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未来の会

第110回 株価低迷でも社長報酬17億円超への疑問

第110回 株価低迷でも社長報酬17億円超への疑問

虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 武田薬品工業が6月27日に開示した有価証券報告書によれば、社長のクリストフ・ウェバーの役員報酬は19年3月期で17億5800万円にものぼった。無論、製薬業界では最高額だが、18年3月期は12憶1700万円だったから実に1年で44%もの増加だ。

 武田がアイルランドの製薬大手・シャイアーと買収合意を取り付けたのが、18年5月。それ以降これまで、約6兆8000億円という桁外れの買収額から経営が揺らぎかねないとの懸念が広まり、株価が低迷したこと以外にはさしたる話題が乏しかった武田で、なぜウェバーの役員報酬だけが44%も増加せねばならなのか。買収の行方も懐疑論が目立ちこそすれ、全く予測しがたいリスクをあえて会社に背負い込ませたトップへのこの待遇は、どう贔屓目に見ても疑問なしとは言えまい。

 少なくとも欧米では考えられないが、これが買収前から「グローバル経営」や「グローバル企業」と呪文のように唱え続ける一方、「タケダ・エグゼクティブチーム」と称してウェバーも含め20人いる役員のうち16人までを外国人で占めて、「国籍不明企業」と皮肉られるまでになった武田で起きたことなのだ。「グローバル」どころか、ローカルな中小企業あたりでよく見かける「お手盛り」報酬そのものだ。

 こうした外面と内部における旧態依然ぶりのチグハグさが、今や「タケダイムズ」の骨頂かもしれない。それを如実に示したのが6月27日に横浜で開かれた株主総会であり、問題は今後も尾を引きそうなのだ。

株主総会で関心引いた「クローバック条項」

 総会では、かつて赤字の山を築いた前会長の長谷川閑史流の「グローバル経営」路線に異議を唱え、今ではシャイアー買収の無謀さを訴え続けている創業家筋の「武田薬品の将来を考える会」が株主提案した、「クローバック条項」の定款盛り込みが関心を引いた。この「クローバック条項」とは、企業で過去の過大投資や経営判断のミスで損失が生じたり、不正が明らかになったりした場合、取締役に支給済みの業績連動報酬を強制的に返還させるというもの。既に米国の大手企業の大半が採用しており、取締役が過度にリスクを取ることへの抑止効果を期待して定着した「条項」に他ならない。

 これについて「武田薬品の将来を考える会」は、「条項」の内容を盛り込むために定款変更に伴う特別決議案として総会前に提示していたが、武田の回答は「グローバル」らしからぬ「ノー」。その理由としては、「事案ごとの個別具体的な状況を適切に踏まえてなされるべき将来の判断の妨げにさえなり得る」からだとする。かつ、「取締役の経営判断は不必要・不適切に保守的になり、過度に委縮することとなり、結果として株主の皆様の利益にならない」と切り捨てた。

 様々な会社を「グローバル」に渡り歩く「タケダ・エグゼクティブチーム」の外国人役員らが、こうした「保守的」な回答をどこまで信じているかは別として、「クローバック条項」を採用している米国の数ある「グローバル企業」から、こうした弊害めいたデメリットが問題視されているという話を寡聞にして知らない。

 ならば、「グローバル企業を目指す会社においては、財務報告の不正を抑止し、経営者への不当な財産の移転を是正・防止し、株主との関係で公正性を確保するなどの観点からは、先進国において標準的な公開企業におけるクローバック条項を設定することが必要です。会社が『グローバル企業』であることを正々堂々と主張するのであれば、クローバック条項についてもグローバルの論理をもって制度構築を行なうべきです」とする「武田薬品の将来を考える会」の主張の方が、よほど説得力がありはしないか。

 実際、異例にも総会では、この特別決議案が52・20%の賛成を得るに至る。だが、可決には3分の2以上の賛成が必要なため、「クローバック条項」の定款盛り込みは実現しなかった。それでも社外取締役で取締役会議議長の坂根正弘が、総会で「クローバック条項」に関し、「遅くとも来年5月あたりには我々の考え方を表明したい」と述べたのは、過半数という賛成率の重みからであったのは間違いない。

 しかしながら、武田自身が仲間入りしたい、あるいは仲間入りしたと思っている「グローバル企業」にとっては常識の「クローバック条項」について結論を出すのに1年近く時間がかかるというのは、いったいなぜなのか。考えられるのはただ1つ。「2025年までの続投」を表明しているウェバーにとっては、それまでにシャイアー買収の評価がほぼ定まり、かつその内容がネガティブとなる可能性が高いことを内心は熟知しているからだ。こうした博打もどきのリスクが高い買収である以上、「クローバック条項」が定款に導入されでもしたら、自分の任期中に得た日本の水準では法外に高額な報酬の返還という悪夢はただの夢ではなくなる。だからウェバーは今回、理由にもならぬ理由で「クローバック条項」を認めるのを躊躇しているのに違いない。何のことはない。ウェバーは「グローバルの論理」よりも、自身の「お手盛り」報酬のうまみを優先したのではなかったのか。ならば、坂根以下の社外取締役も「タケダ・エグゼクティブチーム」の外国人役員も、「グローバルの論理」とは縁遠い。

シャイアー買収は効を焦った「衝動買い」か

 元々ウェバーには武田入社以来、「製薬業界でも破格の高収入に見合った実績を果たして上げているのか」という批判が、絶えず付きまとっていたのは周知の事実だ。本人もそうした声を気にしていた形跡があり、「武田薬品の将来を考える会」の指摘を待つまでもなく、武田にとってはあまりにリスクが大き過ぎるシャイアー買収に打って出たのも、功を焦った挙句の「衝動買い」ではなかったのか。

 いずれにせよ、買収が成功だったのか否かの結論は必ず下される。ウェバーは、横浜での株主総会でシャイアーの買収に関し「グローバルでの競争力を高めている」だの「革新的な新薬を創出し、世界中で製品を販売できる規模を得た」だのと、強気の発言に終始した。だがもはやシャイアーに、有望な新薬を生み出す可能性は薄いというのが業界の常識だ。もしウェバーが、自分はこうした説には与しないと弁じたいのならば、まず「クローバック条項」を武田の定款に書き込んでからでも遅くはあるまい。

  (敬称略)

COMMENTS & TRACKBACKS

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  1. 最近、米経営者団体が株主第一主義を転換して、「顧客や従業員、取引先、地域社会」などの利益も考慮した経営に転換すべきとの行動原則を発表した、とのこと。そんなことは長谷川以前の武田を始め、日本の殆どの企業の基本的経営方針ではなかったのか?今の武田の惨状は長谷川の無能・無謀経営に始まり、昨今の経営の状況下にあって17億円などと言う誰も納得できない高額報酬を正当化する為とも取れる、core earningsなどと言う詐欺まがいの指標を振りかざして恥じることのないWeberによる悪徳経営の結果ではないのか?坂根が来年5月迄にクローバック条項に関する見解を明らかにするとのことだが、その内容は、意味のない、現経営陣の責任逃れのものになるであろう事は、これまでの経営戦略(大量の資産売却に依存する一方、長期にわたるタコ配の継続によって、株主の離散を食い止める事に代表されるような…)から見ても明白であろう。坂根や国谷を始めとする新薬事業には無知とも言える役員たちは、今の武田の経営はWeberにしかできないなどと言っているようだが、それは自分たちの無知無能ぶりを宣言しているだけの事であり、ISSがアドヴァイスしている通り、一刻も速やかにWeberを退任させると共に、その責任を追求すべきだ思う。

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