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未来の会

税の公平性を崩す損税負担

税の公平性を崩す損税負担
個々の医療機関の努力ではどうすることもできない

病院経営は冬の時代が続いている。その原因の1つが、2014年に消費税が5%から3%引き上げられ、8%に増税されて以降の、いわゆる控除対象外消費税(損税)問題がある。診療収入の大半は非課税の扱いだが、収入を得るための医療機器や医薬品の代金などのコスト分には消費税がかかり、増税分は医療機関が負担せざるを得ない。この損税分を考慮して診療報酬に上乗せがされているが、医療機器や医薬品の割合が大きい領域ではカバーできない。経営悪化に拍車がかかる中、今年10月には10%への消費税増税が予定されている。

 改めて損税のメカニズムを解説しておこう。消費税は、顧客となる消費者から預かった仮受消費税額から、仕入れ業者に支払った仮払消費税額を控除し、その差額を納める仕組みになっている。事業者は消費税を負担するのではなく、消費者が負担した税金を事業者が預かり、消費者に代わって事業者が納税するわけだ。事業者は消費者に代わり、仮受けした消費税の差額を納める。

自己負担せざる得ない理不尽な仕組み

 本来であれば、医療機関が納める消費税の額がマイナスになれば、税金は還付されるはずである。しかし、税法上は、預かった仮受消費税から控除できる仕入税額控除は、支払った仮払消費税に課税売上割合を乗じて決まる。医療機関の場合、収入の大半は社会保険診療報酬収入で非課税とされているため、仕入業者に支払った消費税のごく一部しか控除できないことになってしまう。

 一括比例配分方式により、仮に、課税売上割合が10%であれば、仕入業者に支払った仮払消費税の10%しか控除できない。つまり、仕入事業者に支払った消費税の90%は医療機関自身が負担しなければならなくなるのだ。

 税法上、医療機関が負担した消費税を控除できないのであれば、診療報酬を上積みして補填されなくてはらならない。建物建て替えや、高額医療器械の購入などでは、支払う消費税も多額になる。支払った消費税を控除できずに、損税を医療機関が自ら負担するので、本来中立であるべき税の公平性が損なわれている。

 ある病院の具体的な事例を見てみよう。A病院の課税売上高は5億4000万円(うち消費税4000万円)、非課税売上高は20億円で、課税売上割合は20%となる。課税売上高が1000万円超なので消費税納税義務が発生する。

 消費者から受け取った消費税4000万円から、それに対応する支払消費税を控除することで、納税すべき消費税額が算定される。A病院が仕入業者などに支払った消費税は7200万円だが、受取消費税から控除できる金額はこの20%に相当する1440万円にすぎず、差し引きの5760万円は控除対象外の消費税として自己負担しなくてはならない。

 一方には、本来負担すべき納税が免除ないし軽減される「益税」もある。課税売上高が年間1000万円以下の場合、消費税法上、免税事業者の扱いとなり、消費税納付が免除される。免除された事業者が消費者に対して、課税対象の物品やサービスを消費税を上乗せした価格で提供すれば消費税分はそのまま利益となる。また、簡易課税制度により、課税売上高が年間5000万円以下の場合、仕入税額控除をみなし仕入税率で算出することを認められており、益税が発生することもある。

 損税の本質的な解決にはならないが、かつては高額医療機器を購入した場合、簡易課税でなく、本則課税を選択した方が、仕入税額控除が増加して節税になることがあった。しかし、2016年度の税制改正により、高額特定資産(税抜き1000万円以上)を取得した場合、原則3年間は簡易課税制度の適用を受けることや免税事業者になることが禁止された。このため、高額資産の取得年には本則課税で節税し、翌年以降の簡易課税制度を選択するという節税方法は選択できなくなっていることにも注意したい。

医療界は申告で補塡の過不足対応を提言

 消費税率8%への引き上げに伴い、診療報酬の補填不足が明らかになっていることから、2018年8月、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会と四病院団体協議会は、消費税率10%への引き上げに向けて、「控除対象外消費税問題解消のための新たな税制上の仕組みについての提言」を発表し、実現に向けた働き掛けを行っている。

 提言では、これまで同様に診療報酬で損税を補填する手法を維持しつつ、10%への引き上げ時には、個別の医療機関ごとのバラツキを検証して是正する新たな仕組みを提案。「診療報酬本体に含まれる消費税補填相当額(消費税補填額)」と、「負担した控除対象外仕入れ税額(医薬品・特定保険医療材料を除く)」を比較、申告により補填の過不足に対応するというものだ。

 また、これまでの消費税補填額を把握する手法も提示された。税率5%までの消費税補填額については、診療報酬本体部分の上乗せ率0.43%(1989年0.11%、97年0.32%)を基本として、医科、歯科、調剤の上乗せ率をそれぞれ計算する。2014年の消費税率8%に引き上げ時は、初診料、再診料、各入院基本料などに消費税対応分が上乗せされて、各点数に個別の医療機関などの算定回数を乗じたものを消費税補填額とされた。10%引き上げ時にも、2014年度診療報酬改定と同様の対応を求めている。

 一方、厚労省は2018年8月、2019年度税制改正要望制を公表した。医療に係る消費税などの税制の在り方について、特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘なども踏まえ、「医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ検討を行い、この税制上の問題の抜本的な解決に向けて、個別の医療機関等の補てんの過不足について、新たな措置を講ずる」ことを求めている。

 2018年末に閣議決定された2019年度与党税制改正大綱では、医療に係る消費税の在り方について、「医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ、2019年度税制改正に際し、税制上の抜本的な解決に向けて総合的に検討し、結論を得る」ことが明記された。

 これらは、補填の布石となるはずだ。秋以降、次期診療報酬改定に向けた議論が本各化する中で、医療界からの要望を受けた損税対策の行方に注視したい。

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