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れいわ議員当選で露呈した障害者〝時代遅れ〟就労事情

れいわ議員当選で露呈した障害者〝時代遅れ〟就労事情
障害者の社会参画が進まない日本の現状を象徴

7月の参議院選挙で躍進した俳優の山本太郎氏率いる政治団体(現在は政党)「れいわ新選組」。山本氏は落選したが、優先的に当選する候補者を決められる「特定枠」で2人の新人が当選した。2人はいずれも重い障害を持ち、移動には車椅子と介助者が欠かせない。受け入れ側となった参議院では急遽バリアフリー化を進めたが、次は2人に制度の壁が立ちはだかった。2人の新人国会議員は早くも、障害者の社会参画が進まない日本の現状を明るみにしたといえる。

 「野党がパッとしない中で、参院選でのれいわ新選組の存在感は見事だった。代表の山本氏は落選したものの、個人ではトップの約99万票を獲得し、この票が2人の新人議員を誕生させた」と語るのは全国紙の野党担当記者だ。山本氏とれいわ新選組への支持により当選した特定枠の2人は、舩後靖彦氏(61歳)と木村英子氏(54歳)。

 ホームページなどによると、舩後氏は41歳の時に全身の筋肉が動かなくなる難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を発病。全身の麻痺が進み人工呼吸器が必要で、移動には大型の車椅子が欠かせない。視線など体の一部を動かすことで文字を入力して言葉を伝える特別な装置を使って意思を伝える。一方の木村氏は生後8カ月の時の大怪我で重度の障害を負った。話すことはできるが、外出などには車椅子と介助が必要だ。

 2人の当選を受けて対応を迫られたのが〝職場〟となる参議院だ。8月1日の初登院を前に、議場に車いすで入れるようにバリアフリー工事を進め、介助者が付き添えるようにしたり、呼吸器の電源が取れるようにしたりした。採決の方法を巡っても、介助者が押しボタンで行える↖ようにルールを見直した。臨時国会初日の正副議長選挙では、介助者が投票用紙に代筆。採決では起立する代わりに介助者が手を挙げて賛成の意を示す場面もあった。

障害者議員の介護費用は誰が負担?

 ただ、ルールの見直しでは対応できない大きな問題も浮き彫りになった。それが介護費用を負担するのは誰かという問題だ。

 2人は重度障害者として介護が必要で、「重度訪問介護サービス」を使っている。重度訪問介護サービスは、重度の身体障害を持つ人や知的障害、精神障害によって常に介護や見守りが必要な人が受けられる。食事や排泄、入浴、移動時の付き添いなど、24時間体制で介助者(ヘルパー)のサービスが受けられ、本人の費用負担は1割、残る9割は公費が充てられている。全国で1万人以上が利用しており、まさに重い障害を持つ人の生活を支えている命綱といえる。

 ところがこのサービス、厚生労働省の運用ルールで「経済活動に係る外出」時には公費負担の対象外、すなわち1割負担でのサービスを受けられないことになっている。「経済活動とは一般的には就労、すなわち労働して対価を得ることをいう。報酬が得られる議員活動も、経済活動の一環と解釈される」と政治部記者は解説する。個人が報酬を得る際に公費を使うのはなじまないと考えられるためで、通勤時や自宅で働く場合も公費負担の対象外となっている。

 就労だけではない。厚労省のルールでは、通学や学業中、長期にわたる外出や社会通念上適当でない外出でのヘルパーに対する公費負担も受けられない。厚労省は「就労中の障害者の支援については、就労で恩恵を受ける企業自身が支援を行うべき」との見解を示しており、学業での利用の公費負担については「教育を担当する文部科学省との役割分担をどう考えるかになってくる」としている。

 舩後氏と木村氏は就労中の介護費についても、職場でなく公費で負担するよう求めてきた。参議院議員運営委員会は当面、介護費用を〝職場〟である参議院が負担することを決めたが、2人はあくまで公費による負担を求め、議員として今後、制度の改正を求めて活動していくという。

 この決定に対して、匿名という環境から弱者に対する厳しい意見が多くなりがちなインターネット上では、「高い議員報酬を得るのだから、介護費は個人が支払うのが当然だ」といった意見が溢れた。しかし、前出の政治部記者は「議員は国民の代表として議員活動をするわけで通常の就職とは異なる。国民から送り出された彼らが働きやすい環境を整えなければいけない参議院は難しい対応を迫られた」と話す。

 障害者支援に関わる民間団体の関係者は「就労で恩恵を受ける企業自身が支援を行うべき」との厚労省見解に異議を唱える。「重度訪問介護サービスが就労時に使えないことの最大の問題点は、障害者が働くことを諦めてしまうこと。介護者の費用を企業が負うことで、重度障害者を雇おうという企業が少なくなることも懸念される」。

 実際に働いて世の中に貢献したいと思うが、厚労省ルールのため、就職を諦める障害者がいるという。介護者が必要な場面は通勤時だけではない。職場でトイレに行く、休憩をする、水を飲むにも助けがいる。国は法律で企業などに法定雇用率を設けて障害者の雇用を促進しようとしており、介助者の人件費などの一部助成制度もある。ただ、現状はとても十分とは言い難い。

 一方、今回の参議院の決定に対して異論を唱える議員もいる。日本維新の会の松井一郎代表は、「参院議員は個人事業主だ。事業主なのに参院で負担するお金は税金。国会議員だけ特別扱いするのか」と疑問を呈した。例えば、障害を持ちながら絵や文章などの作品を発表している作家は、自宅で作品をつくる時間が
〝仕事時間〟となり、その間の介助にはついてはサービスが受けられない。彼らは自費で介助費用を払っており、松井氏は参議院に「雇用」されているわけではない国会議員も同様だという考え方を示した。

審議時間見直しなど国会改革の契機に

 介助者の問題以外にも、2人の新人議員が直面する課題や議論が必要となる場面は多い。政治部記者は「例えば日付をまたいでの審議、早朝からの委員会など、国会議員は体力勝負だと思わされる場面は多い。重い障害を持つ議員にそれが可能かと疑問視する声はあるが、国会議員は民意によって選ばれた人達。民意が生かされるよう、審議時間の見直しなど国会改革の舵をきってほしい」と話す。

 民間企業を中心に長時間労働の見直しが進む中、霞が関では相変わらず深夜までの国会待機が行われ、官僚の働き方改革は難しい状態だ。今回の参院選では、れいわ新選組の舩後氏と木村氏以外にも車椅子を使用する議員が誕生した。国会だけでなく地方議会においても、バリアフリーを必要とする議員が誕生する可能性がある。 

 「弱者に優しい社会」は「みんなに優しい社会」。来年の東京パラリンピックを前に、2人の新人議員は障害者施策だけでなく社会そのものを変えようとしている。

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