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未来の会

Web3.0は我が国の経済成長の契機となれるか

Web3.0は我が国の経済成長の契機となれるか
様々な社会課題を解決するツールとして期待される

最近、Web3.0という言葉をしばしば耳にする様になった。昨年には、自民党の青年局がNFT(非代替性トークン)やメタバース(仮想空間)技術を活用した集会を開き、岸田文雄・首相や小泉進次郎・元環境相のトークンが、譲渡や売却が出来ない形で岸田首相の他、出席者に配られた事が報道された。トークンとは直訳すると「しるし」や「象徴」で、一般的にブロックチェーンの技術を利用して発行された暗号資産の事を呼ぶ。

 インターネットの黎明期であるWeb1.0でISDNやADSLが普及した。Yahoo!やGoogle等の検索エ↘ンジンも登場し、個人がホームページ等を通じて情報発信が可能となった。Web2.0ではスマートフォン等の様なユーザー同士の双方向の情報共有やSNS等のアプリケーションが普及した。Google、Amazon、Facebook、Appleといった所謂GAFAと呼ばれるプラットフォームサービスが大きく躍進し、巨大テック企業となって行った。しかし、中央集権型の情報管理はサイバー攻撃を受け易く、2018年にはFacebookが5000万人超のユーザー情報を外部に流出させた。19年にはアマゾンジャパンが他の利用者の氏名や住所、注文履歴等を誤表示し、↘約11万アカウントのプライバシーが流出。21年には、Twitter(現・X)の利用者およそ2億3000万人分の個人情報が流出する等セキュリティ上のリスクが露見した。GAFAを筆頭に、一部の大企業にはユーザーの住所や年齢、性別といった基本的な個人情報だけでなく、嗜好やウェブ上の行動履歴等あらゆる情報が集まる。言い換えると、こうした企業によって世界中のあらゆる個人情報が独占的に集められる状態になっており、個人のプライバシーは守られていない。セキュリティ問題は、ユーザーの個人情報がサーバーで集中管理されている事により、サ↖イバー攻撃を受け易く多くのユーザーに影響を及ぼす危険性が有る。Web3.0はこうしたWeb2.0が抱える問題点を解決する事を目指している。

 コインチェック社の解説によると、「Web3.0とは、ブロックチェーンやP2P(Peer to Peer)などの技術によって実現する『次世代の分散型インターネット』のことです。現在、私たちが利用しているインターネットを『Web2.0』と定義し、プライバシーやセキュリティなどの問題を解決するために構想されたのがWeb3.0という概念」と説明されている。

 Web3.0にて進化する事は多く有るが、中でもブロックチェーン技術を用いてデジタルデータを統合出来る様になるのは大きな前進であろう。DeFiという言葉を聞いた事が有るかも知れない。DeFiとは、ブロックチェーン技術を活用した金融仲介アプリケーションである。全ての取引記録がブロックチェーン上に記録される為、取引記録の正しさはユーザー同士で監視される。中央管理者が居なくても安全で信頼性の高い金融サービスと言える。又、ブロックチェーンを用いたサービスでは、複数のユーザーで取引情報が共有される。もしも何処かでデータの改竄や複製、不正アクセスが行われた場合、他のユーザーとの差異が発生すると不正が直ぐに検出される。つまり、ユーザー同士がネットワーク上で互いのデータをチェックし合うシステムを構築出来る。

Web3・0はOSを必要としない

  更に、現在、AndroidやiOS等のOS毎にアプリを開発しなくてはならず、中には、Androidでは利用出来るのにiOSでは利用出来ないというアプリも在るが、Web3.0では、特定のOSやデバイスに依存する事無くアプリやサービスを利用出来る。

 ブロックチェーンの基板上での仮想通貨はお金の役割を負う。現実での金融サービスはDeFiに置き換えられ、非代替性トークンであるNFTがデジタル資産の所有権を明らかにする。併せて企業等法人はDAOという分散型の自律組織となる。DAOは役員の居ない法人組織の様なもので誰でも平等に参加出来る。DAOを含む仮想空間を総称してメタバースと呼ぶ。

 21年にFacebookがメタに社名変更してからメタバースやNFTが注目される様になった。日本でも21年からWeb3.0等のブロックチェーン事業を成長戦略に位置付けている。メタバースという仮想空間の世界がこれから発展し普及すると言われている様に、それがインターネットだけの世界に留まらず、仮想通貨、スポーツ、音楽、芸術、ゲーム、自動運転、自治体等へ広がる可能性を秘めている。10年後、20年後にどう変わって行くか楽しみだが、その為の法的な環境整備が急がれる。メタバースとWeb3.0はイコールではないが、メタバースとWeb3.0の相性が良い事は確かであり、今後のメタバースの領域でWeb3.0の技術が受け皿となって行く事であろう。

政府は省庁を横断して環境整備を進めている

デジタル庁が22年にまとめたWeb3.0研究会の報告書によると、環境整備の問題点として①分散化により仲介者が不在となり、サービス・ツールの提供に係る責任の所在と規制のターゲットが曖昧となる、②自律性により、規制当局が介入してもサービス・ツールを停止できなくなる可能性がある、③匿名性により、規制当局による追跡可能性が失われる可能性がある、④耐タンパー性により、ネットワーク参加者の合意なく記録の修正や削除が不能となり、規制当局が介入しても事後補正ができなくなる可能性がある、⑤開放性により、許可なく誰でも開発可能・参加可能な環境となり、責任の所在が不明確になる——という点を指摘している。法や規制のみではコントロールが困難な領域が拡大しており、その執行可能性や役割を再考して行く必要性が明記されている。

 政府が描くWeb3.0の将来像は、既存の金融に於いて法定通貨が暗号資産・DeFiに、動産・不動産がNFTに、既存の組織形態である株式会社等が分散型自律組織であるDAOに置き換わるとしている。それらの活動空間としてメタバースが存在すると仮定している。

 Web3.0に係る政府の取り組みとして、金融庁は暗号資産の審査基準簡素化、会計基準の整備に向けて検討している。経済産業省は、これに関わる諸外国の税制調査や自己保有暗号資産を期末時価評課税の対象外とする要望を提出した。文化庁はNFTについて、著作権の普及啓発に係る事例創出に取り組んでいる。内閣府と経済産業省はNFTについて利用者保護の検討を行い、文化庁はクリエーターに利益を還元する事例を創出する。メタバースについて経済産業省は、実証空間設置と法的整理・規約類型整理、メタバースビジネスの法整備状況等の調査及びクリエーターエコノミーの観点からの課題等の海外調査に取り組んでいる。産業としてメタバースが発展して行く為の環境整備の在り方について、グローバル標準の重要性や利用者間の紛争が国境を越える可能性や、これに対する法執行の在り方といった課題がWeb3.0に於ける課題と重なっている。これらの共通の問題意識が同時並行で現実化する可能性が高い。内閣府や文化庁等の関係府省庁は、コンテンツを巡る新たな法的課題の整理や有識者による検討の場を設置している。総務省はアバターの在り方等、利用者の利便性を向上させる為の課題整理やユースケース毎のビジネス化課題の整理、利活用拡大の影響を調査している。

 併せて、Web3.0は活動が国境を超える事から、グローバルで通用するルールやコンセンサスの形成が重要となる。パブリックブロックチェーンの活用に関して、日本が主体的に国際標準化に貢献し、日本に於けるデジタル化の進展や身分証明書を始めとしたサービスの相互運用性や、国境を越えた信頼出来るデータ流通への応用を模索する必要がある。 何よりも優先すべき事は、信頼性確保の取り組みに注力しながら市場の成長を阻害しない様に留意する事である。国内の規制のみを先行させるのではなく、グローバルの動向を踏まえると共に、将来の環境変化に柔軟に対応出来る体制を構築する事が政府には求められている。そして、Web3.0がもたらし得る社会的・経済的便益に主軸を置き、情報発信を行う事が不可欠である。経済成長の契機としたい。

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