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第3回「精神医療ダークサイド」最新情報 1万人で高止まりの身体拘束

第3回「精神医療ダークサイド」最新情報 1万人で高止まりの身体拘束
虐待防止法の改正が欠かせない

 大事なニュースを広く伝えるために重要なのは「数字」だ。インパクトのある数字が入った見出しは必ず注目される。うつ病の患者数が国内で急増し、過剰な診断が指摘され始めた頃、私は読売新聞(2010年1月6日朝刊)で特集記事を書いた。

 「『うつ100万人』陰に新薬?」「患者数10年で2・4倍」

  ストレス社会の深刻化だけでは説明できないうつ病の異様な増加には、それ以前から注目して記事を書いていた。だが、反響は今ひとつだった。05年の患者調査では、うつ病など気分障害の患者数が90万人を超え、3年後の次回調査での100万人突破は確実と思えた。そのため、08年の調査結果を待ちながら取材を進め、公表と同時に記事にした。

 反響は絶大だった。「うつ100万人」のフレーズは、安易な診断への批判的ニュアンスを伴って広まり、患者数の増加は鈍化した。抗うつ病薬の使用者を増やしたい製薬会社の無責任なうつ病キャンペーンにも歯止めがかかった。

 だが、超常現象的な数字の増加は、精神科領域にはつきものである。今度は、精神科病院での身体拘束数が2010年代に急上昇した。そこで私は、全国の精神科病院での身体拘束数が1日当たり1万人を超えたと分かった直後に記事を書いた。

 「身体拘束1万人」のフレーズが社会に広がった。拙著『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』(講談社)で紹介したような、看護師の努力で身体拘束を劇的に減らした病院の取り組みなどが注目されるようになった。

 しかし、身体拘束数は今も高止まりしている。その理由を「医師や看護師の配置が他の診療科より少ないので仕方がない」と説明する関係者は多い。だがそれは、「本来は拘束しなくて済む人まで、忙しいから縛っている」と告白したようなもので、精神保健福祉法に基づく身体拘束の要件に反している。少ない人員でもできる限りのサービスを提供することで、精神科の評価は高まり、結果的に人員増につながる。ところが精神科病院の多くは「安かろう、悪かろう」の医療に甘んじて、雑なサービスしか提供してこなかった。

 その結果、雑を通り越して犯罪にまで至ったのが、昨年、神戸市西区の神出病院で発覚した患者虐待事件だ。看護師ら6人が入院患者に卑劣な虐待を繰り返し、周囲は見て見ぬふりを続けた。

 この事件を受けて、神戸市議会は昨秋、国に「障害者虐待防止法」の改正を求める意見書を採択した。医療機関の職員らが虐待を発見した場合、市町村への通報を義務付けるべきだと考えたのだ。

 現行の虐待防止法は、福祉施設や会社には虐待発見時の通報を義務付けているのに、医療機関は外されている。この法律を通す際に、医療関係者らの反発で除外されたと聞く。精神科だけでなく、身体拘束などの法的な決まりがない身体科からの反対の声もあったようだ。

 身体拘束は、必要な「身体抑制」か、それとも「虐待」か、線引きが難しい例もあり得る。だが、行動制限をグレーゾーンのまま放置することは、水面下で続く虐待に目をつぶる行為に等しく、許されない。医療機関にも通報義務を課す虐待防止法の改正など関連法規の整備が急務であり、患者団体などの動きが活発化している。


ジャーナリスト:佐藤光展

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