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未来の会

第4回「精神医療ダークサイド」最新事情 「検出不能」な感覚異常に苦しむ人々

第4回「精神医療ダークサイド」最新事情 「検出不能」な感覚異常に苦しむ人々
AIに負けない人間的医療とは

 「検査では問題ありません。精神科を受診してみては」。医師たちのそんな一言で、どれだけ多くの患者が苦しめられてきたか。検査で分かる事には限界があるのに、数値や画像の異常がないと「心の問題」にされる。その結果、見当違いの診断で精神科治療が行われ、病状がますます悪化することもある。

 私が以前に取材した脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)も、「精神疾患」や「詐病」などとされてきた病気のひとつだ。学会や行政を巻き込んだ患者団体の活動で診療指針ができ、2016年には治療法が保険適用となった。多くの医師が否定した病気が、実は「あった」のだ。

 だが、そもそも「測定不能」で「写らない」病気である精神疾患は、薬の副作用被害までも「心の問題」にされてしまう。

 東京都内の30代の男性、黒田浩二さん(仮名)は、ベンゾジアゼピンの断薬をきっかけに羞明や眼痛、身体痛が強まり、10年以上も苦しんでいる。日光が目に入ると「視野が真っ白になって何も見えなくなる」だけでなく、夜間に視野の隅から差し込む車のヘッドライトなどでも羞明や眼痛が起こるので、1日中外に出られない。

 唯一、自宅リビングの隅だけは、立った状態で目を閉じていれば照明下にいられる。ただ、椅子に座ったり立ち位置がずれたりすると羞明が起こるので、壁に寄り掛かったまま動けない。自室の窓には厚いカーテンを引き、テレビの音声や音楽を聴いて過ごす。スマホもパソコンも使えない。若くして骨粗しょう症と診断されるなど、光遮断生活の弊害にも悩まされている。

 黒田さんを診察した井上眼科病院名誉院長の若倉雅登さんは、「ベンゾの長期使用で発症した中枢性の羞明と考えられる。医師たちは、眼球に異常がないと『ウソ』や『心の病』にしがちだが、彼に疾病利得はなく、激しい羞明で明らかに苦しんでいる。脳と眼球を切り離して考える今の医療のあり方こそが、科学的ではない」と訴える。

 睡眠薬や抗不安薬として日本で多く使われてきたベンゾは、長く使うと羞明などの目の異常を引き起こすことがある。断薬後もすぐに治らなかったり、断薬で症状が強まったりする例もある。黒田さんは副作用救済の障害年金をPMDA(医薬品医療機器総合機構)に請求したが、不支給の通知が届いた。

 納得できず、厚労省に出した審査の申し立ても棄却された。同省はその理由を「重篤な症状が遷延することは稀である」などとした。「稀」だから無いことにする解釈は、非情極まりない。

 しかし、新たな動きもある。患者や家族に加え、彼らと真摯に向き合う医師たちの多方面への働き掛けが実り、同省が昨年度、「羞明等の症状により日常生活に困難を来している方々に対する調査研究」を実施したのだ。100人以上の患者にアンケートやヒアリングを行い、ADL(日常生活動作)の著しい低下が明らかとなった。

 同研究に協力した若倉さんは強調する。「現代の医療は、患者の感覚的な訴えを『検出不能』『バイオマーカーがない』などの理由で切り捨ててきた。しかし羞明に限らず、脳の異変が原因とみられる感覚の異常は多い。少数のウソつきが紛れ込むのを防ぐために、苦しむ患者を見捨ててはいけない。医師は、患者の訴えに誠実に耳を傾けるべきであり、それこそがAIには真似できない人間的な医療になる」。


ジャーナリスト:佐藤光展

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