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ワクチン開発で惨敗した日本は バイオ医薬品で躍進なるか

ワクチン開発で惨敗した日本は バイオ医薬品で躍進なるか
石川 隆利(いしかわ・たかとし)1954年大阪府生まれ。78年京都大学大学院修士課程修了後、富士フイルム入社。2008年富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社長。11年富士フイルム執行役員。12年富士フイルムホールディングス取締役。17年富士フイルムバイオCDMO事業部長。20年同社取締役副社長。富士フイルムホールディングス取締役を兼務。

世界のバイオ医薬品の市場規模は30兆円に達し、医薬品に於けるバイオ医薬品の売上高の割合は30%を超えた。CMO(受託製造機関)、CDMO(受託開発製造機関)の登場により水平分業が進み、市場は活況を呈している。しかし、従来型医薬品を強みとして来た日本は、バイオ医薬品では欧米諸国の後手に回った。COVID-19ワクチン開発の出遅れは、その力の差を歴然とさせた。そんな中、海外拠点を中心にCDMOとして抗体医薬品、遺伝子治療薬、細胞治療薬、ワクチン等の生産を手掛けてきた富士フイルムは、日本のバイオ業界を牽引している。日本の製薬業界はこの転換期をどう乗り切るのか。富士フイルム取締役副社長の石川隆利氏に話を聞いた。


—御社はこれまで業態転換を遂げながら業績を拡大されて来ましたが、方向転換についてはどの様な判断が有ったのでしょうか?

石川 富士フイルムは、写真フィルムを主体として事業を展開してきた会社ですが、その写真フィルムの需要が、2000年をピークに急激に減少し始めました。まさしく本業が消失する危機に直面したのです。当時の経営陣は、この危機を乗り越えるべく、事業構造転換に向けた経営改革をいち早く決断し、重点分野に経営資源を集中的に投入して来ました。その1つがヘルスケアです。ヘルスケアでは、創業間もなくからレントゲンフィルム等の「診断」領域を手掛けていましたが、06年に化粧品・サプリメント事業に参入し、「予防」領域に進出。更に08年には医薬品事業に本格参入し、「治療」領域まで拡大させました。現在、私が事業部長を務めているバイオCDMO事業は、11年のバイオ医薬品の開発・製造受託会社(現 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies)の買収を機にスタートさせています。既に21年度決算で発表した通り、ヘルスケアが富士フイルムホールディングスの中で売上・利益共に最大セグメントに成長しています。これは大きな変化であると実感しています。今後も「トータル・ヘルスケア・カンパニー」として事業拡大を更に進めて行き、30年にはヘルスケアの売上ウェイトを50%まで高める事を目指します。

——中でもバイオは1番期待されている分野ですね。

石川 マーケットの成長率は非常に重要です。伸びていないマーケットで事業を伸ばす事は大変ですが、伸びているマーケットでは攻めの戦略を取る事が出来るので、モチベーションを高く保ちながら進められます。バイオ医薬品の領域は、市場自体が物凄い勢いで拡がっているので数字も読み易い。後は、如何にスピード感と資金力を以てやれるか、という事です。

——ライバルとしてどういった企業を見据えているのでしょう。

石川 バイオ医薬品のCDMOで見ると、スイスのロンザ、韓国のサムスンバイオロジクス、そして中国のウーシー・バイオロジクスが競合で、当社は2番手にいます。又、製薬メーカーでは、ベーリンガーインゲルハイムが昔から受託ビジネスを行っています。バイオ医薬品の中で圧倒的にマーケットが大きいのは抗体医薬品で、抗体を大量に生産する為には2万リットルの細胞培養タンクを使いますが、それを持っているのは、当社とロンザ、サムスンです。

生産プロセスの効率化・最適化が肝

——そこで勝ち抜く為に必要なのは、どんな要素だと考えていますか。

石川 一定の品質で製造出来るのは当然の事として、受託価格についてもそれ程大きな違いはありません。その中で決め手となるのは「製造キャパシティ」と「生産性」です。今は、製薬企業は何とか工場を確保したいという状況ですから、製造キャパシティに空きが出て来ると、どのCDMOでやるかという話になる。抗体医薬品の生産性は「タイター」と言って、細胞培養タンク1リットル当たりに取れる抗体の量で計りますが、これを上げるには、CHO細胞を遺伝子レベルで如何に設計するかが重要になります。又、途中で突然変異を起こす事が有ってはならないので、細胞の継代安定性も重要です。細胞を何世代も使って行く事になるので、多数回分裂させて、安定性を保証する事も必要です。

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