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未来の会

医療AI先進国と後進国の動向

医療AI先進国と後進国の動向

日本が先進国に追いつくために出来る事とは

欧米や韓国、イスラエルでは当たり前の様に日常の医療にAIがいる。そして、多くのベンチャー企業がAI医療機器の研究開発・製品販売を加速的に進めている。その様な医療AI先進国の具体的な取り組みについて紹介し、後進国・日本に於ける課題や現状を見る。

先ず韓国では、①AI医療機器の審査を他の医療機器より優先する、②製品のバージョンアップに於ける臨床試験の手続きを軽便化する、③個人情報保護法を改正し、匿名化データを国内で公共化し、自由な研究開発への利用を可能にする等積極的に医療AIベンチャー企業を支援している。国を挙げて、医療AI分野に於ける国際的競争力を上げる為だ。中でも成長著しいLunit社やVUNO社はAI画像診断支援システムの開発ベンダーであり、VUNO社は韓国の株式市場(KOSDAQ)に上場を果たしている。Lunit社は、2018年から富士フイルムとの協業を開始し、21年8月にはPMDAによる承認を得て、胸部X線画像から肺の異常所見を検出するAI医療機器を国内で販売開始。世界で初めてリキッドバイオプシー(体液から遺伝子解析を行う技術)をサービス提供した米国のGuardant Health社から約2600万米ドルの出資を受け、業務提携している。VUNO社は、20年6月から日本のエムスリー社と日本に於ける販売に向けた業務提携を開始し、これからの更なるグローバル展開を想定している。これらの企業は「検診」で活用可能なAI開発にも注力しており、米国やイスラエルのベンチャー企業との競争が激化している。

Medical Startupsというウェブサイトでは、"Top 51 Radiology and medical imaging startups"と題して、獲得ファンディング額の高い放射線科領域のAI医療機器ベンチャー企業が公表されており(22年6月時点)、イスラエルからはトップ10に3社(Aidoc, Zebra Medical Vision, Nucleai)が名を連ねている。Viz.ai社、Aidoc社等、「救急領域」に於けるAI開発に力を入れている企業が多いのが特徴だ。例えば、米国とイスラエルに拠点を設けるViz.ai社は、脳卒中のAI診断システムをクラウド上で提供し、スマートフォン上でのAIの解析結果表示や、医療スタッフ間のコミュニケーションを可能にしている。又、 Zebra Medical Vision社は、「検診」で活用可能なAIの開発で世界をリードしている。

米国には、AI画像診断支援システムの開発ベンダーも多いが、それらのAIベンダーを束ねて医療機関にプラットフォーム(種々のAIを利用する為の標準環境)として導入しようとする企業も見られる。米国の医療IT企業大手のNuance Communications社がその例であり、医療AIの利用が拡大するに連れて、注目される存在になるだろう。この様な医療AIのクラウド上での利用を見据え、Google社、Micro-soft社、Amazon Web Service社等の大手IT企業も、医療AI分野への参入に積極的だ。又、Enlitic社は「検診」に、IDx Technologies社は「眼底画像のスクリーニング」に活用可能なAI開発に注力しており、予防医学の文脈に於いて、早期診断に繋がる付加価値を持った画像診断AIの開発が進められている。

医療AI後進国の動向

医療AI導入に於ける産業化や法規制対応に於いて、我が国は上記の医療AI先進国に比べて数年遅れている。16年より日本医療研究開発機構(AMED)を中心として、医療データベースの構築が進められているが、研究開発のみの利用に限られており、製品開発には利用出来ない。韓国の医療データベースが製品開発に利用可能である事と比べると、我が国の医療AI開発・導入にとって大きな足枷になっている事は間違いないだろう。又、医療AIのバージョンアップに対して、米国食品医薬品局(FDA)は、医療AIのアルゴリズムやパラメーターを固定しない可変型の医療AIも容認する姿勢を打ち出している一方、我が国ではバージョンアップの都度、PMDAが、医師を募った性能評価試験を要求する事は珍しくない。その為、最新のバージョンが販売される迄に1年以上経過する事も有り、その時には既に、時代の最先端技術を用いた診断精度・速度と比較して劣っている事が有り得る。匿名化された医療データベースの構築や製品のバージョンアップ等に於いて、今後より柔軟に開発や承認が行えるように制度を更に整備して行く事が、我が国の医療AI産業の発展に必要であると考えられる。

現在、「RAD-AID」と呼ばれる非営利団体がアフリカや中南米諸国の低中所得国に対するAI医療機器導入や放射線医学教育を進めている。RAD-AIDは、08年にジョンズ・ホプキンス大学で数人から始まったが、現在では146カ国から約1万4000人のボランティアが参加する組織となり、医療リソースが限られた40カ国以上・91病院にサービスを提供している。又、ガーナ・タンザニア・ガイアナでは、国内の放射線医学やAI利用に関わるIT担当者の教育・訓練の為のワークショップが開始されている。近年、これらの画像診断のリソースが不足している国々では、画像診断AIに対する期待と需要が高まっており、RAD-AIDはグローバルヘルスケアに重要な役割を果たしている。

AI医療機器導入によるメリット

今後、「検診・スクリーニング」等の予防医療の分野に於いてAI医療機器の導入がますます進む。大量の画像を人間の目で読影する現在の臨床は、数年後には信じられない光景になっている筈だ。医療AIを活用した地域格差の是正は、予防医療や生活習慣の改善に繋がる。例えば、眼底画像のスクリーニング装置が薬局等に設置され、日常生活の中でチェック出来るツールとして普及すれば、糖尿病を始めとする生活習慣病やうつ病等の様々な疾患の早期発見が、病院での検査より少ない負担で可能となる。前述の通り、韓国・米国・イスラエルを中心にこの様な検診・スクリーニング用AIの開発は急速に進められており、日本でも製薬会社・大学病院・AI医療機器ベンチャー企業が提携し、共同研究が進められている。現在は画像診断AIの開発企業が多いが、診断の先に治療が有る事を考えると、今後は予後予測やコンパニオン診断(患者個人に対する医薬品の効果や副作用を投薬前に予測する検査)にもAIが活用される事により、精度の高い診断結果に基づき、適切な薬や治療法も提案してくれるAI医療機器に進化して行くと考えられる。

少子高齢化、長寿命化、医師の働き改革等の変化に伴い、医療リソースのより効率的な活用が求められる事は間違い無い。AI医療機器は単なるブームでなく、臨床現場や日常生活で活用される事により、心身の病気の予防・早期発見・早期治療への貢献が予測される。その結果、人々の健康寿命が延び、国家は活力を得て、各国が抱える少子高齢化による課題も解決の方向に導かれるだろう。

以前、日本経済新聞は「ドクターAIは失敗しない」という大きな見出しの記事を掲載した(19年10月23日付朝刊)。AIを導入した慈恵医大や東大医科学研究所を丹念に取材し、AIの導入が今後高度な医療提供に大きく貢献すると書いた。慈恵医大では既にAIの解析システムが完成しており、動画ではもっと検査データが必要だと付け加えてはいるが「静止画の検査の精度は99%」だという。又、東大の研究チームの教授は「画像解析の様に人の目で出来ることは全てAIで代用可能だ。将来は全てAIに置き換わるだろう」と話す。画像見落し事件は、遺族だけでなく、医師にとっても長くトラウマになる。日本のAI導入は先進国の後塵を拝している。1日も早い先進国並みの導入に向けて多くの努力が待たれる。

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