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未来の会

コロナ対応で病院経営にのし掛かる「負担」

コロナ対応で病院経営にのし掛かる「負担」
効率的で効果的な仕組みを構築する事に知恵を絞る

新型コロナウイルスによる国内の感染はピークを打ったのだろうか。新規感染者が減少傾向にある事から、5月14日、日本全国に出ていた緊急事態宣言は39の県で解除された。新しい生活様式が徹底され、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)等の対策はしても、第2波に備えた病床の確保は、今後も重要になってくる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が、病院経営に大きな負担としてのし掛かってくる可能性は高い。

持ち出し多い病院経営者と医療者

 政府の対策本部では4月6日、全国で受け入れ病床5万床の確保を目指すとしたものの、5月8日時点において1万6352床で、まだ目標の3分の1に満たない。

 もちろん感染症指定医療機関だけでは不十分で、それを補完するための協力医療機関の存在も欠かせない。しかし、COVID-19の患者を受け入れるのは、とりわけ院内感染防止という観点から、容易ではない。例えば、不急の手術を延期したり、一般患者を転院させたりしなくてはならなくなる。手術は病院の大きな収入源である事から、件数が減少すれば、経営への影響は大きい。

 実際に、協力医療機関に向けた病院の体制作りの例を見てみよう。福島県では、星総合病院(郡山市、430床)が、受け入れ体制を整備するため、1階の一般入院患者用の一部に感染症用の専用病床(15床)を設けた。廊下に仕切りを立てて、一般患者と接しないように区分けした。また、感染の有無が判別不明のまま、入院が必要となった患者のために、さらに15床を空けた。また、陽性の可能性がある妊婦に対応する仮の分娩室や、重症患者に対応出来る高度治療室(HCU)2床を必要に応じて使用出来るようにしたという。

 一方で、2階にある整形外科の病棟の30床を閉じる等で、感染症専属の看護師15人を確保した。医療者が感染者の対応に当たる際には防護服を着用しなければならないが、着脱を繰り返せば人手が必要になる。これを回避しようとすれば、通常業務との兼務は出来なくなる。入院が必要なCOVID-19患者は重症者が多い事もあり、一般の入院患者に比べて看護師も多く必要になる。感染拡大で受け入れ人数が増加する事態になれば、さらに一般患者用の病床を閉鎖しなくてはならない可能性もあるという。

 福島県では、協力医療機関による病床確保のための経済的支援として、空床を補填する目的で、1床に付いて1日当たり4万円を補償する。感染症用に空き病床を確保するには、入院患者を減らさざるを得ず、こちらも収入源に直結する。患者同士の接触機会を低減させるには、外来も制限しなくてはならない。地域医療を守るという意気込みで準備を進めようにも、県の補償だけでは補填を賄い切れない可能性がある。資材不足も深刻で、N95マスクが納入されない状態が続いているという。

 受け入れの如何にかかわらず、医療機関では、外来や通常診療の自粛が続いている。健康診断や各種がん検診等の受け入れを中止している病院もある。

 持ち出しが多くなるのは、病院経営者だけではない。常に感染のリスクと背中合わせにある医療者も同様である。家族への感染を予防するために、自費でホテルに宿泊したり、自動車内で寝泊まりしたりというケースもあるという。

 例えば、広島県では、県医師会が県に宛てた緊急要望書で、COVID-19に対応する医療者のためのホテルの確保を求めた。しかし、医療機関の経営が逼迫している状況では、それもままならない。広島市内の救急病院は、近隣の宿泊施設を借り上げる等の措置を講じたが、経費でホテルを確保したのは、一部に過ぎないという。

地域医療を守るために何が出来るか

 こうした状況に鑑み、日本医師会と、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会から成る四病院団体協議会(四病協)は共同で5月1日、「新型コロナウイルス感染症における診療体制に関する要望書」を加藤勝信・厚生労働大臣に提出した。

 4月以降、外来・入院共に大幅に患者数が減少している事等を踏まえて、要望書では、各地域で診療体制を継続させるために、以下の6点を求めている。

 すなわち、①医療機関が経営破綻を起こさないよう、災害時と同様に前年度の診療報酬支払額に基づく概算請求を認める②地域医療介護総合確保基金の執行残を含む不急の事業計画については使途を見直し、新型コロナウイルス感染症対策に優先的に配分する。また、その際に新型コロナウイルス感染症患者に対応する医療機関はもとより、後方支援する医療機関も存続できるよう、地域医療介護総合確保基金の使途を改めて拡大し、柔軟に運用する③風評被害等により、外来・入院・救急等が不可能とならないよう適正な報道のあり方を検討する④現状有効と考えられている医薬品(アビガン等)について、積極的な医療従事者への予防投薬が行えるよう検討する⑤国として、国内企業における感染防護具の生産増強が図られるような施策を実施する⑥国として新型コロナウイルス感染症患者に対応している医療従事者が感染した場合の補償について十分な配慮をする。

 加藤・厚労相からは、損失補填のような事は出来なくても、新型コロナウイルス感染症患者に対応するための物的・人的な費用に関しては、補償していきたい旨の説明がなされた。また、一般の医療機関でも待合室がクラスター発生源とならないよう、予約システムの導入等に取り組む医療機関への支援の方向等も表明された。

 さて、国の緊急事態宣言の解除に伴い、福井県では「医療提供体制緊急事態」を解除した。同県では、新規感染が2週間以上判明しておらず、重症者も減っており、病床の占有率は20%を切っている事等が、その理由である。

 診療報酬では、ICU等でECMO(体外式膜型人工肺)等が必要なCOVID-19の患者を診る場合、入院料が倍額になる等、手厚い手当てがなされている。しかしながら、発熱外来等、COVID-19疑いの外来患者を診察した際の診療報酬を充実させる必要も出てくるのではないか。

 第2波に備えて、地域医療を守るために何が出来るか、真剣に足下を見つめ直さなくてはならないだろう。当面の費用には、福祉医療機構の融資制度を活用する等してしのぐとしても、長期的な視野に立ち、禍を転じて、効率的で効果的な仕組みを構築する事に知恵を絞っていかなくてはならないだろう。

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