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未来の会

私の海外留学見聞録 ③ 〜Go for it!〜

私の海外留学見聞録 ③ 〜Go for it!〜

葦沢 龍人(あしざわ・たつと
東京医科大学名誉教授
東京都健康長寿医療センター
保険指導専門部長/消化器・内視鏡内科顧問
UCLA Medical Center(米国)
University of Cambridge、 Addenbrookes Hospital(英国)

1986年の始め、学位の仕事に一段落がつき都内の某組合立病院の外科に出張中、恩師の故木村幸三郎教授(東京医科大学第3外科)より2年間の予定で海外留学の打診がありました。高校生の頃より海外留学は医学部受験の動機の1つでしたので、直ぐにお引き受けしました。米国VISA(J1)を取得し同年8月に大学病院へ帰任後、臨床肝移植の研修と免疫抑制療法の研究を目的として、R. W. Busuttil教授(米国・UCLA)及びSir R. Calne教授(英国・Cambridge大学)の下へ留学する為、9月に慌ただしく離日しました。

留学中には肝移植に関わる経験を積むと共に、多くの友人を作る事が出来ました。中でも米国でお会いした米井嘉一先生(慶應義塾大学)、英国でお会いした針原康先生(東京大学)とは、帰国後、肝虚血再灌流障害の動物実験や、日本で3施設目となる生体肝移植(信州大学・幕内雅敏教授)の実施にご一緒しました。お2人の先生方とは現在でも親しくお付き合いをしています。又、三重大学外科の先生方をUCLAへご紹介したご縁から、伊佐地秀司教授とは毎年日本臨床外科学会の会期中にUCLA reunion(Busuttil会)を開催しています。

日本人医師の海外留学は、各自が異なる背景の下、異なる目的で、異なる施設に異なる期間留学する事から、王道は無いと考えます。その上で、海外留学を希望されている先生方にお伝えしたい事として、留学先では学問以外に人々の文化やmentality(思考)、価値観等も是非学んできて欲しいものです。これらは、短期間であっても留学生活という経験の中でこそ学べるものです。そして、当該国の医療(臨床・研究・教育等)についても、全て人々の文化やmentalityが反映されていると言っても過言ではないのです。

例えば、日本と白人社会の顕著に異なる点の1つは、白人社会では“分からない事はやってみよう(Go for it)”とするのに対し、日本では“分からない事は止めておこう”になる所だと思います。この違いは、現在も蔓延しているCOVID-19感染へのワクチンの開発・接種への対応についても現れています。

海外では2020年夏以降普及していたワクチン接種について、当時メディアを始め多くの日本人は懐疑的でした。又、国産ワクチンは治験者が少なく厚労省は未だに緊急承認をせず使用が出来ません。日本の医療制度(国民皆保険制度)は欧米と比較し優れた点も有りますが、米国の医学教育や医療制度から学ぶべき点も多々有ります。

COVID-19の患者対応でも、日本の医療制度(特に患者受け入れ及び病床利用)の不具合が露呈しました。人口1000人当たりの米国の病床数(2.9)は、日本(13.0)の4分の1です。一方、米国の人口は日本の約3倍近く、感染者数は時に100倍にもなりますが、米国では医療崩壊について日本ほど騒ぎ立てられていません。日本の真の医療環境・制度の不備について日本人も気づき始めています。海外留学を通して当該国と日本の違いを知る事により、日本や日本人をより客観視出来るはずです。海外留学に是非いらして下さい。 Go for it!

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