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「オンライン服薬指導」全面解禁にクリアすべき課題

「オンライン服薬指導」全面解禁にクリアすべき課題
日本薬剤師会は「解禁ありき」の議論に慎重な姿勢

調剤薬局の薬剤師がスマートフォン(スマホ)など情報通信機器を使用し、自宅など離れた場所にいる患者に薬の飲み方などを説明する「オンライン服薬指導」。6月に国家戦略特区に指定されている3地域で解禁され、厚生労働省は公的医療保険を適用することを決めた。厚労省は特区以外にも認める内容を医薬品医療機器法(薬機法)改正案に盛り込むことを検討し、来年の↘通常国会で提出を目指している。4月の診療報酬改定で認められた「オンライン診療」と組み合わせることで、特区内では在宅で全ての医療サービスを受けることが可能になった。ただ、一部の業界団体は「対面による服薬指導が基本で、認めるのは特区での実証を行ってからだ」と「オンライン服薬指導」の全面解禁には慎重な姿勢をみせており、法改正までスムーズに進むかは不透明な状況である。

患者負担は費用の1〜3割で済む

 現在の一般的な服薬指導では、薬剤師が患者に対して薬の服用回数や服用量などの基本的な情報を伝え、副作用の有無、他の薬との飲み合わせも確認する。こうした指導を対面ではなく、スマホやパソコンなどを通じて行うのが「オンライン服薬指導」だ。ただ、法律上は対面での実施が義務付けられており、6月の政府の規制改革推進会議で特区に指定された3地域のみの実施が認められた。特区となった愛知県、福岡市、兵庫県市で「オンライン服薬指導」はスタートしており、患者の通院する負担が軽減される。7月の中央社会保険医療協議会(中医協)でも「オンライン服薬指導」について、患者は少なくとも1回は対面指導を受けることなどを求めた上で、従↖来の対面指導と同じ点数で保険を適用することを認めた。「オンライン服薬指導」の患者負担は費用の1〜3割で済むメリットを享受できるようになった。

 具体的には、特区では患者が離島やへき地に居住して医師の「オンライン診療」を受けており、薬剤師との対面が難しい場合に限り、オンラインでの服薬指導を認める。7月の中医協での公的医療保険適用の承認を受けて、福岡市の志賀島に住む女性患者が「第1号」として服薬指導を受けた。福岡市は対象とする患者に特区要件に沿って三つの条件を付けている。それが、①居住する小学校区内に調剤薬局がない②最寄りの調剤薬局が学区の中心から4㌔以上離れている③調剤薬局への公共交通機関の本数が1時間に1本以下——である。第1号に認定された女性は、これまで薬剤師が往復で約2時間かけて服薬指導していたという。ただ、条件が比較的厳しいため、市では「要件に当てはまる患者はかなり少ないのではないか」とみている。

 一方、オンラインでの診療は既に全国レベルでスタートしている。高齢化の進展による在宅医療のニーズの高まりなどを背景に、厚労省は2015年にへき地や離島など一部地域に認めていたオンライン診療の全国での実施を事実上、解禁する通知を都道府県に出した。しかし、全国的に広がらないため、政府は成長戦略の一環として、4月の診療報酬改定でオンライン診療は機器を使って離れた場所の患者を診察することと定義して報酬を新設、普及を後押しした。対面診療での再診料にあたる「オンライン診療料」(月に1回算定)は70点(700円)、患者に指導した場合などに算定される「オンライン医学管理料」は100点(1000円)となった。

 これに伴い、オンライン診察の基準も新たに設けられた。①初診は原則禁止②同じ医師が半年以上診察し、3カ月に1回の対面診療③新たな薬を処方する場合も対面診療④頻度や急変時の対応などの診療計画を作り、事前に患者と合意しておく⑤情報漏出を防ぐ十分なセキュリティー対策を取る⑥望ましい活用方法として「生活習慣病患者の定期的な通院の一部代替」を例示——など。中医協で「患者の息遣いや表情を見るのも医療だ。スマホで状態だけで確認するのはいかがなものとか」といった懸念に配慮したもので、要件は厳しいが、通院が難しい人や忙しいサラリーマンなどが、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の定期的な受診をオンラインに切り替えることを厚労省は想定している。

福利厚生としてのオンライン診療

 福利厚生の一環として、オンライン診療の活用に乗り出す企業も出てきている。サントリーホールディングスは10月から遠方に住む社員及び社員の配偶者の両親にタブレット端末を渡し、在宅でオンライン診療を受けられるようにする。健康寿命を延ばし、社員の介護離職をなくすのが狙いだ。40歳未満の生活習慣病予備軍の社員に対する保健師や管理栄養士のオンライン健康相談も始める。新浪剛史社長は発表した際の記者会見で、「サントリーは16年から健康経営をスタートさせている。社員が生き生きと働ける社会になることで生産性も向上する。社員や家族の健康を守る取り組みを広げたい」と意欲を示した。

 「オンライン服薬指導」は特区でしか認められていない。薬機法では、医療用医薬品について、薬剤師が飲む回数や量などの服薬指導を対面でして渡さねばならないと定めているためだ。このため、「オンライン診療」を受けた患者は処方箋を医師から郵送してもらい、薬局に持参して薬を受け取らなければならず、在宅医療サービスがオンラインで完結しないため、利便性の悪さが普及のネックになっていたと指摘されている。

 厚労省は「オンライン服薬指導」の特区以外の実施を検討しており、今後、具体的な要件などを詰める方針だが、どの程度まで柔軟に利用を認めるかは現状では不透明だ。オンライン指導を受けるには、医療機関へのアクセスが悪いといった要件がある。こうした要件をどこまで緩和されるかが焦点となりそうだ。ただ、日本薬剤師会の幹部は「服薬指導を対面で行わなくても不都合がなかったかをきちんと特区内で検証しないといけないのではないか」と述べ、解禁ありきの議論に慎重な姿勢をみせている。

 処方箋の扱いも今後の課題になりそうだ。薬機法は薬局に処方箋の原本を保存することを義務付けており、医師から薬剤師へ渡す際はファクスやメールではなく郵送が必要だ。このため、患者は処方箋が届くまで薬が受け取れなくなる。セキュリティーが保証されていない電子データでやり取りするには個人情報保護の観点から危険が伴う。電子データの処方箋を仮に原本として扱う場合にはシステムの電子化に伴うセキュリティーの一層の向上が求められる。

 こうした諸課題の整理には一定の期間が必要で、厚労省は「オンライン服薬指導」の全面解禁に意欲をみせているが、仮に法改正に盛り込めても限定的になりそうだ。

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