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ホームページへの「医療広告規制」で 医療機関に生じている戸惑いと不安

ホームページへの「医療広告規制」で 医療機関に生じている戸惑いと不安
これまで規制の対象外だった医療機関のホームページ(HP)の掲載内容を「広告」とみなし、虚偽・誇大広告などを禁じる改正医療法が6月から施行された。是正されない場合は行政処分や罰則が適用される。厚生労働省は具体的な禁止内容を示した「医療広告ガイドライン」を公表したが、医療機関からはどうHPに反映させたらいいのか戸惑う声が上がったり、患者や住民の利便性を阻害することが懸念されたりしている。HPによる医療情報発信の先駆け的な存在で、下肢静脈瘤の日帰り手術などで知られる北青山Dクリニック(東京・渋谷区)の阿保義久院長に今回の広告規制について話を聞いた。

──今回の広告規制をどう受け止めていますか。

阿保 率直に言って非常な痛手だと感じました。

 美容診療の医療機関が症例写真を修整したり、患者の感想がサクラだったりして、患者からクレームが殺到したことが、広告規制の大きな要因なのは明らかだと思います。また、我々と競合する医療機関がSNSで我々を批判する明らかに偽と思われる患者体験談を載せていたこともありました。倫理観に欠けた、宜しくない医療機関が多くあることが一番の問題で、非常に残念です。

──HPで情報発信したきっかけは?

阿保 当クリニックを2000年に開業した当時は、HPで医療情報を発信している医療機関はほとんどありませんでした。始めるに当たって、医療コンサルタントに相談しても、HPはアダルトサイトなどが多く、信用されていないので、HP開設は医療機関にはそぐわないと言われました。しかし、新規開院で知名度がなく、近隣の方々だけを対象にした医療をイメージしていなかったので、自分達の診療情報を開示したいために開院当初からHPによる医療情報発信に注力してきました。

──どのような情報を発信してきたのですか。

阿保 患者さんに対して情報を発信することは責任を伴います。我々のありのままの姿、具体的には診療方針や治療内容、患者さんの経過などを全て正直に開示する必要があると考え、アンケート調査をしっかりしたり、生情報を出したりして、安心と信頼を得られるように心掛けてきました。そうすることによって、患者さんが我々を理解、評価し、遠方からも受診していただけるようになりました。

HPへの掲載はスタッフへの教育効果も

──アンケート調査では、何を調べたのですか。

阿保 主に患者さんの満足度です。きっかけは、日帰り手術など新しい手術について、我々も患者さんの生の声を聞きたくて、全員にアンケートさせていただいたのです。そうしたら、結果が非常に良かった。ホッとしたのと同時に、患者さんの声を聴取して診療を見直していくことが重要だと考え、定期的にアンケート調査を行うことにしました。毎回の検査の後に「手術は辛くなかったか」といったことを聞くアンケートを行い、点数化してきました。調査結果を公表することで、患者さんが受診する際の参考になるだけでなく、我々自身を律することになったり、スタッフの教育やモチベーションのアップに繋がったりもしていました。それが新たな医療広告規制で掲載できなくなれば、翼をもぎ取られたようなものです。

──アンケ—ト結果の掲載は今後どうしますか。

阿保 アンケートに関する詳細をどこまで載せればいいのか、ガイドラインを読んでもよく分かりません。調査期間など最低限の事柄を付記すればいいだけだったら、ダメージは受けないでしょう。ただ、付記することが大変なことではなく、付記すれば従来の内容でもHPに掲載できるのであれば、良心的でない医療機関もこれまで通り、あまり変わらない内容のHPを公開し続けることになるでしょう。

──患者の体験談も客観性がないとして禁止されました。アンケート調査は客観的ではない?

阿保 ガイドラインの当初案は非常に規制の強い内容でした。しかし、単純に白黒をつける規制では、患者さんが求めている情報が伝わらなくなるので、最終的には例外規制を多く設けているようです。そうはいっても、医療広告がどこまでが許されるのか分からない点もあります。我々のアンケートは客観的だと考えていますが、これまでの内容でアンケート結果を掲載し続けていいのかどうかを慎重に考えていかないといけないと思っています。厚労省もガイドラインを修正しながら、現場で着地点を見つけていくことになるのでしょう。

キーワード検索の順位評価にも影響

──外部環境の変化も起きていますか

阿保 影響があるか不明ですが、検索エンジンのキーワードの順位評価に関して、システムが大きく変わった印象を持っています。我々の順位はそれまで上位に位置していたのですが、露出が一気に減ってしまいました。

── 一方で、偽情報が減る効果もある?

阿保 駆逐されればいいのですが、相手もいろんな策を講じてくるはずなので、イタチごっこになるような気もします。患者さんが正しい情報を見分けられるようにする啓発などが重要になってくると思います。

──考えられる対応は?

阿保 ガイドラインからは、情報の客観性の担保だけでなく、付加情報を明記すれば、ある程度開示できるような印象を受けたので、現在のところ大幅な情報削除などは行っていません。同業でかつ同じ立場の人達とのディスカッションもできていない状況ですが、他の先生方や同じ立場の先生方の意見も収集していくことも検討しなければいけないと思っています。正直にやってきた医療機関が割を食うようでは困ったものです。

──診療科名についても「センター」と称するのもいけない?

阿保 当院では下肢静脈瘤治療センターや椎間板ヘルニア治療センターなどと「センター」を付けています。それぞれ専門の医療機関に見劣りない医療レベルだという自負からでした。しかし、センターを名称に付けた医療機関もあり、中には誇大表現として使われている点を、今回の規制によって気付かされました。今後は「ユニット」などと改称するなど、誤解を招かない姿勢を示さないといけないのかなと思っています。表記を変えても我々には本質的な意味は変わりませんが、こういった点が注目の対象になるのだと考えさせられました。

──ガイドラインに対する意見はありますか。

阿保 術前術後の写真やイラストだけで説明が不十分なものは駄目ということですが、では何があれば十分なのか、どういうレベルでどういった内容を求めているのか、記述が大まか過ぎて分かりません。広告可能事項を限定解除したということですが、これでは限定解除していないに等しいと思います。どう運用していけばいいのか分からない点は不安です。

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