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ライオン

ライオン
「健康増進法違反」の指摘を受け 化けの皮はがれた「百獣の王」

一般薬からハミガキ、洗剤まで扱う家庭用品業界で、今、最も勢いのあるのがライオンだ。

 同社は2016年12月期の年間売上高は予想を50億円上回る3950億円、営業利益は16%増の190億円、連結純利益も前期比8%増の115億円に上るという決算見通しを発表した。これは昨年に続く好成績で、03年以来、13年ぶりに過去最高を記録するという。

 早くも証券アナリストたちが「眠れる獅子が変身した」と喝采をしている。

 あるアナリストによれば、「濱逸夫氏が4年前に社長に就任後、今までのシェア重視の経営姿勢から採算重視に切り替えた構造改革が定着した。歯ブラシや洗剤、日用雑貨品全てで利益率の高い商品に力を入れてきたのが効を奏した成果だ」という。

 さらに、韓国やタイでの売上増に加え、中国人の〝爆買い〟も貢献したと付け加える。

業績好調の中で起きた「失策」  だが、その好調のライオンが消費者庁から「健康増進法に違反する」と勧告を受けた。単なる勇み足なのか、それとも、昨今持てはやされる構造改革による逸脱だったのか。

 消費者庁によれば「ライオン株式会社が『トマト酢生活トマト酢飲料』と称する特定保健用食品に関し、日刊新聞紙に掲載した広告は、健康の保持増進の効果について、著しく人を誤認させるような表示であり、健康増進法第31条第1項の規定に違反するものである」という。

 実際、同社の広告では「『トマト酢生活』は消費者庁許可の特定保健用食品です」「薬に頼らずに、食生活で血圧の対策をしたい」「臨床試験で実証済み! これだけ違う、驚きの『血圧低下作用』」などと記載している。

 文書は、「薬物治療ではなく、トマト酢生活を摂取するだけで高血圧を改善できると認めたかのように消費者を誤認させている」と指摘した。

 トマト酢生活には血圧を下げる効果があると表示することに、あたかも消費者庁のお墨付きがあるかのように錯覚させる言い回しが問題視された。

 確かに、昨年、「機能性食品」が認められ、消費者にはトクホと機能性食品の違いが分かりにくくなっている。

 トクホ商品をつくるメーカーが機能性食品を批判し、厚生労働省に何とかしてほしいと要望しているのに対し、農林水産省が主管の機能性食品メーカー側は〝トクホよりよほど効果がある〟と反撃、売れ行きを競い合っている。

 ライオンは売り上げ、利益の絶好調を維持するために、トクホの広告で誤認しそうな文句を並べたといわれても仕方がない。

 ライオンの企業概要では株式会社「小林商店」を設立した1918年(大正7年)を設立年としているが、創業は創業者の小林富次郎がせっけんの販売を始めた1891年(明治24年)にさかのぼる。

 これほどの歴史を持つのに消費者庁の勧告を受けるようでは、老舗の名前に傷が付くというものだ。

 それはともかく、ライオンの社名は誰でも知っている。しかし、ライオンの主力商品は何か、と聞かれて、即座に商品名を答えられるだろうか。「ライオン歯磨き」くらいしか思い浮かばないのではなかろうか。

 ライオンのハミガキは明治時代にせっけんに続いて「ライオン歯磨き」として売り出し、ヒット商品になったことで知られる。実は、ライオン歯磨きがヒットしたために、社名をライオンにしたほどだ。今でもライオンのハミガキ、歯ブラシはよく売れている。

 だが、「ライオン」という名前ではない。歯ブラシは「システマ」であり、ハミガキは「クリニカ」だ。比較的高級品だが、ドラッグストアで棚にズラリと並んでいるのはシステマとサンスターの「G・U・M」くらいしかない。システマが売れるのは当然でもある。

 加えて、日本の歯科医は40年以上前から子供の虫歯をなくそうと、歯磨きの重要性と甘味飲料を摂らないようにキャンペーンを続けてきた。そのかいあって、今では子供の虫歯は極めて少なくなった。この歯磨きの習慣がすっかり根付いたこととメーカーの宣伝効果で、高級歯ブラシ、ハミガキが売れているといえる。

 ついでだが、歯科業界では「オーラルケアは歯ブラシと歯間ブラシで磨けば良い。歯磨き粉はいらない」という歯科医が増えている。はっきり言わない歯科医も「練りハミガキ粉は清涼剤です」と言い切る。

 確かに歯科医院では歯磨きの仕方は教えるが、練りハミガキについては何も言わない。昨今、練ハミガキのテレビ宣伝が多いのも、メーカーが何とかハミガキを売ろうという魂胆だろう。

歯磨き以外では知られていない商品群  では、ハミガキ以外でライオンの製品名を知っている人はどれほどいるだろう。商品名を挙げれば、ああ、あれか、と思い当たるのだが、ざっと挙げれば、制汗剤の「BAN」、衣料用洗剤の「トップ」ブランドだ。ハンドソープでは「キレイキレイ」……となじみのものも多い。

 ライバルは花王やP&G(プロクター&ギャンブル)、資生堂、サンスターなどだが、日用品の業界はほとんど商品名で知られる世界である。宣伝で売っていると言っても過言ではない。

 こうした業界でライオンは、アナリストが指摘したように、できるだけ高価格帯で勝負してきた。質を良くし、商品知名度を上げることで売り上げを伸ばした。高価格帯は利益率も高い。その結果が好決算に結び付いている。

 システマ歯ブラシがそうだし、キレイキレイもその一つだ。

 さらに好例が、今年2月に発売した液体洗剤の「トップ スーパーNANOX」だ。繊維内部の汚れを浮かび上がらせる成分を配合したといううたい文句で評判を呼び、従来品よりかなり高いにもかかわらず、目標を30%も上回る売れ行きのヒット商品になっている。

 一般薬も順調だ。しかし、ライオンでは一般薬を含めて譲渡を受けたものが多い。

 具体例を挙げれば、排水パイプ汚れ洗浄剤「パイプマン」や使用後の食料油を固める「油っ固」は旧藤沢薬品工業(現・アステラス製薬)から買い取った商品だし、中外製薬からは「グロンサン」「グロモント」「バルサン」、「新中外胃腸薬(現・スクラート胃腸薬)」を譲り受けた。07年にはブリストルマイヤーズ・スクイブとの合弁会社から鎮痛薬「バファリン」と「エキセドリン」の譲渡を受けている。

 ライオンが眠っていた時代とはいえ、開発力はイマイチで、実体は譲渡を受けた日用品、一般医薬品が同社を支えていた。

 海外事業も好決算に貢献している。海外進出は意外に古く、1957年にタイに進出したのを皮切りに、韓国、台湾、シンガポール、フィリピン、中国と、東アジアや東南アジアに拠点を築いた。タイではシステマ歯ブラシや歯磨き、洗濯用洗剤が売れているし、韓国ではハンドソープが好調だ。フィリピンは撤退したが、シンガポールでは食器洗剤が売れ、中国では歯ブラシに人気がある。

 高品質の日本の日用品に人気があるタイや台湾、シンガポールでは当然として、反日感情の強い韓国ではCJ財閥の日用品部門を譲り受け、CJライオンを設立した手法が成功している。中国では現地の慣習と規制があり、進出した日本のドラッグストアの店舗が薬を扱えず、雑貨屋にすぎなくなっている失敗例が多い。唯一成功しているのはEC(ネット販売)である。ライオンは中国でネット販売が爆発的に広がる直前に進出したことが功を奏した。

 さらに、好決算には中国人観光客の〝爆買い〟も貢献している。

 中国人旅行客は日本では主にドラッグストアで日用品や大衆薬を大量購入する。彼らはネットや口コミで調べ上げ、目的の薬や日用品を買うが、ライオンの歯ブラシやハミガキ、洗剤など日本で人気のある高級品だけでなく、足のむくみを取る冷却用シート「休足時間 足すっきりシート」やニキビ治療薬「ペアアクネクリームW」などライオン独自の商品を日本人以上に知っていて〝爆買い〟している。

中国人観光客の〝爆買い〟にも陰り  だが、この〝爆買い〟にも陰りがある。最近の旅行者は〝爆買い〟より日本の自然や歴史のある地域、あるいは日本の伝統文化に触れたがるようになってきている。

 さらに、税制が変わり、少額商品には安かった関税が高くなった。輸入を抑える狙いともいわれているが、〝爆買い〟特需に黄信号がともっている。逆に、ネット販売は関税が下がったことで、対中国ビジネスはネット販売中心になるとみられ、競争が激化している。一抹の不安は拭えない。

 それでも決算数字を見れば、アナリストたちが「眠れる獅子が目覚めた」と言うのも無理はない。

 決算数字上は良いことずくめのようだが、喝采するほどではない。今まで低調だったから、好調さが目立つだけである。

 ライオンのライバルは花王やP&G、ユニリーバなどの大手であり、ハミガキではサンスターや米コルゲート・パーモリーブ、資生堂などが控えている。ライオンの売り上げは過去最高でも年間4000億円程度だが、業界トップの花王の売り上げは1兆5000億円弱(15年12月期)と3倍もある。

 しかも、日用品の世界は〝宣伝で売る〟業界だ。一社の新製品が人気になると、ライバル社が似た製品を発売し、大量のテレビCMを繰り返し流して商品名を無意識に覚えさせてしまう。スーパーやドラッグストアでもCMで知られた名前の商品が陳列棚を占拠する。

 業界ではこうしたマーケティングに強いのが宣伝上手な花王だという。

 消費者庁から勧告を受けているようでは、ライバル企業の宣伝攻勢にさらされてしまうだろう。まだまだ〝百獣の王〟である本物のライオンにはなれそうもない。

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