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第200回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 不正・不当請求に対する院長個人の責任の強化

第200回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 不正・不当請求に対する院長個人の責任の強化
健康保険法による管理者責務の新設

2025年に第219回国会(臨時会)において健康保険法が改正され、25年12月12日に公布、26年4月1日に施行されることとなった。それは、「保険医療機関の管理者の責務」を新たに定めたものであり、条文として、健康保険法に第70条の2、それも特に第2項を新設したのである。

 

第70条の2 保険医療機関の管理者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者でなければならない(略)。
2.保険医療機関の管理者は、適正な医療の効率的な提供を図るため、厚生労働省令で定めるところにより、当該保険医療機関に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督するとともに、当該保険医療機関の管理及び運営につき、必要な注意をしなければならない。

療養担当規則による責務の具体化

上記の健康保険法の改正に伴い、「保険医療機関の管理者の責務」をさらに具体化すべく、療養担当規則も改正され、第11条の5が新設された。

実は、療養担当規則第11条の5第1号から第4号は、場合により、健康保険法に定めた「管理者の責務」の領域を質量ともに超えたものとも評価できる。現に、第11条の5柱書自体で、「(健康保険)法第70条の2第2項に規定する責務「のほか」、次に掲げる(第1号から第4号の)責務を果たさなければならない。」と表現している。つまり、療養担当規則第11条の5第1号から第4号の責務は、健康保険法第70条の2第2項の責務「のほか」のものであると、療養担当規則自体が自認しているようにも考えられる。

【保険医療機関及び保険医療養担当規則】

 

第11条の5 保険医療機関の管理者は、法第70条の2第2項に規定する責務のほか、次に掲げる責務を果たさなければならない。
1.当該保険医療機関に勤務する保険医が第2章に定める保険医の診療方針等を遵守するよう監督すること。
2.当該保険医療機関における療養の給付に関する厚生労働大臣又は地方厚生局長若しくは地方厚生支局長に対する申請、届出等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続が適正に行われるよう監督すること。
3.当該保険医療機関における診療録の記載及び整備並びに療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録の保存が適正に行われるよう監督すること。
4.当該保険医療機関に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者の連携を図るとともに、地域の病院若しくは診療所その他の保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携を図ること。
院長責任を根拠とする取消処分制度の拡張

健康保険法が改正されて、保険医療機関指定取消事由及び保険医登録取消事由として、下記の通り各条にそれぞれ2号が追加された。

 

保険医療機関又は保険薬局の指定の取消
第80条 厚生労働大臣は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該保険医療機関又は保険薬局に係る第63条第3項第1号の指定を取り消すことができる。(略)
2. 保険医療機関の管理者が、第70条の2第2項の規定に違反したとき(当該違反を防止するため、当該保険医療機関の管理者として、相当の注意及び監督を尽くしたときを除く。)。

保険医又は保険薬剤師の登録の取消し
第81条 厚生労働大臣は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該保険医又は保険薬剤師に係る第64条の登録(第2号に掲げる場合にあっては、当該保険医療機関の管理者の保険医に係る同条の登録)を取り消すことができる。(略)
2.保険医療機関の管理者が、第70条の2第2項の規定に違反したとき(当該違反を防止するため、当該保険医療機関の管理者として、相当の注意及び監督を尽くしたときを除く。)。

 

なお、このうち後者の健康保険法第81条第2号の取消事由の追加は、かなり質的な強化の程度が大きい。すなわち、管理者(院長)としての責務違反が「管理者(院長)」としての職務上の地位を超え、「医師(個人)」つまり「保険医(個人)」の登録取消にまで及んでしまっていると言えるだろう。

今回の一連の改正は、単に、保険医療機関の管理者(ほぼ「院長」と同義のため、以後「院長」とする)に管理・監督の「責務」を課したに留まらない。「責務違反」を現実的、具体的に「保険医療機関指定」の取消事由として新たに加え、また、院長個人の「保険医登録」の取消事由としても新たに加えたものなのである。そして、以下の「監査要綱」の改正案では、後述の2点において、取消事由は質量ともに拡大されるとも評してよい。

 

「『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』別添2『監査要綱』の一部改正 について(概要) 」(要約)

改正の趣旨
健康保険法第78条等に基づく監査については、「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年の厚生省保険局長通知)の別添2「監査要綱」によって定められている。
医療法等の改正(令和7年法律第87号)により、健康保険法に保険医療機関の管理者責務(第70条の2)が新設され、管理者がその義務に違反した場合には、保険医療機関の指定又は保険医登録を取消すことができる規定(第80条第2号・第81条第2号)が新設された。
これらの法改正に対応するため、監査要綱を改正する。

改正の概要
監査要綱の第6「監査後の措置」の1「行政上の措置」の取消処分・戒告について、保険医療機関の管理者がその責務に違反した場合を次の通り、追加する。
(1)取消処分
・故意に保険医療機関の管理者が当該保険医療機関に勤務する者の監督又は当該保険医療機関の管理及び運営の注意を怠り、不正又は不当な診療が行われた又は診療報酬の請求が行われたもの。
・健康保険法第78条第1項等の規定による報告や診療録等の書類の提出又は提示の求めに際し、保険医療機関の管理者が当該保険医療機関に勤務する者又は勤務していた者に対して、出頭の拒否、虚偽の説明、検査の拒否、妨害若しくは忌避又は診療録等の書類の改ざんを行うよう指示したもの。
・重大な過失により、保険医療機関の管理者が当該保険医療機関に勤務する者の監督又は当該保険医療機関の管理及び運営の注意を怠り、不正又は不当な診療がしばしば行われた又は診療報酬の請求がしばしば行われたもの。
(2)戒告
・重大な過失により、保険医療機関の管理者が当該保険医療機関に勤務する者の監督又は当該保険医療機関の管理及び運営の注意を怠り、不正又は不当な診療が行われた又は診療報酬の請求が行われたもの。

 

まずは、「故意に〜注意を怠り、不正又は不当な診療が行われた〜」とある点である。もし、ここで「故意に」の直後に読点「、」があったとしたならば、改正前と本質的には異ならないとも言い得たであろう。つまり、「故意に不正又は不当な診療が行われた」と読めるので、理事長・理事又は院長クラスに不正・不当診療の「故意」がなければ、取消処分はしにくかったのであった。

しかしながら、今度は、「故意に」は、「不正又は不当な診療が行われた」点に掛かるのではなく、「保険医療機関の管理者が」「監督」又は「管理及び運営の注意を怠り」に掛かることになるのである。極論すれば、「不正・不当診療」の「故意」はなくても、「監督・管理・運営の注意の怠り」に「故意」(ここで言う「故意」は「意図」と言うよりも、むしろ「認識」という意味に近い)がありさえすれば、「取消事由」となってしまう。この点の違いは、「取消事由」の質量どちらにおいても 非常に大きいと評されるべきものなのである。

次に、不正請求や不当請求そのものはなくても、「出頭の拒否」「虚偽の説明」「検査の拒否」「診療録等の書類の改ざん」などの指示があっただけで、「取消事由」そのものとなってしまう点である。不正・不当請求との関係を断ち切ってしまったことは、真に大きな改正と評することができ、場合によれば、取消権行使の逸脱濫用も生じやすくなり、この改正条項自体の妥当性にも疑義が生じるかも知れない。

結論
以上の通り、今回の健康保険法(法律)・療養担当規則(省令)・監査要綱(通知)の一連の改正は、まさに、診療報酬の不正請求・不当請求に対する院長(管理者)個人の管理責任・監督責任を大幅に強化するためのものだったと評することができるであろう。

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