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「アムウェイ」が消費者庁から初めてとなる行政処分

「アムウェイ」が消費者庁から初めてとなる行政処分
6ヶ月に及ぶ取引停止命令処分、背景にあるものとは

マルチ商法の雄として知られる「日本アムウェイ合同会社」(以下、アムウェイ)が、消費者庁から終に初めてとなる行政処分を受けた。6カ月に及ぶ取引停止命令処分が発表された10月14日、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上では、「消費者庁よくやった」「今さら何故?」等様々な書き込みが溢れた。8月の内閣改造で就任したばかりの河野太郎消費者担当相がリーダーシップを発揮したとの見方も浮上したが、処分の背景にあるものは——。

 東京都渋谷区に本社を構える米国発のアムウェイ。ある個人を商品販売する会員に勧誘し、その会員に「紹介料が得られる」として別の人を勧誘させ、販売組織を連鎖的に拡大していく「連鎖販売取引」と呼ばれるマルチ商法を行っている。アムウェイの手法は「ダイレクトセリング」と呼ばれる。口コミで商品を知ってもらい、直接消費者に販売する仕組みの為、商品を販売する際に宣伝広告費や中間マージンが発生しないという特徴が有る。

 こうしたマルチ商法を行う場合、特定商取引法では、消費者に対して勧誘者の氏名や事業者名、勧誘の目的等を明らかにしなければならないが、消費者庁によると、アムウェイは昨年3月から会社名や目的を告げずに勧誘したり、密室に連れ込んで勧誘したりした他、相手の意向を無視して一方的に勧誘、契約締結前に書面を交付しなかったという4種類の違反を確認したという。具体的には、ある女性はアプリで知り合った男性に「美味しいご飯が食べられる。一緒に行こうよ」と誘われ、食事の後にアムウェイ関係者だけが出入りする建物に連れて行かれた。そこで「このままだとお肌がボロボロになる」と化粧品を執拗に勧められ、恐怖から購入と入会を承諾したという。

「マルチ商法の雄」が摘発された理由とは……

 又、SNSで知り合った相手を「女子会」と称する食事会に誘って複数の会員で囲んだり、サークルの入会希望者に親切そうなメッセージを送って勧誘に繋げたりといった手法だ。SNSを利用した勧誘はアムウェイ以外の集団でも盛んで、その様子を撮影した動画はYouTube等に多数アップされている。

 アムウェイのホームページによると、1979年5月に創業し、資本金は50億円。2021年6月時点で373人の従業員が働いているという。21年の売上高は984億5700万円で、会員数は今年3月時点で約75万組とされている。

 マルチ商法に詳しい大手紙記者は「アムウェイの売上高は日本で1位。草分けとして知られ、圧倒的な存在だ。ミキプルーンが有名な三基商事が2位に付けているが、売上高はアムウェイに遠く及ばない550億円程度と言われている。続いて、ヒト幹細胞培養液の美容液で知られるフォーデイズ、美顔器を販売するニュースキン、化粧品のノエビアと続く」と解説する。アムウェイは野田聖子・元消費者担当相のパーティー券を購入していた事もあり、芸能人も会員であると噂される等、様々な分野に「侵食」している。

 そんなマルチ商法の雄・アムウェイが何故摘発されるに至ったのだろうか。消費者庁によると、全国の消費生活センターに寄せられたアムウェイに関する苦情相談件数は、19年度で317件、20年度は257件、21年度は270件に上る。22年度も9月15日時点で109件とやや減少傾向にあるものの、その数は少なくない。相談者の内訳は、男性が約4割で女性が約6割。20代が45・1%、30代は12%と20〜30代が半数を占めるという。

 毎日新聞によれば、消費者庁はアムウェイへの処分について次の様に説明しているという。「苦情相談が全国に広がっており、マッチングアプリを利用して誘い込んでから『実はアムウェイである』と後出しで告げる悪質性を総合的に考慮し、処分が必要と判断した」。

即潰れる事態には至らず、事業継続に意欲

これまでも消費者から多くの苦情やトラブルが有ったが、処分を受ける事は無かった。その理由としてアメリカ共和党と親密な企業であり特別な扱いを受けているとの批判が有った。今、このタイミングでの処分は旧統一教会の問題が大きく影響を与えていると言う関係者もいる。

 SNSでは「河野太郎いいぞ、もっとやれ」「河野GJ(グッドジョブの意味)」等と担当大臣である河野太郎氏を賞賛する書き込みも散見された。しかし、先述の記者は「昨年11月にマッチングアプリで知り合った女性をアムウェイに会員登録するという目的を告げずにエステに連れ出し勧誘したとして、京都府警が特定商取引法違反容疑で男を逮捕している。更にコロナ禍で若者を中心に、大学がオンラインになったり、休業要請でアルバイトが出来なかったり、人と人との繋りが希薄になった。こうした心の隙間に付け込んで来たのが、多くのマルチ商法で勢力は拡大していると見られる。こうした事態に警鐘を鳴らしたと受け取るのが自然だ」と付け加える。

 6カ月の取引停止でアムウェイの事業は立ち行かなくなるのか。この処分で連鎖販売取引についての勧誘や契約等が禁じられるが、会員同士の売買は可能だ。アムウェイが直ぐに潰れるという事態には至らないと見られる。アムウェイも処分公表の前日、会員宛てに送った文書では「行政命令に従い、2022年10月14日から2023年4月13日の期間中に、新規ABOおよび新規プライムカスタマー登録受付を6カ月間停止いたします。同時に、ABOの皆さまにも新規ABOおよび新規プライムカスタマーの登録勧誘活動も停止いただきます」とした上で、「停止期間中、改めてコンプライアンスミーティングやスポンサー活動資格認定制度を活用した『倫理綱領・行動規準』トレーニングなどを通じ、法律や規則の理解を促すことでコンプライアンス強化を抜本的に図り、皆さまとともに、社会の一員として信頼いただけるビジネスの実現に向けて、より一層の努力をしてまいります。(中略)私たちのアムウェイ・ビジネスを守る努力をしてまいります」等と記し、事業継続に意欲を示している。

 文書中のABOとは、「アムウェイビジネスオーナー」と呼ばれ、販売を担う会員を指す。新規会員獲得等で成果を挙げればボーナスがもらえ、20段階程度のランクの上位になればなる程特典が得られる方式だ。新規会員を勧誘出来ないABOにとって今回の処分は大打撃だが、会員同士の売買は可能な為、それぞれ事業継続は可能と見られる。6カ月の処分は重いものの、法律上は最大15カ月迄可能だった事を考えると、消費者庁もアムウェイに「お灸を据えた」程度の認識だろう。

 冬を迎え、コロナ感染が再び増える局面を迎えている。アムウェイは「本件を厳粛に受け止めております。(中略)いかなる違法行為も許さない姿勢で、実効性のある業務改善と再発防止策を講じてまいります」等という談話を発表したが、人と人との接触が控えられるようになり、SNSを駆使して再びマルチ商法が幅を利かせる可能性もある。恋人と出会う目的でマッチングアプリを利用したところ、知り合った女性からアムウェイの商品を勧められた、という話もある。

 アムウェイが行政処分を受けたとしても、マルチ商法には引き続き注意が必要だろう。マルチ商法で扱う商品は高額な事が多く、販売経験の無い人物が販売や勧誘を行う為にトラブルになり易い。知人や友人、親族を勧誘の対象とし、商品を販売する事で人間関係を壊し易い可能性もある。会員費を上納するネズミ講とは異なるものの、マルチ商法も違法性を帯びている場合があり、トラブルになり易い。

 消費者庁は「出会った際に別のイベントやビジネスに誘われたら注意して」等と呼び掛けている。全てのマルチ商法が違法とは言えないが、用心に越した事は無い。

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