
通信技術の進歩は私達の生活を大きく変革した。そうした「IT革命」を支えるのが、コンピューター機器や通信、OS等のITインフラだ。IT関連の技術や機器の多くは、米国企業が市場を押さえているが、そうした総合IT企業の1つにデル・テクノロジーズが在る。嘗ては、カスタマイズ性の高い、法人向けPCのトップブランドというイメージが先行していたが、実は私達の社会を支える様々なシステムにデルの製品が使われており、電子カルテや診療機器も例外ではない。今後ITはどの様に医療の現場を変え、IT企業はどの様に医療に貢献して行くのか。デル・テクノロジーズの執行役員OEMソリューション事業本部長、筒井昭夫氏にITと医療の関わりについて話を聞いた。
——グローバルな視点と実行力で、デジタルトランスフォーメーションを牽引して来たデル・テクノロジーズ(以下、デル)の特長をお聞かせ下さい。
筒井 デルは現存する大手コンピューターメーカーで唯一、創業者のマイケル・デルがトップを務め続け、創業当初からの理念「ITで社会に貢献する」の下、成長を遂げて来ました。現在は、世界最大級のテクノロジー企業の地位を確立しています。コンシューマー向けのパソコン(PC)だけでなく、幅広い技術製品とサービスを提供する事で、グローバル市場で強固な地位を築いています。特にストレージ分野については、2016年にストレージのナンバーワンベンダーだったEMCコーポレーションを傘下に収め、当時は世界最大の買収と呼ばれました。その後、事業を大きく拡大して、PC、サーバー、ストレージそれぞれの分野で世界トップクラスの企業となっています。日本国内でも、ハードウェアやサーバー、ストレージとテクニカルサポート等のサービスを販売しています。
——ハードウェア以外の提供も行っているのですか。
筒井 顧客がデルの製品を最大限に活用してビジネスで成功して頂く為の、導入支援コンサルティング運用支援サービスを提供しています。他にOEMソリューション事業として、他社の機器やシステムの一部に製品を提供しています。例えば病院が医療システムを購入した場合、PCやサーバー、ストレージ等にデルのハードウェアが黒子として使用されているといったイメージです。
——日本の官公庁や企業が、日本企業に大型プロジェクトを発注した場合でも、実際の機器はデルの製品を使っているという事ですか。
筒井 25年3月現在、デルとOEMで取引をしているお客様は、日本で約300社強に上ります。顧客側が求めるシステムが高度になると、グローバルスタンダードの機器が必要です。そうなると、デル等の海外の製品を選択せざるを得ない状況になります。残念ながらIT業界で、日本発のグローバルスタンダードの製品やサービスは殆ど有りません。グーグルやアマゾン、マイクロソフト等、米国企業が世界を席巻しています。。
ダイナミックなビジネス環境が米国の強み
——日本市場に対してはどの様な経営戦略を立てていますか。
筒井 日本市場には3つの特徴が有ります。先ず、米国で誕生した革新的なテクノロジーをそのまま持ち込んでも直ぐには普及しない。これはスマートフォン等、その他の製品にも見られる傾向で、普及まで時間が掛かる。しかし、GDP世界4位の経済力が有り、ビジネスをする側から言えば、助走期間は長いものの、売れ始めると伸び率が大きい。2つ目は顧客から求められるサービスのクオリティの高さです。この為、私達も宮崎県に大きなテクニカルサポートの拠点を設ける等、多額の投資をしています。英語圏であれば、運営コストの安いフィリピンや中国等に拠点を開設出来るのですが、日本では日本語のサポートが必須です。3つ目は日本特有の商慣行で、メーカーと顧客の間にシステムインテグレーター(SI)と呼ばれる企業が入る。米国では顧客とメーカーの直接交渉は普通ですが、日本ではSIが企画や構築・運用の他、機種選定もサポートする為、メーカーに対して一定の発言力を持っている。日本ではNTTデータや富士通、NEC、日立製作所等が大手と呼ばれています。日本ではSIを介した方が、結果的に顧客の要望に応えられる可能性も高い。この為、顧客に直接販売もしますが、パートナー企業との連携も重視しています。。
——日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた頃は開発費用も有った筈なのに、何故IT分野で世界的な技術が生まれなかったのでしょう。
筒井 グローバル展開を試みた日本企業も有りましたが、残念ながら概ねどれも上手く行きませんでした。NTTドコモのiモードはスマートフォンに駆逐されてしまいましたし、今、メルカリが米国進出を目指していますが、苦戦を強いられています。只、楽天がモバイル事業で仮想化技術を使ったネットワークを構築しているのには、個人的に注目しています。そして、日本で世界的な技術が育たなかった主な要因は人材でしょうか。目下、IT業界の中心を担っているのは中国人とインド人だと言われていますが、優秀な外国人エンジニアらは、米国西海岸のシリコンバレーに集中し、日夜技術革新を担っています。彼らは新卒で年収20万ドル等と多額の報酬も受け取っている。今、日本で新卒の技術者に20万ドルの報酬を用意出来る企業は無い。日本にはそうした若く優秀なエンジニアへの投資をする体力が無いのが大きな要因だと思います。
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