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武田・第一三共が子会社売却? 大衆薬業界に再編胎動

武田・第一三共が子会社売却? 大衆薬業界に再編胎動
首位の大正製薬は海外で欧米巨大M&Aの動きに合流 

 「売却交渉を進めている事実はありません」。

 5月23日、第一三共は、直前に出たOTC事業子会社の第一三共ヘルスケアの売却報道を否定した。

 薬局などで買える、大衆薬がOTC。一般用医薬品ともいわれ、「パブロン」、「ガスター10」などよく知られた名前のクスリも多い。

 実は3月にも、外国系メディアが同類の観測気球を打ち上げている。JPモルガン証券をアドバイザーにして近く入札に入るというものだ。

両社否定でも続く売却観測

 第一三共が否定しても簡単には噂は消えない。というのも同社は昨年10月末に中期計画改定を発表、その中でノンコア事業の売却方針を打ち出した。OTC事業もそこに含まれると目されているからだ。

 4月下旬の決算説明会で中山譲治会長は「現在決まっていることはない」とOTC事業売却の可能性を全面否定しなかった。「様々な戦略的展開の可能性を常に検討しております」。冒頭の会社発表文にも思わせぶりな一文がある。OTC事業が売却対象という点を疑う声は少ない。

 第一三共は売り上げが今ほとんどないがん領域中心への収益構造の大転換を進めている真っ最中。

 幸い、開発中のがん治療薬「DS—8201」の臨床試験結果が良く、今年3月末には英アストラゼネカとの間で、最大7600億円受け取れるグローバルでの共同開発・販売の業務提携に漕ぎ着けた。

 それでも今の第一三共にはOTC事業を抱え続ける余裕はない。がん治療薬の開発にかかる膨大なカネ・人を一点集中投下するには、枝葉を削ぎ落とさざるを得ないからだ。

 事情は国内製薬最大手の武田薬品工業も同じで、OTC事業子会社の武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)の売却観測が相次ぐ。

 シャイアー買収完了後の1月初旬、クリストフ・ウェバー社長は、「売却しない」と明言。国内OTC2位の実績を掲げ、「そのパフォーマンスに満足している」と言う。

 ただ、ウェバー社長は一方で「欧州のOTC事業の売却可能性」を示唆。これは2011年のスイスの製薬会社ナイコメッド社買収で得た事業だが、狙った成果が上がらず、大失敗といわれる。

 ウェバー社長は失敗の事実を頑として認めないが、欧州OTC事業を売却の棚に載せるのは、この買収の失敗を認めたも同然。にもかかわらず二枚舌を使うウェバー社長の言葉をそのまま受け取ることは禁物だ。

 旧東京本社、大阪本社など会社の優良資産を次々売りまくるウェバー流の経営手法には、社内や武田OBから批判が渦巻く。国内OTC事業の売却を否定するのは、この反発の嵐を当面かわすのが狙いだろう。

 武田には国内OTC事業を売りたい切実な理由がある。

 欧州シャイアー買収の代償は大きく、借金は約6兆円に膨らんだ。売れるものは売り切って計画する1・1兆円の資産売却を急ぎたい。ウェバー社長が気にする投資銀行や株式市場からの受けもこの方が良い。

 売り上げの25%を占めるノンコア資産は全て売却候補とウェバー社長自身が再三言ってきた。消化器系、がん、中枢神経系、希少疾患、血漿分画製剤の重点領域以外の医薬品はむろんだが、OTC事業もこのノンコアの範疇に入る。欧州のOTC事業が売却対象で国内OTC事業は売却対象外というはずがない。要はウェバー社長の腹次第なのだ。

 TCHCは長年保ってきた国内OTC業界2位の座から18年度に陥落したもよう。整腸剤「ビオフェルミン」の販売権を大正製薬に移管したことが響き、売り上げは2割弱の推定約630億円に沈み、業績好調なロート製薬、先述した第一三共ヘルスケアに抜かれ4位に転落したようだ。

 酪酸菌入り整腸剤「ビオスリー」の国内販売権取得で、売り上げ回復を狙うが、失敗すればOTC事業売却の時期を早めかねない。

再編の受け皿はどこか?

 国内OTC業界王者の大正製薬は今年7月に過去最大1700億円を投じて米ブリストル・マイヤーズスクイブの欧州OTC事業買収を完了した。この6月にも持分法適用のベトナム製薬企業の出資を50%強に引き上げ、子会社化している。

 国内OTC市場は人口減少が重荷で伸び悩む。高齢者の増加は需要底上げ要因のはずだが、日本では国民皆保険制度の下、75歳以上なら自己負担は原則1割と軽く病院で安く医療用医薬品が手に入る。

 OTC業界が期待するような、一般国民が病院に行かず薬局などで大衆薬を買う大きな流れは遅遅として進まない。外国人のインバウンド需要の下支えがなければマイナス成長しかねないのが、国内OTC市場の実相だ。

 大正も国内OTC事業は苦しい。OTC総合デパートの同社が、同タイプの武田、第一三共のOTC事業を丸ごと買う利点は乏しい。成長余地の小さい国内より、海外のM&A(企業の合併・買収)で成長に期待を賭ける方が同社には合理的だ。

 となると注目は、武田や第一三共のOTC事業を誰が買うか。成り行き次第で業界地図が変わる。

 国内勢の候補にはロート製薬やライオンの名が挙がる。前者は目薬や「肌ラボ」などスキンケア、後者はオーラルケアに強い。買収で武田、第一三共が持つ、自社と補完的関係にある幅広い大衆薬群を入手できれば、ドラッグストアなど主販売先との関係強化に繋がる。シナジー効果が期待できるわけだ。

 ロート製薬は昨年6月に塩野義製薬のOTC事業子会社に15%出資した。興味深い動きで、製薬会社の持つ大衆薬への関心の強さが窺える。

 今年1月には、武田のOTC事業を長年統括し、昨年3月までTCH C社長を務めた杉本雅史氏を招き、この6月末に正式に社長に据えた。

 日本の大企業で国内系のライバル企業出身の人物を社長に登用するのは極めて珍しい。この人事に業界M&Aへの布石の意味合いはないのか。杉本氏の場合は古巣のTCHCのことは熟知するだけに、この人事がどう業界再編に作用するのか、大いに気になるところだ。

 欧米メガファーマ(巨大製薬企業)ではOTC事業売却の動きが加速している。昨年12月には英グラクソ・スミスクラインと米ファイザーがOTC事業統合で合意。売上高1・4兆円の巨大OTC合弁を設立、数年後に分離独立、上場させる構えだ。

 難治疾病に研究開発の領域が移り、研究開発費は膨張、成功確率は下がる。ますます競争の激化する医療用医薬品市場にあって資源を医療用医薬品に集約することが生き残りのカギとなる。この考えがグローバルで吹き荒れるOTC再編を突き動かしている。

 遅ればせながらその流れは武田、第一三共のOTC売却という形で日本にも波及しつつある。

 再編で強大化した外資OTC企業が手を伸ばす可能性もある。日本のガラパゴスOTC業界にいよいよ変動の時代が訪れようとしている。

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