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未来の会

台風被害で見えてきた「災害対策と心のケア」

台風被害で見えてきた「災害対策と心のケア」
地域医療を支える医療・介護関係者が議論

難病に伴う課題の解決を目指すNPO法人「Smile and Hope」はこのほど、災害発生時における医療課題を考える講演会「心のケアシンポジウム」を千葉県八千代市内で開き、地域医療を支える関係者が多数参加した。同法人理事長で医師の太田守武氏は2011年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、法人を設立した17年から毎年、同シンポを開いており、今回が3回目。折しも、千葉県では昨年秋、相次ぐ台風の上陸により停電や水害等の災害が広範囲に発生した。健常者でも大きな負担となったが、介助を必要とする人にはなおさらの事。シンポでは台風発生時の教訓を含め、訪問看護師や薬剤師らが災害支援で求められる事や課題について語った。

 最初に、同法人に協力する東京情報大学看護学部「ぶどうの会」の学生達が、ボランティア活動を通じて、東日本大震災の被災地支援の在り方についての考えを話した。学生らは、津波被害を受けた旅館の訪問、東北の語り部ツアーへの参加をはじめ、現地を訪れた経験を映像や写真とともに紹介。復興のプロセスでは継続的に現地の人々と交流を続け、被災地外への情報発信の担い手になる事が大事だと述べた。たとえ観光でも足を運んで、現地で食事をする等、身近な支援が求められているのではないかと呼び掛けた。

アンケート等から浮上した訪問看護の課題

 次に登壇した八千代市訪問看護師会の北川トシ子会長(ワールド訪問看護ステーション所長)は、台風15号の上陸直後に訪問看護の現場で起きた問題について、訪問看護ステーションへのアンケート結果も踏まえて説明した。北川氏によると、台風15号上陸直後、八千代市の12カ所の訪問看護ステーションは24時間体制を継続し、その時に生じた問題の中で最も大きかったのは停電だった。アンケートから見えた活動内容は、安否確認の電話や訪問、停電復旧の見込みが不明瞭な中での搬送先の確認、在宅酸素療法(HOT)利用者の状況確認、吸引器を使えない利用者の救急搬送等だった。

 利用者が不安に感じていた点はバッテリーの残量、エアコン停止による体温調整、断水や停電による脱水、HOTのボンベ不足等だった。訪問看護ステーションの課題については、情報の不足や被害情報の把握、大規模停電時の利用者の優先順位の決定、利用者宅の備蓄の確認、災害時の対応マニュアルの作成・訓練、自家発電の調達方法等だった。 

 特に北川氏はエアコンの再起動が課題と指摘した。停電が復旧してもエアコンは自動的に復旧せず、電源を入れ直さないと再起動しない事を知らない利用者が少なからずいたという。また、「本人も家族も精神的に参ってしまった状況があったので、心のケアは大事。情報の収集と共有、災害時の役割分担、最低限の物品の確保も必要」と述べた。

 また、さかいリハ訪問看護ステーション・八千代所長の加藤裕生氏は、停電により自宅で呼吸器や吸引器、輸液ポンプ等の医療機器や電動ベッドが使えなくなったり、冷蔵庫での食品保存が出来なくなったり、事業者側も電子カルテや入り口の電気シャッター、訪問用の電気自動車が動かせなくなった点を指摘。断水についても、飲み物としてだけではなく、褥瘡の処置、陰部洗浄等で使う水もなくなる問題が起きると説明した。建物の破損や通信の遮断といった問題も訪問看護では課題になるとした。

災害時特殊避難訓練で分かった事

 続いてSmile and Hopeからは、人工呼吸器を装着している太田理事長が経験した「24時間電気なし生活と災害時特殊避難訓練」の模様とその時分かった課題等の説明があった。台風被害では停電が起きたが、人工呼吸器等の医療機器の利用者には致命的な問題になりやすい。災害時特殊避難訓練では停電の状況を想定、丸1日コンセントからの電気が使えない事を条件として、内部バッテリーと外部バッテリーだけを使って人工呼吸器を稼働させる試みを行った。

 その結果、内部バッテリーはメーカーで説明された3時間よりも長い5時間半保った他、充電に用いた自家発電機の騒音が想定よりも大きく、地下鉄の車内ほどと判定され、夜間では稼働が難しいと思われた。そのため、エンジンをかけた自動車のシガーソケットから充電させるのが夜間では現実的だという。その他、停電対策がなされたエアーマットレスは24時間たっても全くへたらなかったが、停電対策が出来ていない製品には注意すべきだろうと指摘した。

 飲食物については、パンはそのまま食べられる利点があるが、口が渇くため水分が欲しくなる。一方、米はパンより食べやすかったが、炊飯の際、貴重な水を消費するデメリットがあったという。缶詰類は水分と栄養素を、野菜や果物のジュースもビタミン類を補給出来るので良いと指摘した。衛生面では、口腔ケアやトイレ等の生活用水のためにも水不足が問題になると説明。口腔ケアでは口腔ケアティッシュ、排せつでは「サニタクリーン」という災害用トイレの使用経験を紹介、後者は消臭剤と凝固剤が入っていてゴミ袋のように捨てられ、ストレスにならないと説明した。

 災害時特殊避難訓練に関しては、救護用の担架「ベルカ」という製品を使って太田理事長を搬送した訓練も紹介した。ベルカそのものは柔らかい素材なので、そのままでは搬送が難しいと述べ、竿を組み合わせる事で安定的に運べると画像を示しながら説明した。

 八千代市薬剤師会の秋吉恵蔵会長は、17年に導入した災害対策医薬品供給車両「モバイルファーマシー(MP)」について紹介した。キャンピングカーをベースにした車で、値段は約1500万円。コンピューターにより、保管対策が必要な向精神薬、冷却が必要な薬剤を管理しやすく、調剤や自動分包が容易に出来る他、災害時処方箋も作る事が出来るという。登録している薬剤は現在84品目。また、空調や冷蔵庫、トイレ、充電器も備え、車内で3人まで寝られるので、災害現場等を移動しながら薬局業務を臨機応変に行えると説明。16年の熊本地震の際、同会がMPで行った現地の支援活動も紹介した。

 最後に、太田理事長が代読により「災害時特殊避難マニュアル」第4版について紹介した。被災者の声を基に本人確認のための写真を入れたり、口頭で必要情報が伝えられない場合を想定したりしていると説明。特殊避難訓練の内容も反映し、担架の作り方や人工呼吸器の電源が落ちた際の対応についても情報を載せているという。

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