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ビッグデータを医療に活用する 「AI創薬」の現状とこれから

ビッグデータを医療に活用する  「AI創薬」の現状とこれから
田中 博(たなか・ひろし)1949年大阪府生まれ。81年東京大学医学系大学院博士課程修了、医学博士。82年東京大学医学部講師。83年東京大学工学系大学院より工学博士。82〜84年ウプサラ・リンシェーピング大学(スウェーデン)客員研究員。87年浜松医科大学医学部医療情報部助教授。90年マサチューセッツ工科大学人工知能・計算科学研究室客員研究員。91年東京医科歯科大学難治疾患研究所生命情報学教授。2003年同大学大学院疾患生命科学研究部教授。15年同大学名誉教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構機構長特別補佐。17年東京医科歯科大学医療データ科学推進室室長・特任教授

戦後医療に3度目の革命が起きつつある。1度目は抗生物質の発見、2度目は分子生物学が臨床医学に応用されて分子標的薬が登場した。そして、ビッグデータ医療が3度目の革命と言われている。ゲノム解析やウェアラブルセンサーの登場で、膨大なデータ収集が可能になり、医療が大きく変わると期待されている。ビッグデータを人工知能(AI)で処理することで、創薬にも大きな変化が訪れるという。

——AIが注目されていますが、医療も変化しそうですね

田中 これまでにもAIのブームは何度かあり、1980年代にも世界中で話題になっていました。ただ、今注目を集めているのは、AIが以前とは異なるレベルに達したからです。囲碁で名人に勝ったAIもそうですが、現在のAIは人間の知識を学んで推論するというやり方ではなく、膨大なデータを入れて、そこから自分で学習して結論を出してきます。囲碁AIは、囲碁の定石を覚えるのではなく、3000万回も自分との対戦を繰り返し、そこから勝つ方法を学んでいきます。人間の棋士の対戦回数は、せいぜい年間500回くらい。つまり、6万年も囲碁をやっている人と対戦するようなものですから、勝てなくて当たり前なのです。現在注目されているのは、そういったAIです。

——それが医療にも活かされるようになった?

田中 今のAIは人間の知識を与えなくても、膨大なデータから自分で特徴を見つけ出し、結論を導き出します。これまでの医療は、人間の考えの枠組みの中で進歩してきました。囲碁の分野で定石を覚えて学ぶように、積み上げてきた枠組みの中で進歩してきたのです。創薬に関しても同じです。これからビッグデータの時代になり、AIが活用されるようになると、これまでの医学の常識がひっくり返されるようなことが出てくるでしょう。これまでの医学知識は、土台の上に積み上げられてきたものなので、その枠組みを超えることはなかなかできませんでした。ごくたまに天才が登場し、枠組みを超えてくれる。しかし、これからはAIの時代ですから、いつでも天才がいるようなものです。これまで人間が考えたこともなかったような医学知識や新しい薬が、次々と生まれてくるのではないかと期待されています。

——それにはビッグデータが必要なのですね。

田中 そうです。今、医療はビッグデータ時代を迎えようとしています。次世代シーケンサでゲノム情報を収集できるようになり、バイオバンクなどで情報が蓄積され、モバイルヘルスによるウェアラブルセンサーの発達で超長時間の生理データを集めることが可能になりました。こういう膨大なデータが蓄積されることで、まさにビッグデータ時代の到来となったわけです。当然、医療も大きく変わりますし、創薬も変わります。

 

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