SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第4回「企業における『高ストレス』対策」分科会リポート

第4回「企業における『高ストレス』対策」分科会リポート
休職から復職までのリワークについて考える
「企業における『高ストレス者』対策の第4弾は1月9日、メンタル不調から休職に至った社員が復職するまでに、人事・総務はどのように対応すべきかをテーマにして開催された。講師には、多くの企業のストレスチェック制度をはじめとするメンタルヘルス対策事業を支援しているメディカル・ビー・コネクト株式会社の代表取締役社長・瀬尾大氏、株式会社MTGの人事本部人事企画部労務課課長・吉田英里氏、テルモ株式会社の人事部人事企画チーム課長・山田一成氏を迎え、話を伺った。
 講義採録 

医療リワークと就労リワークとを
区別して捉えることが大事
瀬尾  大氏

 メンタルヘルス対策には、従業員・管理者がストレスやメンタルヘルスに関する基礎知識を身に付け、ストレスをうまくマネジメントする0次予防・1次予防、もしメンタル不調を感じた場合、深刻な状態にならないように早期発見し、対応する2次予防とあります。今回のテーマは、精神疾患を発症し、やむなく休職となるケースで、その時のリワーク、職場復帰支援やフォローアップを行う、これは3次予防ということになります。

 リワークにはいくつか課題があります。一つは復職開始時における状態が個人によって差が大きいこと。生活レベル、治療・投薬レベル、リハビリ進捗で差異があり、会社の復職規定に基づいた運用が難しい。二つ目は、復職可能という主治医の診断と本人の実際の状態のギャップが大きいこと。これは主治医の診断が本人の要望などに影響されるためです。三つ目は、リワークの社内制度化が難しいこと。メンタル不調からの休職の発生頻度を見ると、専門のチームを配置するほどではないためです。

 そこで、私達は医療リワークと就労リワークを分けて捉え、まず医療リワークからスタートさせるべきだと考えています。医療リワークと就労リワークとは目的が違います。医療リワークはあくまで日常生活を過ごせるレベルへの回復を目的としています。一方、就労リワークとは社会性を回復し、仕事などへの適応力のアップが目的です。

 リワークの今後は、復職を大前提としなくてもいいのではないでしょうか。在職する会社の同じ部署に復職するだけでなく、別の部署や別の会社での社会復帰もまたリワークですし、重篤な不調から脱することの出来ない方は、障害者雇用枠での復職・再就職も視野に入れてリワークを考えていいのではないでしょうか。

 企業にとって人材の確保を図る意味でも、リワークの有効活用がなされるべきです。

小さな所帯だからこそ出来る
きめ細やかな対応
吉田 英里氏

 私の会社は、歴史が浅いせいもあり、ここ4年ほどゼロからメンタルヘルスに取り組んできました。4年前までは、自分の部署からメンタル不調者を出すことが恥ずかしいという風潮もあったのです。

 まず、産業医と労務と各部署の管理職とで、メンタルヘルスの勉強会を行いました。メンタルヘルスについて正しく理解し、誰にでも起こり得るということを共通認識として持つようにしたのです。その上で、休職から復職への道筋を作っていくことにしました。

 まず、主治医の診断書「だけ」で休職に進むようことはしないようにしました。一度は産業医と面談してもらう。そこで主治医に伝えていない働き方の問題や人間関係の問題が語られることもあります。また、労務が窓口となり、少なくても1カ月に1回、その社員と連絡取り合うようにしました。

 産業医と主治医との連携、ご家族の協力も始めています。ご家族の協力を求めるのは、特に新卒の社員で、親元を離れている場合や単身赴任者の場合です。実家に戻ってもらい、そこで療養して頂きます。

 復職後は、出来るだけ元の部署に戻れるようにしますが、そうもいかないケースもあります。いずれにせよ、復職後は、最低でも3カ月は定期的に連絡を取り合いますし、人によっては1年間、状態変化を見続けるようにし、体調や精神状態の変化について共に考えるようにしています。これなどは、中規模の会社だからこそ出来ることかもしれません。

 労務課も、産業医など専門家とともに発信出来るプロフェッショナルを目指して勉強し続ける必要があります。

主治医の診断と本人の状態
乖離をどう埋めるか
山田 一成氏

 弊社では健康経営推進チームを作り、産業医や産業保健スタッフも加わってもらい、様々な健康問題を考えています。そこではメンタルヘルスにも取り組んでいるのです。

 メンタルヘルスで要となるのは、メンタル不調の早期発見と早期介入のカウンセリングという点にあります。不調があった時は速やかにメンタルカウンセリングをしてもらい、なるべく早く産業保健スタッフが介入して一緒に寄り添っていけるようにします。

 弊社のサポート体制で、一番の主役になるのは、産業保健スタッフのカウンセラーとなります。この方に、休職中から復職に至るまで定期的にコンタクトを取ってもらい、状況把握をしてもらいます。産業医の先生とのコンタクトも密に取っていて、復職時の就労判定などは産業医にも依頼しています。

 休職中は可能な限り職場と距離を置くようにしています。基本的には、職場上司とはコンタクトを取らせず、産業保健スタッフがメールや電話で定期的に連絡しています。

 復職プログラムは三つのステップを踏んで行っています。午前勤務、午後3時まで勤務、そしてフルタイム勤務。基本的には午後3時までの勤務で「復職」と位置付けています。

 今後の課題としては、主治医による復職可という診断と、本人が実際に会社で業務を行うのとでは大きな隔たりがあり、それをどうしていくか。また、本人も復職や休職を軽く考えているケースもあります。弊社では有給休暇を消化し、欠勤が90日に及んだら初めて休職となります。復職後、不調が再発し再休職となると休職期間は短くなります。再休職となると状況は厳しくなるので、再休職にならないよう、復職については慎重に臨むべきだろうと思っています。

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表):「主治医と産業医という呼び名が出ていますが、主治医とは社員が病気を発症してからかかっている医師ということですか」

山田:「そうです。ただ、かかりつけの精神科医などがいない時は、会社内の産業保健スタッフだけではままならないので、こちらが信頼している医師に依頼することもあります。これは産業医とは別の方になります」

原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員):「これは私の個人的な体験からお聞きするのですが、メンタル不調を訴えた社員が素直に治療なども含めた指示に従うかどうか疑問なところがあります。その点についてお聞かせください」

瀬尾:「不調を本人が認めたがらないケースは少なくありません。その場合、自己防衛として『自分は問題ない』と思いたがる。そうしたケースでは、敵と味方とをはっきり分けたがる傾向があり、会社側を敵と考えがちです。そこで、出来るだけ会社側に立つ者ではなく、第三者的に関わる人を使っていくことも大切なことです」

児玉政彦・キノシタ・マネージメント人事部労務課課長:「ストレスの原因が業務以外のものだと分かった時に、会社側としてどのような対応をしているのかお教えください」

吉田:「まず、労務が相談相手になるという点では変わりありません。その後については、メンタルクリニックへの通院を促しています。業務以外のことが原因であったとしても、同じように対応しています」

山田:「私共も業務以外の原因であっても、カウンセリングを定期的に行うなどは変わりません。そうしたケースでは仕事上のパフォーマンスにおいて同じような影響が出ているわけですから、結局は同じように対応することになります」

内田康夫・日本パーカライジング管理本部人事部係長:「リワークは労働争議のリスクヘッジでもあるようですが、それはある意味で労働争議についての『保険』的意味合いがあるのでしょうか」

瀬尾:「メンタル不調で会社とやり取りする過程で、その社員と会社との関係が悪化するケースがあります。話がこじれた際には、例えば『揚げ足を取る』とか『圧力を掛ける』などという印象を互いに持ってしまうことがあります。そうした時にリワークは会社にとっても社員にとってもリスクヘッジとなり得えます」

原田篤・理想科学工業人事部人事課:「保障制度の悪用とまでいかなくても、メンタル不調再発の社員への対応はどのようにしていますか。また、山田様に質問です。復職して90日以内に不調が起きたら継続すると話されていましたが、90日はメンタルとしては短いのではないでしょうか」

瀬尾:「働かないために休職しようとする人はいます。『楽をしてお金を得たい』と思っているのです。ですから、休職に入ったらリワークのプログラムを必ず受けてもらう。これをやらないと復職出来ない。そう取り決めておくと、簡単な気持ちで休職を希望しなくなるはずです。それでも、休職を隠れ蓑にする事例が発生した場合、とにかく次のステップに進んでもらう。その上で、本当にやる気があるのかどうかを話し合う。その人との関係性を築いた上で、自主退社を促すこともあります」

山田:「90日は短いというご指摘ですが、私も短いと実感するケースもあります。ただ、安易に復職に向かわないように、しっかりとパフォーマンスを示さないといけないというメッセージも含んでいると思っています」

原田(義):「精神的な病気というと根治は難しいのではないでしょうか」

瀬尾:「精神疾患については寛解という言葉が使われるように根治は難しいのです。一度疾患に罹ってしまった方はどういう時に症状が出るのかを把握しなくてはなりません。とにかく自己理解が大事です」

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top