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第32回 誤りと隠蔽で彩られた長谷川閑史名義の「届出」

第32回 誤りと隠蔽で彩られた長谷川閑史名義の「届出」

 武田問題対策連絡会(小林麻須男代表)の漏洩事故検証部会が昨年11月20日にまとめた「最終報告書」をたどりながら、武田薬品工業「湘南研究所」が2011年11月29日に引き起こした漏出事故の問題点を前号に続き振り返る。

 報告書は以下の項目で構成されている。

漏洩事故の概要

武田薬品の事故報告書に、重大な書き誤りと重要事項の隠蔽

重大な書き誤りについて

重大事項の隠蔽について

C4棟の滅菌処理施設はどう運用されていたか

滅菌処理施設への対処を両市行政に要求したが拒否される

遺伝子組み換え実験の心得を学ぶ

⑥提出の『自主管理マニュアル』はC4棟施設には飾り物か?

問題施設はバイオハザード防止に必修とする実験手順に整合せず

自主管理マニュアルの定める「事故時の対応及び措置」は生かされず

C4棟30余の流しから廃液を配管で1階に集める方式は法令違反

湘南研究所が直ちに対処すべき事は何か?

 自分の目で見て、頭で考えた労作だ。

 今号では②から検討していこう。武田は社長・長谷川閑史名義で2度にわたって事故についての届出を提出している。これについては既報の通りだ。最終報告書はまず、11年12月12日付届出の記述が分かりにくいと指摘。その上で事故に関する重要な「推定」を慎重に行っている。

事故現場の階を誤記した「届出」

 〈(編集部注・前記届出からの)上記引用文を読み解き、C4棟とは、航空写真(※注2)にある15の実験棟のうち矢印で指示する棟を意味し、止水忘れが起きた実験室がある2階とは、C4棟の断面図(※注3、当会作成)に示す、法定5階を指すと解釈した〉

 武田側がこれまで明確にしてこなかった事故の重大なポイントを既出の資料を基に明らかにしようとする試み。安全を希求する住民の強い意思と、武田の不誠実さがあらためて浮き彫りになった。残念ながら、〈航空写真〉や〈断面図〉を引くほど紙幅に余裕はない。インターネット上にある連絡会のウェブサイトで公開されているので、ぜひ参照していただきたい。

 報告書はさらに〈重大〉な2点に触れる。

 まずは、〈重大な書き誤り〉。止水忘れがあった実験室のあるフロア(法定5階)を武田は「2階」と呼んでいる。同じく滅菌室のあるフロア(地上階)の呼称は「GF階」となる。

 なぜか。〈研究施設として研究員を配属するのは、機械室と電気室がほとんどのGF階を除いた3階以上の階であり、法定3階を「1階」、順次上に向かって法定5階を「2階」、法定7階を「3階」、法定9階を「4階」、と称しているから〉だ。

 〈その間の偶数階は屋根裏なりになっていて、上下にある研究実験室を補助するバックヤードでしかない。バックヤードでは、各階の実験室へピンポイントで行う空気の供給と実験室からの排気ダクト、上水と廃水の管、ガス、電気、高温水蒸気などのライフラインが交差、あるいは動力機械が設置されていると思える。バックヤードの主要部分の床面は容積率に計算されない様にいわゆる鉄骨があるだけで床板を張らない造りである。設備点検などはキャッツウォークを伝って歩く方式だ(この部分、藤沢市建築許可部門の所管)〉

 〈屋上には、大型のスクラバーや排気筒、冷却塔などが林立し、最上階の10階には、これら屋上装置の循環のファンや循環液のポンプ等動力源が設置されているもよう。他に10階は、9階の実験室にたいする給排気等も担う〉

 武田の12月12日付届出には〈C4棟2階の実験室からの滅菌排水がGF階(C4棟のフロア構成上1階、法定1階)の実験滅菌排水原水タンク(中略)に流入〉という記述がある。タンクのある部屋は滅菌室であり、GF階(地上階)にある。地上階が法定1階に当たるのは分かる。だが、〈C4棟のフロア構成上1階〉は誤り。正確には「フロア構成上GF階」だ。

 長谷川名義で藤沢・鎌倉両市に提出された11年12月21日付届出。武田はここでも12月12日付と同じ間違いを本文と参照図で繰り返している。法定1階〜5階の間、GFの上階としては法定のフロアが4つ描かれねばならない。だが、図にあるのは3つだけである。

 〈社を代表し長谷川社長名で届出の事故報告書がこれほど事故原因の場所を特定しにくい表現を繰り返し使うのはなぜであろうか〉

 〈その上事故の場所を示す図解にまでミスがあるということは、単なる不注意では済まず、報告書全体の信ぴょう性までが疑われかねないことを指摘しておく〉

何を報告したいのか不明な文書

 〈重大事故の隠蔽〉はどうだろうか。武田による前記の届出2通の中で〈流し〉なる用語は見受けられるものの、それに附属する〈配管〉に類する記述はまったくない。行政への「届出」としてどこまで正当性があるのか疑問だ。

 〈報告文には警報が出て宿直者が駆け付けたとあるが、夜間も昼間も実験廃液がタンクに溜まるとオートクレーブ(編集部注・耐圧釜。内部を高圧力状態にできる耐圧性の高い容器や装置)が自動運転する。運転管理は外注請負業者で、研究実験者は滅菌室の管理に無関係にされているが、このような重要事項が報告からは読み取れない〉

 〈報告文には止水忘れのあった蛇口で1階(編集部注・地上階)の廃液タンクへ流れる特別の「流し」を探したとはあるが、そのような特別の「流し」が30を超えてC4棟に設置されていることは報告文からは読み取れない。鎌倉市観光厚生常任委員会の事故現場視察が12月21日の午前中にあり、同日午後に開催した同常任委員会で、招請された武田薬品担当が委員の質問に答えたことから明らかになった〉

 武田は何を報告したかったのか。 (敬称略)

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