
医療に薬剤は不可欠だが、体にとって都合のよいことだけでなく、かなりしばしば、不都合なことが起こる。adverse reactionである。日本では「副作用」と一般に呼ばれているが、筆者は以前から「害反応」と呼んでいる。「副作用」では、体に不都合(害)のある反応、との意味が伝わりがたいためである。
過敏反応は別にすると、害反応は一般に薬剤の量が相対的に多すぎる場合に起こりやすく、減量または中止すると、多くの場合は症状が消失する。しかし、これを害反応と気づかずに薬剤を継続し、その害反応の症状に対して新たな薬剤が処方されることがある。特に高齢者では、害反応が出やすいために、新たに処方された薬剤でまた別の害反応が起こり、さらに別の薬剤が処方され、ついには死亡に至ることもまれではない。
こうした状況について、筆者は害反応に注目して「害反応カスケード」(カスケードはもとは「小滝の連続」、転じて連鎖の意)と呼んでいた1)。一般には「処方カスケード」と呼ばれている2)。そこで、薬のチェック119号から、「身近な害反応から、害反応−処方カスケード」と題して連載を始めた3)。その概略を紹介する。
症例14):中止で翌日せん妄消失
87歳男性。出血性十二指腸潰瘍でICU入院後、ファモチジン(以下ガスター)の3回目点滴終了後にせん妄となった。担当医は「ICU症候群」と主張したが、家族の強い要望により中止。翌日ICU入院のまま症状は消失した。
症例24):継続後、害反応−処方カスケード
40代後半男性。骨転移を伴う肺癌末期。腸疾患に伴う腹痛のために入院。静脈注射でガスターを2回使用後から、バルーン・カテーテルを切ろうとするなど、せん妄が現れたが、継続。5日後、原因不明のせん妄としてセレネースが使用され、その後は、眼球の上転や、歯を食いしばるなどの筋緊張異常反応、うろうろと動き回る静座不能症(アカシジア)、筋強剛を経て、発熱を伴う悪性症候群に進展した。発熱に対して、ボルタレン坐剤が解熱剤として使われ、ショックとなり死亡した。
症例2の解説
症例2については、(1)そもそも腸疾患にともなう腹痛にH2ブロッカーは無効であり不要であった。(2)中等度腎障害のためにガスターの血中濃度が上昇しやすくなっていた。(3)注射後に症状が出現し、次の注射前には症状軽減という経過から原因を推定できたはずだが疑うことなく継続し、(4)セレネースが処方され錐体外路症状のオンパレードにも関わらず継続して悪性症候群に進展。(5)悪性症候群による発熱に無効な非ステロイド抗炎症剤が使われショックとなった。
薬剤による害を防ぐためにはどうすれば?
薬剤の害を防ぐためには、
1)物質として害の少ない医薬品が開発され、
2)害反応を防ぐための情報が提供され
3)その情報に基づき安全な使い方がなされ、
4)なおあり得る未知の害への警戒を怠らない
という4段構えの布陣が必要、との趣旨を砂原茂一氏が述べている5)。
今回の新シリーズ「身近な害反応から、害反応−処方カスケードへ」は3)に該当し、できるだけ安全な使い方がなされているかどうか、に関する情報である。
参考文献
1)浜六郎、害反応カスケードp202、in薬の診察室「薬と毒の見分け方」、講談社、2004年
2)Rochon PA et al. BMJ. 1997 25;315(7115):1096-9.
3)薬のチェック、2025:25(119):56-61
4)浜六郎、のんではいけない薬大事典(増補版)、2024/5、(株)金曜日
5)砂原茂一、薬剤と薬害、in 曽田長宗編、「薬害」p5-13、1981,講談社サイエンティフィック
LEAVE A REPLY