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日銀「異次元の金融緩和」に出口、未だ見えず

日銀「異次元の金融緩和」に出口、未だ見えず
引き延ばすほど経済へのダメージは計り知れなくなる

日本銀行は7月30日から31日にかけて開催した金融政策決定会合で、長期金利の誘導目標を「金利は経済・物価情勢などに応じて上下にある程度、変動し得るものとする」(日銀総裁の黒田東彦)と決定した。

 これについて『朝日新聞』7月31日付夕刊は、会合も終わらないうちから「日銀、金利上昇を容認」というタイトルの記事を一面で掲載し、サブタイトルは「大規模緩和を修正」と打った。しかし、翌日の各紙朝刊が「緩和継続」と報じたように、「修正」との見出しは正確ではない。

 黒田が記者会見で「金利上昇を容認」するとした変動幅は、「0・2%〜マイナス0・2%」程度であり、「修正」というより、長期金利(10年物国際の流通利回り)を0%程度にするという目標を「変えたものでは全くない」と言明したことの方が重要だろう。さらに黒田は、これまで6回時期を先送りした「2%の物価上昇率目標の達成」に向けた現在の緩和策続行を強調し、同時に「早期に出口に向かうとか、金利が引き上げられるのではないかという観測」を否定した。

 各紙とも黒田の発言をほぼ無批判に報じたが、5年以上になる「異次元の金融緩和」が常態化することの問題点を正面から指摘する論調は乏しかった。本来であれば「出口、未だ見えず」というタイトルがうたれてもいいはずだが、そうならなかったのは新聞の質の劣化というしかない。なぜなら本来、「異次元」と形容されるほどの量的金融緩和は期間が限定された政策だからだ。

 米国では、2007年から09年にかけてのサブプライム金融危機で株価が暴落した際、連邦準備制度理事会(FRB)が異例の金融緩和政策を発動して危機を回避した。その後、FRBは6月に今年2回目となる利上げ(0・25%)を実施。短期金融市場を操作する目的で調整するフェデラルファンド金利の誘導目標を、1・75〜2%に設定した。欧州中央銀行(ECB)も量的金融緩和政策を導入したのは日本の後だったが、6月に同政策にあたる国債など資産買い取りプログラムを12月末で終了する方針を決めている。

利上げが進めば国債・株・円は暴落

 だが、日本では安倍晋三が首相に返り咲いてすぐの13年に円安とインフレの誘導を狙って、日銀総裁の座に就けた黒田に大幅に拡大した量的金融緩和を実行させたものの、結果的にインフレ誘導には失敗したのに、依然として「出口」についての論議すら満足にない。このままだと、金利が高い欧米に世界のマネーが向かい、否が応でも日銀は金利を上げなければならなくなる。

 しかも国内では、今や低金利政策によって地銀80行中、49行が18年3月期決算で赤字か減益となり、破綻する金融機関が出てきてもおかしくない。メガバンクですら業務純益を大きく減少させ、金融機関の負担が累積的に拡大している以上、金利の修正は避けられない。ところが懸念すべきは、永遠ではあり得ない「異次元の金融緩和」が、既に「ネズミ講」のように止めたくても止められないという現状にある。

 例えば、15年末の国の借金の残高(一般政府債務残高)は対国内総生産(GDP)比で248%となっており、米国の2倍以上という先進国でも最悪の財政状況だが、それでも金利が上昇しないのは、言うまでもなく3月末で保有残高が約459兆円に達するほど日銀が国債を爆買いして金利を強制的に低く抑えているからだ。もし「出口」に移行すれば、こうした国債爆買いという「禁じ手」は使えない。ところが、利上げが進めば国債や株が暴落し、円が暴落するのは確実だ。しかも国債を貯め込んだ日銀は、利払いが利息を上回る「逆ザヤ」に陥る。その結果何が起きるのか、想像するだけで恐ろしい。

 黒田日銀はこれまで、「独立性」という建前をかなぐり捨てながら、見え透いた人気取りに終始する安倍とその政権の生命維持装置となることに躊躇してこなかった。だからこそ、実体経済と離れた「株価高」という官製相場演出のために株価指数連動型の上場投資信託(ETF)を年6兆円のペースで買い入れたのだろうが、3月末までの時価総額は約24兆5000億円である。それが暴落を余儀なくされたら、日銀の損失となるのだ。

 もっとも黒田個人とて、こうした悪夢のような「異次元の金融緩和」の末路をどこかで意識していないはずはない。だが、達成時期を明記するのは放棄したものの、自身の責任問題になるので「2%の物価上昇率目標」を今になって断念するのは不可能だ。しかも、期待される追加緩和余地などあるはずもないから、結局は「継続」ということに落ち着いたのだろう。しかし、「出口」までの時間を引き延ばせば引き延ばすほど、経済へのダメージは計り知れなくなるのは自明ではないのか。

「第2のアベノミクス」は有名無実化

 日銀の国債買いで低金利となり、その結果、安倍のバラマキ予算で来年度当初予算の概算要求案は5年連続で100兆円を超えるのが確実なほど、財政規律が弛緩している。次世代が被る借金はさらに膨れ上がり続けるが、財務省の試算だと金利が1%上がっただけで、実に3兆円も当面の利払い費がかさむという。もうバラマキどころか、予算を組むこと自体が困難になるのだ。

 しかし、こんなことを黒田にやらせる一方で、安倍が15年10月に「第2のアベノミクス」と公言した①「希望を生み出す強い経済」(GDP600兆円)②「夢を紡ぐ子育て支援」(出生率1・8%)③「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロ)という「新3本の矢」とやらは、その後どうなったのか。

 このうち①は、姑息にもGDPの算出基準を変えて約5兆円もかさ上げしたものの、現在その3分の2程度。しかも、国際通貨基金(IMF)が7月に発表した『世界経済見通し』(改訂版)によると、米国、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、英国を含めた8カ国中、日本は18年度経済成長率の予想値で1・2%とイタリアに次ぐ最下位で、来年も0・9%とやはり最下位だ。どこに「希望」があるのか。②③については、論ずるのも空しいゼロ成果でしかない。その翌年の16年6月になって、安倍は「日本再興戦略改訂版」(新成長戦略)を打ち出したが、これまでのところ、新たに「成長」した産業など皆無だ。

 できもしない話を次から次と吹聴するあたりは、これまでさんざん見せつけられてきた安倍特有の虚言癖の産物なのか。だが「異次元の金融緩和」はこのままだと虚言で済まず、日本経済が直面したことがない深刻な危機をもたらす。15〜64歳の生産年齢人口が7000万人まで落ち込むのに、65歳以上の高齢者が3500万人を突破するという世界の近現代史で例がない「2025年問題」の対応どころではない。国民は、座してアベ・クロがもたらす大惨事に翻弄されるつもりなのか。(敬称略)

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