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「都立病院機構」に期待されるスケールメリット

「都立病院機構」に期待されるスケールメリット

都立病院等15機関は一体的な運営に

東京都は10月、都立病院と公益財団法人東京都保健医療公社病院を地方独立行政法人化によって設立する法人の定款議案と条例改正案を、自民党と都民ファーストの会等の賛成多数で可決した。都立8病院に公社病院等を合わせた15の機関は2022年度から、都が100%出資して設立する独立行政法人「都立病院機構」の傘下に移行される。独法化後は15機関の一体的な運営により、スケールメリットを最大限に生かしつつ、適切に医療を提供していく事が期待されている。

 8つの都立病院は会計上は既に独立採算制を求める公営企業会計で扱われている。ただし、入院や外来の収益だけでは支出を賄えず、赤字が常態化。毎年都の一般会計から年間で合わせて約400億円が繰り入れられているが、これは年間収入の約4分の1に匹敵する。

 慢性赤字体質は根深く、2000年には時の石原慎太郎知事の下、「都庁改革アクションプラン」が策定された。そこでは都立病院改革の推進が謳われ、以後議論の俎上に載るようになった。

 都立病院の独法化は、08年にもいったん浮上したものの、当時は都議会の反発で立ち消えになった。17年からは、経営力強化をテーマに「都立病院経営委員会」が討議を重ね、「抜本的な経営基盤の強化策」の検討が必要と強調した。その具体案として独法化が提言された事で、独法化に向けた検討がなされるようになった。

 背景をもう少し詳しく見ていこう。

 民間病院が圧倒的に多い事は、日本の医療の特徴の1つである。公的病院は独法化されたものも含めて日本全国で約900病院、日本の病院数の11%、病床数でも14%にとどまる。

 言うまでもなく、公立病院は、公的病院のうち都道府県や市町村等地方自治体が開設した病院である。日本では第2次世界大戦後、民間病院に先駆けて、公立病院の整備が進められた。地方の市町村立病院の大半は小規模病院である。

独法化で迅速・効率的な経営管理

 公立病院には政策医療として救急医療や小児医療、災害対応等の不採算な分野を担う役割があり、母体となる自治体が一定の経費を負担している。しかし、病院の赤字拡大が自治体の財政を圧迫する事になり、収支改善は喫緊の課題となっている。

 公立病院改革は07年に遡る。総務省は同年、「公立病院改革ガイドライン」をまとめ、公立病院に対して、経営の効率化や再編、経営形態の見直し等の改革プラン策定を要請した。時の総務大臣は、前総理大臣の菅義偉氏である。管氏は、公立1000病院で年間に8000億円もの税金が無規律に投入されている事を問題視し、閣議の場で徹底的に改革したいと発議し、了承されたのだった。

 そして、経済財政諮問会議の答申と閣議決定により、公立病院改革懇談会が立ち上がった。政権交代を挟む事になったが、経済財政諮問会議は内閣府設置法に基づく組織で、答申は国と自治体に対して強制力を持ち続けた。

 地方によっては、診療所への転換、統合・再編、そして独立行政法人化に取り組む病院も見受けられるようになった。独立行政法人は、03年7月に制定された地方独立行政法人法に基づくもので、各自治体の判断で、病院以外に大学等の独法化も進められている。総務省によれば、21年4月時点における地方独立行政法人の数は大学が80、病院が63、試験研究機関が11等となっている。

 07年のガイドラインで独法化された公的病院のうち、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構の日本海総合病院と地方独立行政法人那覇市立病院は、その模範とされ、総務大臣から優良病院として表彰されている。

 公立病院改革の経営形態には、独法化以外のスキームもある。ただし、地方公営企業法の全部適用は、改革のふりをするだけで、医師の偏在等医師・看護師不足に対しては無力とされる。また、指定管理者制度は公の責任を放棄した安易な政策と批判されている。いったん指定管理者制度にすると後戻りは難しいため、弱い立場の自治体に負担増を求める事が多く、契約履行出来ない事例が続出した。このため、独法化が望ましい経営形態だとされる。

 では、地方独立行政法人化の成果には、どのようなものがあるだろうか。全国地方独立行政法人協議会の資料によると、まず、諸制限撤廃によって成果がもたらされる利点がある。業務契約方法は縛りがなくなり、多様化させられる。人材確保も自由になり、プロパーの職員も採用出来るようになる。人事体系も自由になる。

 加えて、独法化をきっかけとした意識変化による成果も得られる。業務や打ち合わせの効率がアップし、より迅速な意思決定が可能になる。更に、経営マインドが醸成されると言う。

 さて、都立病院に戻ろう。都立の8病院は都庁の一組織であるため、人事や予算等は硬直的である。事務職員には頻繁な異動があるため、病院経営に関する専門性を身につける事は難しい。

 合わせて約7000人いる職員は、独法化により公務員でなくなる。医療従事者を含む職員の定数や採用、人事や給与の体系等は独自に取り決める事が出来るようになる。物品や資材の購入等は、経費設定が自由に出来ない事から、無駄が多いとされている。行政の予算が単年度主義のため、複数年契約による経費節減といったやり繰りが出来ないためだ。赤字に補填のない民間病院ではコスト削減を徹底せざるを得ないが、業者は都立病院でそのしわ寄せの帳尻合わせをしていると言われる。

 意思決定が迅速化し、人材を安定的に確保し、弾力的で効率的な経営管理が出来るようになれば、経営の黒字化も見込めるだろうというのが、独法化の肝である。目標設定や業績評価もしやすくなる。

 しかし、独法化は良いことずくめではない。例えば、公務員でなくなれば、職員の離職が増える恐れがないとは言えない。また、不採算部門が切り捨てられるのではないかという懸念が付きまとう。更に効率を重視するあまり、現場には過重な労働が強いられる可能性も指摘されている。事務負担は増加し、場合によっては、行政から改善命令等が出される事もあり得る。

 都は、新型コロナへの対応に際し、都立・公社病院を専用病院に切り替えて病床を確保してきている。コロナ禍において、独法化して一般会計からの組み入れ金が削減されれば、医療崩壊を加速させる恐れがあると懸念の声が出されていた。実は20年には「新公立病院改革ガイドライン」が出される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大等から、病床削減は事実上延期されている。

負の側面に対する監視機能強化は必要

 定款案が都議会に提出されたのは、第5波の真っ只中にある21年7月で、行政的医療の提供を続ける事、災害等が発生した時には、知事の指揮の下で医療を提供する事等が明記されている。不採算部門は、当然ながら市場メカニズムにはなじまず、都民の安全を確保する事は当然と言える。例えば、株式会社の病院経営の議論が出るたびに、倫理的配慮への懸念が繰り返される。しかし、株主の監視の下、企業は非営利組織以上にコンプライアンスを重視した運営をしているのではないかと考えられる。

 独法化は必定の流れとしても、機構運営の監視機能については強化が望まれる。機構の理事長等は、都知事によって任命される。住民の監査請求権については規定がないが、密室で経営が進められないよう、注視していかなくてはならないだろう。

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