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「社会医療法人」について考える

「社会医療法人」について考える
幅広い事業から得た収益を   医療・介護などの本来事業へ充てられる

2007年の第5次医療法改正に伴う医療法人制度の改革で、「公益性の高い医療」の担い手として新設された類型である社会医療法人は、300近くにまで増えている。

 2008年7月に認定された社会医療法人カレスサッポロ(札幌市)では、2019年4月から、新たにホテル事業への参入をスタートさせる。通常の医療法人が取り組めない収益業務も認められるのが、社会医療法人の特徴でもある。

 同法人は、札幌市内で北光記念病院(145床)や時計台記念病院(250床)を経営、福祉事業だけでなく、不動産業、教育・学習支援業も展開している。

 2019年4月に同法人が開業準備を進めているのが高級リゾートホテル。旧そごうが1993年に洞爺湖温泉に建設した社員向け保養施設で、2017年に取得して改築を進めていた。全17室の客室に源泉かけ流しの露天風呂を設置、料理にも工夫を凝らし、国内外の富裕層を当て込み、宿泊料金は1泊12万円程度を見込んでいる。

 さらに、同グループの病院職員向け福利厚生施設や、同グループが運営する介護老人保健施設や地域包括ケア拠点施設のサービス部門などとしても活用が予定されているという。

 同社の決算は第24期(2018年3月)で施設の総収益が99億3500万円、経常利益は3億9800万円と報告されている。2017年に開設した地域包括ケア拠点施設は、住宅型有料老人ホーム、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、デイサービスセンター、定期巡回随時対応型訪問介護看護事業所を併設し、1年で軌道に乗せた。

 自己資本比率34%を確保しており、厚生労働省が病院経営法人の指標に掲げる20%をはるかに上回り、健全経営を続ける。今後は、札幌中心部に国際医療センターを建設する計画もあるという。

維持困難な「公益性の高い医療」を確保

 改めて、社会医療法人とはどういうものか。

 医療法人は、本来は非営利が原則で、本来業務である病院経営に関する業務、附帯業務とされる介護事業など限られた業務しか行うことが許されない。

 しかし、社会医療法人は、公益性を担保する条件を満たし、都道府県知事のお墨付きを得られれば、幅広い事業から得た収益を医療・介護などの本来事業へ充てることができる(医療法42条の2)。

 背景には、維持していくのが困難な事業である「公益性の高い医療」を確保しようという狙いがある。公益性の高い医療には、休日診療,夜間診療などの救急医療、周産期医療を含む小児救急医療、へき地医療・離島医療、重症難病患者への継続的な医療、災害医療、精神救急医療、患者の早期社会復帰に繋がる医療連携、先進的な医療安全や疾病への取り組み、などが含められる。

 これらは従来、自治体病院に頼らざるを得なかったが、地域によっては、自治体病院の慢性的な赤字体質や医師の偏在などで、こうした分野を担い切れなくなっている。このため、厚労省では、民間の医療法人のノウハウを活用することで、効率的に運営することを目指している。

収益性安定の一方で、厳しい認定要件

 社会医療法人は、採算性に見合わない医療分野を担うことにもなりかねず、自治体病院に投入されていた公費が回される。さらに、「公益性の高い医療」での損失を補填できるよう、診療報酬や介護報酬だけに頼るのでなく、手掛けられる事業が大幅に規制緩和された。

 具体的には、農業、林業、水産業、運輸業、卸小売業、不動産業、民宿宿泊業など、13の収益事業が許される。さらに経営の自立性を持続するため、公募による法人債も発行でき、収益基盤の安定化を図ることができる。

 一方で社会医療法人は、組織としての中立性を保つため、同一親族内での役員選出への制限といった経営体制への要件や、公益性の高い医療に取り組むための医療提供体制の構築など、認定には厳しい要件がある。

 税法上は公益法人等になるが、優遇税制の適用が受けられる。例えば、医療保健業により生じる所得は、法人税が非課税となる(附帯業務や収益事業は課税対象)。

 また、救急医療等確保事業のために供する不動産は、固定資産税及び不動産取得税が非課税。相続税の負担がなくなり、持分なし医療法人は持分払戻し請求がなくなる。

 持分の定めのある社団医療法人から社会医療法人へ移行する際は、出資持分を放棄して持分なしにするため、出資持分に対する相続税は発生しない。同様に、社員退社に伴う持分の払戻請求もなくなり、経営上の財務的リスクを軽減できる。

 医療の非営利性を保ったままで、経営の透明化と効率化、さらには地域医療の安定化を目指す制度とされている。また、公益性の高い医療を展開し、かつ経営的にも安定しているというイメージの良さが、医師やスタッフの獲得に有利に働くことも期待されている。

 一方でデメリットと考えられているのは、同族運営ができなくなること。社員・役員とも、それぞれ同族関係者の比率を3分の1以下としなければならない。

 また、毎年度、一定基準以上の救急医療等確保事業を続けていかなければならない。出資持分払戻し請求権、残余財産分配請求権もなくなる。

 法人債を発行している場合には、金融商品取引法の規制を受け、監査を受ける必要がある。もし認定取消となると、法人税が課税されなかった医療保健業に係る累積所得に対して、一度に法人税などが課されることになる。

 収益事業については、社会保険診療報酬に係る収入金額が全収入の80%超と制限され、法人全体の事業収入の20%以内の範囲でしか認められない。

 もし法人の年間売り上げが10億円であれば、2億円を超える収益事業はできず、ある程度収入が多くなければ大規模なビジネス展開は難しい。全体の事業規模が大きな社会医療法人には有利な制度と言える。

 さて、積極的に多角化を進めるカレスサッポロは、自己資本比率を一般企業で優良とされる53%以上に高めたいという。元々ノウハウに長けた法人が多角化にも成功しているとも言える。中小規模の病院が、全く畑違いのビジネスに乗り出すことは難しいが、医療を核にして、医療ならではの付加価値を最大限に発揮すれば、予防や健康増進を謳うビジネスなどに活路が見出されるかもしれない。

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