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未来の会

第110回 認知症を起こす薬剤は多数ある

第110回 認知症を起こす薬剤は多数ある

 前回は、認知症そのものにも、認知症による周辺症状にも、安全で有効な薬剤はなく、認知症に対しては基本的に「接し方」が重要であることを述べた。

 一方、臨床的によく使われている様々な薬剤が認知症を起こす。中でも、抗コリン作用のある多数の薬剤はその代表であり、さらには、スタチン剤やプロトンポンプ阻害剤(PPI)も認知症を起こす。日本神経学会などによる認知症疾患診療ガイドライン2017版(GL2017)1)には、せん妄や認知症を起こす薬剤に関する記述が全くないが、薬のチェック82号(2019年3月)では、「接し方」の重要性を強調するとともに、せん妄を起こす薬剤、認知症性を起こす薬剤が多数あることについても述べた2)。今回は、その概要を紹介する。

スタチン剤

 GL20171)の第4章では、スタチン剤を認知症の予防因子としているが、これは間違いである。開始時のコレステロール値による調整ができていない多数の観察研究のみを根拠にしているからだ。米国の食品医薬品局(FDA)は、スタチン群の認知能が低下していたとのRCTの結果を重視し、2012年にスタチン剤の添付文書を改訂して認知症の危険性を警告した。動物実験でもスタチン剤は中枢神経への障害性を認めている。

抗コリン剤

 スコポラミンが以前から認知症モデル動物の作成に用いられるように、抗コリン剤が認知症を起こすことはよく知られた事実である。疫学調査では、抗コリン作用のある薬剤を、抗コリン活性と臨床的認知異常の程度から3段階に分けて、認知症発症との関連が多数報告されている。

 例えば、Grayら3)は、ランク1から3の抗コリン剤を、ランク3の1日標準用量(SDD、いわば常用量)に換算して総曝露用量(TSDD)を求め、認知症発症との関係を報告した。報告データを元に、総曝露量を年数に換算して求めた認知症発症との相関係数は、認知症全体は0.952(p=0.003)、アルツハイマー型認知症では0.988(p=0.0001)であった。このデータから、ランク3の抗コリン剤常用量を20年継続使用すると、アルツハイマー型認知症は4.2倍、認知症全体では3.7倍多く発症すると推定される(詳細は薬のチェックWeb資料4)参照)。

 脳虚血+抗コリン剤によって炎症反応を伴う脳傷害が特に海馬に生じたとの動物実験や、タウ病変を起こしやすい動物モデルを使うと、脳虚血+抗コリン剤でアルツハイマー型認知症様の病理学的特徴が現れたとの動物実験がある。前者は、抗コリン剤が脳血管型認知症を起こすこと、後者は、抗コリン剤が素因のある人にアルツハイマー型認知症を起こし得ることを示している。

PPI(プロトンポンプ阻害剤)

 PPI は胃の粘膜のプロトンポンプ阻害で胃酸を抑制するだけでなく、身体のほとんどの細胞のプロトンポンプ(V型プロトンポンプ)を阻害する。そのため、肺炎や、腎臓の障害を起こし、神経細胞の働きも妨害して認知機能を低下させる。PPIを使っていた人を長期間(6〜9年)追跡して認知症罹患の危険度(ハザード比)を求めた適切な研究3件をメタ解析すると認知症のオッズ比は1.41(p<0.0001)であった。

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