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病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

第18回未来の会

フクダ電子

フクダ電子
技術があるにもかかわらず 海外医療機器の独占販に依存

 世の中には優秀な会社だが、どこか物足りないという企業がある。フクダ電子がそういう会社だ。病院で医師の手元の医療機器に「フクダ電子」の社名を目にした患者も多いだろうが、日本で最初の国産心電計を製造した会社である。心電計では国内トップだし、血圧脈検査装置を開発、循環器と呼吸器に特化した医療機器メーカーである。日本人の器用さで、大型で使い勝手の悪い医療機器を医師が簡単に使えるハンディで、正確なデータを記録開示する画期的な製品に仕上げている。

 それ以外でも呼吸機能検査器、心臓カテーテル、体内埋め込み型と半自動の除細動器、在宅向け酸素濃縮装置など、呼吸器、循環器系医療機器を販売している優良会社だ。だが、多くが独シーメンスや仏フィリップスと提携し独占販売権を得て販売しているのにすぎない。国産初の心電計を開発し、血圧脈検査装置を開発した技術力を持ち続けているのかどうか不安になる。医療関係者のみならず、多くの国民が同社に抱くのは、ナンバーワンなのは日本国内だけなのか、という気持ちだ。

心電計トップの慢心で情報管理不徹底

 フクダ電子に感じる物足りなさの理由は心電計でトップを走り続けたために表れた緊張感の欠如かもしれない。そんな緊張感のなさを印象付ける事件がある。昨年12月、フクダ電子の営業販売部門である子会社、フクダライフテック南近畿の営業マンが大阪市東成区のコインパーキングに社用車を駐車していた間に車上荒らしに遭い、かばんが盗まれてしまった。かばんにはフクダ電子製医療機器を使っている医療機関名と162人の患者の氏名が記載されていた。そのうち33人の患者は住所、電話番号を記した個人情報が含まれていた。当時、フクダ電子は個人情報を特定できないようなシステム構築をしていたと説明したが、それでも33人分の患者の個人情報が載っていたのである。幸い、個人情報が不正使用される二次被害は起こっていないが、犯人はいまだ捕まっていない。盗難直後、フクダ電子は幹部が医療機関と患者宅を回り平身低頭。情報管理をさらに徹底すると約束した。

 実は、その前にも同様の個人情報漏出事件が起きている。それは3年前の10年。やはり販売部門のフクダライフテック常葉事務所内で、1067人分の患者の氏名を記録した情報記録媒体のハンディーターミナル1台が紛失した事件だ。フクダ電子とフクダライフテックは警察に届けると同時に、総出で事務所内はもちろん、思い付く関係先を探し回ったが発見されなかった。誰かが持ち出したのか、どこかに置き忘れたのか、それとも誤ってゴミと一緒に処分してしまったのかも不明だ。同社は「1067人の個人名を記したハンディーターミナルには患者の病名、住所、連絡先は記録していないし、パスワードが必要なロックが掛かっている」と強調した。この紛失事件でも二次被害は起こっていないとはいえ、情報管理を徹底すると語っていたのである。それからわずか2年後に車上荒らしに遭っていては使命感、緊張感に欠けていたといわれても仕方がない。

 もちろん、他の多くの企業で同様の盗難事件、紛失事件が起きているが、医療機関や医療機器メーカーのそれは比較にならない大問題だ。患者にとって知られたくない個人情報がファイルされているからだ。二次被害がないからといって安心はできない。犯人が捕まっていない以上、たまたま個人情報が使われなかったのかもしれないし、あるいは、フクダ電子の開発や利用先をスパイするための紛失、盗難だったかもしれない。

 フクダ電子は東京電機大学を卒業した福田孝氏が大学で学んだ知識を医療に生かそうと、1939年に福田特殊医療電気製作所を創立したのが始まりだ。特に30年代に登場した心電計に着目した。当時の心電計は直流電池を電源に真空管3本と可動鉄片型ガルバー、ゼンマイ式モーターを使った簡単な構造の心電計で、オシログラフペーパーに記録し現像するという代物だったという。戦後、交流電源を使うようになったが、今度は雑音が激しく専門家が操作を手助けするような状況で、まだまだ臨床での利用にはほど遠かった。何とか臨床に使えるようにしようと、医師や工学技術者、電機メーカーが加わって「心電計研究会」が発足したほどだ。福田氏もその一人で、アメリカで作られた直記式心電計を基にして51年、国産初の熱ペン直記式心電計を作った。医療現場で記録できる心電計で、今日の心電計の原型だ。以来、改良に改良を重ねてきたが、同時にそれは「心電計のフクダ電子」とうたわれた。

 同社は、心電計だけにとどまらず、循環器領域の医療機器にも進んだ。73年、独シーメンスと提携し、シーメンスのインクジェット式心電心音計の独占販売権を得たことで日本より一歩も二歩も進んだシーメンスの医療機器に触れ、独自開発にも力が入る。88年にはLANを使った生体情報モニターを開発し、超音波画像診断装置、酸素濃縮器、血圧脈波検査装置(バセラ)など、循環器、呼吸器領域の国産医療機器を自社開発、製造してきた。中でも小型化には同社の技術が見て取れる。特に、血圧脈波検査装置は厚生労働大臣賞を受賞。技術力の高さを示した。

シーメンス、フィリップス製品頼み

 売り上げ962億円(2013年3月期)を上げるフクダ電子の発展は、独自技術によるものだけではない。いち早く海外の医療機器メーカーと提携。独占的に販売してきた結果だ。最初はシーメンスとの提携である。国内独占権を取得したインクジェット式心電心音計の医療機関への売り込みに成功。その功績が評価され、75年にはシーメンスの医療機器全般の国内独占販売権を取得した。日本の医療機器がまだ遅れていた時代にドイツ製医療機器の販売はフクダ電子の売り上げを飛躍的に伸ばすと同時に強みになった。

 フィリップスとも提携している。04年にフィリップスの日本法人と販売提携を結び、生体情報モニターと除細動器に乗り出す。医療機関への販売は世界的に知名度の高いフィリップス製だけに成功しているし、さらに公共施設や街中に設置されているAED(自動体外式除細動器)でも積極的にフィリップス製「ハートスタート」の売り込みを図った。翌05年にはサッカーJリーグのジェフユナイテッド市原・千葉のホームグランドである千葉市の蘇我球技場のネーミングライツ(命名権)を取得し、「フクダ電子アリーナ」と名付け、宣伝にも一役買った。東京・青梅市民マラソンで倒れた参加選手にAEDが使用され一命を取りとめる出来事が起こり、一躍、販売の場を広げることもできた。

 一方、除細動器ではたびたび不具合が起こっている。フィリップス製除細動器も例外ではなく、10年以降だけでも、10年1月に手動式除細動器「ハートスタートXL」を自主回収。6月、7月、11年2月には半自動除細動器「ハートスタートFR2+」でも自主回収に追われた。12年7月には手動式除細動器「ハートスタートMRx」、10月には再び「ハートスタートXL」を自主回収。今年4月と9月に手動式除細動器「ハートスタートMRx」を2度も自主回収している。ほとんどが「誤作動を起こした」「うまく動かない」といったもの。自主回収は製造元のフィリップスが行うとはいえ、販売元のフクダ電子にも不名誉な出来事だ。それでも高速道路に設置されているAEDは圧倒的にフクダ電子が納入しているように、AEDでは日本光電と市場を二分している。

体内埋め込み式機器製造から逃避

 しかし、日本で最初に国産心電計を開発したフクダ電子は技術力があると思われているのに、現実には海外の医療機器の販売に頼っている。フクダ電子に対する物足りなさの原因は、卓越した技術力があるはずなのに画期的な自社開発医療機器が少ないことである。シーメンスやフィリップスの製品の販売会社になっているようでは、売り上げを1000億円に伸ばしても褒められた話ではない。

 ある国立医科大の教授はこう言う。

 「日本の大手企業も中堅企業も卓越した技術力を持ちながら、体外で利用する計測器しか作ろうとしない。失敗したときの批判を恐れているのだろうが、体内に埋め込んだりする医療機器の製造から逃げている。日本人が作ったら小型で精巧なものを作れるはずなのに作ろうとしない」

 海外での医大、医療機関で働いた経験を持つ医師ほどこうした考えが強い。あえて名前を挙げれば、フクダ電子もその一社だ。例えば、目下、政府は医療費削減方針に沿って在宅医療を進めている。フクダ電子も子会社のフクダライフテックを通して在宅医療に進出している。酸素濃縮器を筆頭に検査・医療機器を用意し、専門スタッフが24時間体制でサービスしている。しかし、それは流行を追っているのに等しく、医療関係者が目を見張るような医療機器が見当たらない。

 昨年、未熟児・新生児向け人工呼吸器の草分けであるメトラン社と合弁会社を設立し、医療機器開発に意欲をのぞかせてはいるが、「メトラン社はフクダ電子のライバルである日本光電とも提携している。日本光電とどちらが開発力、販売力があるか、天秤にかけられているようなものだ」(証券アナリスト)という指摘もある。

 医療関係者が望んでいるのは、フクダ電子が医療機器の世界で新製品を生み出し、世界に名前をとどろかせることなのである。

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