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未来の会

第1回 「企業における『高ストレス者』対策」分科会リポート

第1回 「企業における『高ストレス者』対策」分科会リポート

医療に関わる幅広くタイムリーなテーマを月替りで取り上げ、選り抜きの講師による講演を基調に国会議員、医療経営者や関係企業経営者の方々との闊達な議論を広げる場として1年余を経過した当会は、より充実度を高めるため、一つのテーマを半年かけて深く掘り下げる「分科会」を新たに立ち上げた。第1弾は「企業における『高ストレス者』対策」。厚生労働省の後援の下、月例の勉強会同様に充実した内容で、メンタルヘルス不調による休職者、退職者を減らす対策などを情報発信、政府が進める「働き方改革」の実現に向け、多角的に考察・議論を行う。第1回の分科会は厚労省労働基準局安全衛生部産業保健支援室室長の毛利正氏を講師に迎え、7月11日、「ストレスチェック制度」をテーマに開催した。

ストレスチェック制度の取り組み状況と
今後の対策について

 私はストレスチェック制度を労働安全衛生法に導入する際の法改正を担当し、平成22年から専門家検討会が始まり、一旦は廃案になるなど難産だった経緯を見ましたが、年月を経て定着しつつある状況をご報告出来ることは大きな喜びです。

 まず精神面の健康状況ですが、厚労省労働者健康状況調査によれば、職業生活で強い不安、悩み、ストレスがある労働者の割合は近年6割で高止まっています。メンタルヘルスでの労災補償状況を見ますと、請求件数は341件だった平成14年から増加の一途で、28年には1586件に上っています。うち認定件数は498件ですから、認定されるのは約3割。自殺に限りますと請求が198件、認定が84件と、認定率が比較的高くなっています。内訳としては製造業、建設業、医療福祉といった業種が多いようです。

◎速報値で実施状況を見る

ストレスチェックの実施状況は、現時点の速報ですが、労働基準監督署に報告義務のある50人以上規模の事業場での実施率が83%、労働者の受検率が78%となっており、一定の成果と考えています。残り2割の事業場には引き続き指導を続けますが、現在準備中というところも多いようです。

 事業場規模別に見れば、1000人以上では実施率99.5%である一方、50〜99人規模になると79%。衛生管理者や産業医もいるはずですが、事業規模が小さい場合、体制が弱い、あるいは規定を整備しなければならない等々で時間がかかっていると思われます。

 労働者の受検率は事業場規模にかかわらず大体8割弱となっていますが、そもそも労働者側には受検を義務付けていませんから、こうした数字は事業場からの働き掛けが功を奏した結果といえます。受検義務が課されなかったのは、既に治療を受けている方にとって受検自体が精神的負担となりかねないなどの意見が法案検討段階で出たためです。

 制度の目的はストレス状態の把握によるメンタルヘルス不調の未然防止であり、あくまでも1次予防のための仕組みです。全ての労働者に受検して頂くのが望ましいので、厚労省としては、プライバシーの保護には十分に配慮した仕組みになっていること、1次予防の趣旨の理解などを周知して受検率を上げて頂きたいと考えています。

 速報値2件目はストレスチェック実施者についてです。自社の産業医が半数近く担当している一方、外部機関委託が42%に及んでいるのが気になります。高ストレス者に対応する面接では外部委託は15%に減るのですが、外部機関の質が問題になりますので、委託する場合は各事業場が厚生省のホームページに用意されているチェックリストなどできちんと把握・チェックして頂きたいですし、このホームページではマニュアルやプログラムも提供して、委託しなくても出来るようにしています。また、産業保健総合支援センターでは既に1万人以上が受講している産業医向けの研修なども実施しているので、これらの周知をさらに徹底したいと考えています。
 速報値の3件目はストレスチェック集団分析の実施率ですが、メンタルヘルス不調の未然防止には個人レベルと組織レベル、大きく二つのアプローチがあります。組織レベルというのは、ストレスチェックの集団分析を活用して職場単位のストレスの状況と要因を把握・分析することにより、職場環境の改善を進め、職場におけるストレスの軽減を図るものです。集団分析は努力義務ですが、全体の実施率が78%と高い数字が出ており、事業場規模が大きいほど高いことが分かります。実は我々は当初、個人レベルのアプローチを重視していたのですが、国会審議の段階から、議員の方々からも集団分析への高い期待がありました。部署ごとのデータを比較することによって、特定の部署に負荷がかかり過ぎている等々の分析が職場環境の改善に繋がるなら、大変強力なツールになると考えられ、ストレスチェック制度の重要な柱の一つとして定着しつつあると受け止めています。厚労省としても、職場環境の改善に取り組むための丁寧な情報発信を心掛けます。

◎労働者自らが気付くことが大切

 ストレスチェックでは、例として、職業性ストレス簡易調査票の57項目の質問に対し、労働者が回答を考える中で自らを客観視し、高ストレスの芽に気付く、という導入部が最も重要です。一定の成果を上げている事業場は、この部分を研修でしっかりと労働者の理解を得ています。

 高ストレス者は受検者のうち1割くらいが判定基準に沿って機械的な集計で出てきますが、面接指導の対象となる方は、さらに各事業場の衛生委員会などで調査審議した対象者の基準に合致する者で、本人が希望した場合に面接を受けることになります。対象の方が、多忙、自覚症状がない、自己処理出来る、結果が事業場側に提出されるのを嫌うという理由で受けない方もおられますが、精神面の健康のために面接指導を受けるよう、事業場の担当者が勧奨してほしいと考えています。

 今後についてですが、産業保健分野においては、今後法改正の予定があり、産業医・産業保健機能の強化について、産業医がより効果的に活動しやすい環境整備などを検討しています。

佐藤栄哲・ミナジン代表取締役:「主に中堅、中小企業向けの人事管理サービスを展開する会社を経営しています。講演で示して頂いた57項目の職業性ストレス簡易調査票は、数百社の人事で転用可能でしょうか」

毛利:「はい。自由にお使いください。この57項目でなければいけないものでもなく、簡略版の23項目をお使い頂いても構いません」

久野芳之・日本医療データセンター健康年齢プロジェクトディレクター:「ストレスチェックの実施状況について、事業規模50〜99人が特に低いのは、産業医がいないからということはありませんか。数字を上げていくための方策は?」

毛利:「法違反ということになりますから、監督署が指導をしていますが、産業医を引き受けてくれる医師がいない地方もあるという問題はあります。外部委託が増える要因になっている可能性があり、悩ましい問題です。産業医が面接指導を避けたがるケースについては、ホームページに具体的なマニュアルがあるので、事業場から示して頂いても良いですし、周知していきたいと考えています」

松井春彦・伊藤忠テクノソリューションズ人事部健康支援室統括産業医:「ストレスチェックや高ストレス者の面接指導で、本当にメンタル不調が減るのか、会社のメリットに繋がるのか、ピンとこない気がしています。我々の手腕にもよるのでしょうが、効果を立証するデータや具体的な指導が欲しい。また、地域産業保健センターなど小規模事業場にも対応しているので、こちらは今後、ストレスチェック制度の実施は義務化されないのでしょうか」

毛利:「事業場にとってのメリットは最重要課題として環境整備していきたいところです。義務だからやるというのではなく、丁寧に実施していくことが良い成果を生むと考えていますので、今後は事例だけでなく具体的なデータを出していきたいと思います。小規模事業場に関しては、26年の施行時点で『5年後の見直し』が定められていますので、その時に検討となる可能性があります」

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品の未来を考える会」代表(集中出版代表):「ストレスチェック制度を義務化した結果、多くの高ストレス者の存在が分かりました。今後、彼らに対する面接指導は義務化されないのですか」

毛利:「31年の見直し時に検討することも考えられます」


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