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未来の会

コロナ禍で「病院の立ち位置」見直し加速

コロナ禍で「病院の立ち位置」見直し加速
疲弊した医療スタッフにインセンティブ与える工夫も

2019年末に中国で初感染が報告され、2020年年明けから世界中に広がった新型コロナウイルスは、医療現場においても大きな脅威となっている。世界には医療崩壊の危機に直面した国も少なからずあるが、欧米や中国に比べて、これまで日本の死者の数は突出して少なく、日本の医療は踏みとどまっている。

 1月には遺伝子解析によって、このウイルスが2003年に国境を越えて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と類似している事が早々に捉えられていた。しかし疫学的には、わずか8カ月で世界的な封じ込めに成功したSARSとは大きく食い違っており、軽症者や無症状者も感染を広める事等もあって、新型コロナウイルスへの対策は苦戦を強いられている。

 日本では“人生100年”と言われ、超高齢社会を迎えている。先進諸国は医療が行き渡って薬が普及したお蔭で、高齢になっても、多少の病気を抱えながらでも、生き永らえられるようになっている。高齢者に加え、例えば糖尿病、慢性腎不全等、免疫が低下する疾患を抱えている人、つまり免疫学的弱者が増加している。免疫を低下させるような薬の服用者も増えている。新型コロナウイルスは、そうした人々を直撃して、重症化を招いた。医療機関は、平時でも高齢者・重症患者が急増しており、院内感染により温床やクラスターになりやすいリスクと背中合わせである。

基幹病院が機能停止すれば医療崩壊

 東京都内には、感染症指定医療機関として、特定感染症指定医療機関に指定されている国立国際医療研究センター病院に加えて、第1種感染症指定医療機関として、都立の駒込病院、墨東病院、東京都保健医療公社荏原病院、自衛隊中央病院がある。

 このうち三次救急指定病院である墨東病院(729病床)において、循環器系疾患の患者等を受け入れる一般病棟に入院していた患者3人と、この病棟に出入りした委託業者の職員1人の計4人の新型コロナウイルスへの感染が確認された(4月14日)。さらに、患者と接触した職員42人は自宅待機となってPCR検査を進めており、院内感染が続く可能性もある。

 日本ではロックダウン(都市封鎖)こそないものの、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて緊急事態宣言が4月7日に東京都を始めとする7都府県に発令された。社会全体に「ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)」によるオーバーシュート(感染者の爆発的増加)の防止が期待されている。

 一方の医療界では、医師がテレワークをするわけにはいかないどころか、ただでさえ激務や心的負担にさらされている。もし墨東病院のような基幹病院が機能停止に陥れば、医療崩壊の引き金を引く事になりかねない。

 今こそ、医療界が一丸とならなくてはならない時期ではないか。

 厚生労働省は3月11日、「患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することは、医師法における診療を拒否する『正当な事由』に該当しないため、診療が困難である場合は、少なくとも帰国者・接触者外来や新型コロナウイルス感染症患者を診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨すること」という通知を出している。

 この通知は、診療が困難であれば、診なくても紹介だけすれば良いと解釈出来る。本音では、「うちでは診たくない」という病院経営者は多いはずだ。新型コロナウイルスの患者は入院期間が長引き、人手がかかる一方で、院内感染のリスクも免れない。

 そこで厚労省は、患者を受け入れる医療機関に、一定のインセンティブを付けた。新型コロナウイルスの感染症患者を診察すると、1回当たり3000円の診療報酬を受け取れるようになった。さらに、重症患者の入院治療には診療報酬を倍増した。

 やらないよりはましだが、最前線の現場からは、これでは不十分で、もっと上乗せするべきだという声が上がっている。感染者の増加により重症者が増え続ければ、例えば虫垂炎等、平時であれば普通に救命出来る患者の受け入れも不可能になり、亡くなる可能性もあり得るからだ。

 新型コロナ感染者を受け入れるために、インフルエンザに準じた標準予防策や咳エチケットの実施をさらに徹底する事に加えて、病院が出来る事は何だろうか。

流通業では「ヒーローボーナス」を支給

 他業種では、従業員へのインセンティブの動きが広がっている。例えば、スーパーマーケットチェーン「ライフ」を運営するライフコーポレーションは、パートやアルバイトを含めた全従業員約4万人に総額約3億円の「緊急特別感謝金」を支給する事を決めた。従業員の負担に配慮したという。欧米でも従業員の奮闘に応えようと、「ヒーローボーナス」と呼ばれる賞与を支給する企業が出ているとされる。

 コロナ禍の蔭で、大きく報じられる事はなかったが、4月に診療報酬改定が行われた。改定率では本体部分が前回同様に0.55%引き上げられた。目玉となったのは働き方改革である。消費税財源を活用した「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応」のため、0.55%のうち0.08%に相当する約126億円が充当された。また、地域医療介護総合確保基金として、約143億円が当てられている。

 医師の約1割は、年間の時間外労働が2000時間を超過しており、過労死ラインとされる年間960時間(1カ月当たり80時間)を超えている。働き方改革では、医師にも「将来的に過労死ラインを下回る水準」が掲げられはするが、仕事の特性を考慮して、一般的な医師は年間960時間、特定の医療機関の医師・研修医等に1860時間の時間外労働を認めている。

 医師一人ひとりの労働時間を短くしようとすれば、新たなスタッフを雇わなくてはらならない。従来の医療水準を維持しようと思えば、それを肩代わりする人材が必要だからだ。今は緊急事態である。そうした予算があるのであれば、疲弊した医療スタッフのヒーローボーナスに使うという英断もあるはずだ。

 働き方改革のさなかに襲ったコロナ禍を乗り切れなければ、倒産の危機もある。コロナがなかったとしても、今後は医療機関が統廃合の岐路に立たされる事は必至だ。地域医療を守るという事を最重点に、自分達の立ち位置と進むべき道を見つめ直す時に来ている。

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