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未来の会

第125回 社長の保身欲と無縁ではない「タコ足配当」

第125回 社長の保身欲と無縁ではない「タコ足配当」

  「タコ足配当」という株式用語がある。本来、配当原資が捻出出来ない経営状態であるにもかかわらず、稼いだ利益以上に配当金を出している事を指す。その「タコ足配当」を続けている典型的な会社が、武田薬品工業だ。

 製薬業界で売上額1位の座を譲ったためしがない会社がなぜ「タコ足配当」なのか、常識的に見れば解せないはずだが、一般投資家の中には、これまで武田の株の高配当に魅力を感じて手を出した例が多いのではないか。何しろ武田は、「人気株」として知られていたのだから。

赤字でも配当金は「非減配」の非常識

 それもあってか、武田薬品工業代表取締役社長 (CEO)のクリストフ・ウェバーは5月13日、オンラインによる2019年度決算説明会で、「(今後も) 年間配当180円の維持については尽力する」と明言した。

 これで武田は「非減配」を30期維持するのみならず、当時の4・67%という高利の配当利回り(予測)も減じない確約をする結果となった。だが、武田の株は11月6日現在、3463円で、アイルランドの製薬大手・シャイアーの買収前に一時付けていた6500円台と比較すると半分近くも下落している。

 20年3月期の純利益(税引後利益)から、配当金をどのくらい支払っているかの割合である配当性向でみると、19年まではそれでも100%台を保っていたが、同期は実に633・6%という数字に跳ね上がった。武田は1年間の当期純利益の6倍以上も、配当金として支払っている計算なのだ。

同日段階で、配当金の支払い元となる武田の純資産は12兆8210億円だが、借金である有利子負債は5兆933億円も残っている。これだけでも、意図的に過分の配当金を支払っているのは明白だろう。

 しかも、気になるのはシャイアーの買収がらみの件だ。創業家筋の株主を中心とする「武田薬品の将来を考える会」は、買収完了前の18年5月14日に発表した「ShireとのM&Aに反対する理由 第2版」で、次のように指摘していた。

 「ウェバー社長は現在180円(総額1400億円)の配当を維持すると言っていますが、これまで配当金が40円を下回っていたシャイアー側の株主にも180円を配当しなければなりません。年間2800億円の配当原資が必要となりますが、……配当水準を維持できないことは明白です」

 武田は、周知のように自社の「顔」であったビタミン剤「アリナミン」や「ベンザ」等を手掛ける子会社の武田コンシューマーヘルスケア(東京・千代田)を米投資ファンド大手ブラックストーン・グループに売却する等、なりふり構わぬ「非中核分野事業」の売却に熱を上げ、約1兆円の売却益を見込んでいる。しかも今回、リストラまで進行中だ。

 無論、巨額の有利子負債の削減が急務のためだが、そこまでしておきながら、旧シャイアーの株主には「40円」の配当金で我慢してもらっている話は聞かない。「年間2800億円の配当原資」は確保している構図だが、常識的に考えて「もう180円という高利回りの配当金を出せる経営状態ではなくなりました」と宣言すれば済むはずではないのか。

 武田の配当金の異様さは、他社との比較で歴然となる。11月9日段階で業界2位のアステラス製薬は、配当利回り(会社予想。以下同)が2・66%で、1株配当が42円(会社予想。以下同)。3位の大塚ホールディングスは2・38%、100円という水準。4位の第一三共は0・81%、27円となっている。

 ちなみに、時価総額では武田を抜いている中外製薬も、1・12%、50円だ。

 そもそも「業界1位」といっても武田は図体こそ巨大だが、財務体質は他社との比較でいたって見劣りする。自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す自己資本利益率(ROE)は通常、10%程度ないと優良企業には見なされないが、武田は20年3月期で0・9%という惨状だ。アステラス製薬は同期に15・34%、大塚ホールディングス7・33%、第一三共は10・10%。中外製薬は、19・57%にまで跳ね上がる。

 総資産に対し、どれだけの利益を生み出したかを示す総資産利益率(ROA)についても、武田は目も当てられない。通常、5%超えが望まれるところだが、同期で0・33%しかない。アステラス製薬は9・27%、大塚ホールディングス5・03%、第一三共6・16%という順。

 いったいなぜ、そのような武田だけが「12期連続の年間配当180円」になるのか。

 考えられるのは、もし「減配」を口にでもしたら、ただでさえボロボロの財務内容のために下落傾向が止まらず、購入意欲が湧き難い武田株が、更に売り一色となるのは容易に想像出来る事態だからだ。

 あるいは、うがった見方をすれば、これまでさほどの実績もないのに就任当初から「高額報酬」の批判を浴びせられていたウェバーが、未だ吉と出るか凶と出るか行方が定まらないシャイアーの巨額買収に勝負を賭けた以上、減配、もしくは無配となったら、即、買収の是非が再び論議されるのは必至だからだろう。

 言い換えれば、武田の「タコ足配当」はウェバーの保身欲と無縁ではないはずだ。30代社員のクビまで切って有利子負債の削減に追われながら、180円の配当金だけは水準を維持するのを止めないのも、結局は保身のためではないのか。

 ならばせめて、20億7300万円という身の丈知らずの異常な高額報酬ぐらいは減額しても罰は当たらないはずだが、そうならないのはこれも保身欲のなせる業であるのに違いない。

会社を駄目にした「プロ経営者」達

 そのウェバーについて、インターネットのサイトでは「プロ経営者」等と呼ぶ記事が見受けられる。何でも、武田にとって「外国人のプロ経営者の就任は企業の在り方を根底から変えるものだった」(真壁昭夫「武田薬品、シャイアー『6兆円』買収後の運営がうまくいっていない…世界進出戦略に狂い」)とか。

 一般に「プロ経営者」とは複数の企業を渡り歩き、再建等の実績を積んだ人物を指す。ウェバーの場合、武田入社前には英グラクソ・スミスクライン社(及びその系列会社)しか勤務経験がなく、そうした呼称は当たらない。

 だが、そう呼ばれながらも、ウェバーと同郷の元自動車会社会長のように、逆に会社を駄目にした「プロ経営者」は少なくない。案外、ウェバーについて勘違いされているのも、そうした昨今のイメージが重複するからなのだろうか。      (敬称略)

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