、放射線被ばくだけでなく、精神疾患や生活習慣病等の健康被害、生活・社会環境の変化等の情報を整理している。

 国連科学委員会(UNSCEAR)は2021年に福島原発事故に関する最終レポートを出す予定だ。IRSNがその下請け作業を担っており、坪倉氏は「福島関係の情報をどんどん入れていくのが私の仕事」と話していた。

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