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未来の会

AIで「働き方改革」を乗り切る

AIで「働き方改革」を乗り切る

2018年6月に成立した「働き方改革」関連法。19年4月の施行までカウントダウンとなった。罰則を伴う残業規制がスタートすれば、医療機関においても、正職員は医師や管理職も含めて時間の把握が必要になってくる。

 各医療機関では対応を迫られており、特に医師の負担軽減のために、医師事務作業補助者(医療クラーク)や診療情報管理士の積極的活用を検討するなど、対策を進めている。さらに、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術を駆使して、この難局を乗り切ろうという動きもある。大手メーカーなどと組み、病院ならではの業務の省力化を目指した取り組みが加速している。

「ブリリアント・ホスピタル」目指す倉敷中央病院

 公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院(岡山県倉敷市、1166床)は2018年11月、医療機器メーカーであるGEヘルスケア・ジャパンとの間で、IoTやAIと製造業で培われたリーン・シックスシグマが融合した「継続的な高度医療と最適化された運営を両立」するロール・モデル病院(ブリリアント・ホスピタル)を実現するための包括契約を締結した。

 リーン・シックスシグマとは、無駄を排除して業務効率の向上を図るリーン生産方式と、作業のバラツキを制御して高品質なプロセスの確立を目指すシックスシグマを組み合わせた業務改善手法である。

 倉敷中央病院は1923年、倉敷紡績社長の大原孫三郎氏により、社会問題解決の一環として設立された。従業員だけなく市民の診療にもあたった。伝統を踏襲しつつ、喫緊の経営課題として、医療の質向上や地域連携、さらにはスタッフのワークライフバランスの両立にも積極的に取り組んでいる。「患者本位の医療」「全人医療」「高度先進医療」の三つの基本理念を掲げ、岡山県西部圏域約80万人の急性期地域中核病院で、医師490人を擁する。

 「ブリリアント・ホスピタル」とは、病院内のモバイル端末や電子カルテでデジタル化された院内業務、ネットワークに繋がる医療機器とその情報、従業員のオペレーションデータや臨床データなどをネットワークで接続し、収集したビッグデータを病院運営に活用していく未来型の病院と定義される。アセット・パフォーマンス・マネジメント(APM:設備資産活用管理)ソリューションと呼ばれる手法を採用する。

 具体的には、院内で診療に用いる医療機器にセンサーを取り付け、または院内既存システムと連携させることで、詳細な稼働データを収集する。これにより、複数台ある機器の使用頻度や時間帯、稼働時間など、装置ごとの稼働状況のデータが可視化されるようになる。

 電子カルテシステムなどのデータと組み合わせて詳細な分析を行えば、台数や保管場所などの見直しなど、装置の導入や適切な配備に繋げられると期待される。また、高稼働の医療機器を保有するエリアでの業務負荷低減策なども検討できるようになる。

 2017年12月から、実際に院内の超音波診断装置(エコー)の稼働状況をモニタリングするパイロット・スタディーを実施したところ、15%はほとんど使われていないと推察されたという。

 GEヘルスケアは、院内に分析技術やコンサルティングサービスためのプロジェクトマネジメントオフィスを設置し、両者が参加するプロジェクトチームを中心に展開する。

 導入効果として、医療資源の有効活用による生産性向上、成長分野への再投資の実現、働き方改革による患者ケアの充実が期待されている。また、働き方改革と付帯業務低減を一体化したパッケージプログラムや、患者個別ケアのためのプレシジョンモニタリング、医療機器以外の医療材料・医療器具へのAPMの拡張なども視野に入れている。

徳洲会は「AIコラボレーションセンター」設立

 徳洲会グループの本部機能を有する一般社団法人徳洲会(東京都千代田区)は、シーメンスヘルスケアとの間で、AIソリューションを用いた画像診断の共同研究、検体検査工程の完全自動化、人材最適化に向けた研修プログラムに関するパートナーシップ契約を今年2月に締結した。

 まず、徳洲会グループの旗艦病院である医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市、648床)を主な拠点として、近隣に共同で「AIコラボレーションセンター」を設立・運営し、AIソフトウエアによる胸部画像からの診断支援など、AIに関する共同研究を行う。また、先端的な臨床検査システム、及び搬送システムの導入による検体検査工程のさらなる自動化を推進する。

 パートナーシップによるAIを活用した画像診断の効率化、検体検査のワークフロー改善により、人材の価値最適化を図る取り組みも、やはり働き方改革への対応を目指したものだ。臨床検査室で業務を行う臨床検査技師の多くが、試験管の仕分けや搬送、廃棄などの作業工程に多くの時間を割いている。シーメンスヘルスケアによる調査では、検体搬送システムの導入により自動化対象となり削減できる業務が約33%に上ると試算している。

 看護師不足に対して、ロボットやAIで補助しようという試みもある。聖マリアンナ医科大学病院(川崎市、1208床)では、2018年12月から19年1月にかけて、検体や薬剤をロボットで運ぶ実証実験が行われた。NECの子会社NECネッツエスアイが手掛け、米国シリコンバレーの企業が開発した「Relay(リレイ)」という自動走行型自律ロボットで、米国のホテルを中心に各部屋に備品などを運ぶ用途に用いられている。薬剤や検体の搬送は、各専門職が担うが、夜間や緊急時は看護師が対応せざるを得ない。実験では、棟をまたいで約130mの距離に薬剤を運ばせた。

 超少子高齢化の進展に伴って、今後ますます国民医療費は逼迫すると見込まれる。財源と人材が限られている中で、患者の増加と多様化するニーズに応えていくには、徹底した業務の効率化と医療の質の向上の両立が課題となってくる。医療現場では、医療スタッフの負担増加などに対し、より具体的かつ持続的な解決策が求められている。AIにより全てを突破できるわけではないが、働き方改革と相まって、企業はビジネスチャンスを狙っている。Win-Winの関係が築けるものか、動向を注視したい。

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