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日医に「不都合な数字」、コロナ下死亡減でムダ医療露呈

日医に「不都合な数字」、コロナ下死亡減でムダ医療露呈
自見英子参院議員のパーティー参加問題が追い打ち

138万4544。これは最近、社会保障の専門家の間で話題になっている数字だ。実は今年2月に厚生労働省が公表した人口動態統計速報の昨年1年間の死亡数を表している。注目なのは一昨年に比べて9000人余り死亡数が減っている点。死亡数は高齢者の増加に伴い、2010年から一貫して増え続けており、普通に考えれば増えるはずなのだが、昨年はその流れがストップしたのだ。

 理由として考えられるのは新型コロナウイルスの感染拡大の影響だ。国立感染症研究所感染症疫学センターの昨年1〜9月のデータ分析によると、事前の予測死亡数より実際の死亡数が少ない「過少死亡」の状態が例年以上に認められ、手洗いやマスクの徹底といった新型コロナ対策の効果が考えられると指摘。死因別では、がんと老衰は過去3年間と同程度だったが、呼吸器系や循環器系の疾患は例年以上の過少死亡数が認められたという。

 同センターは毎冬に流行する季節性インフルエンザについて、昨秋以降のシーズンで「大きな増加は認められない」として「冬季の流行はなかったと考えられる」とも分析。例年多くの患者を死に至らしめるインフルエンザが新型コロナ対策で流行しなかった事は、死亡数を減らす大きな要因になったと推定出来る。

 一方、厚労省内では「新型コロナ感染を恐れる高齢者の通院控えで、過剰診療が抑制されたのも大きい」(幹部)といった見方も少なくない。慢性疾患を患う高齢者に対してあまり必要ではない薬の処方や検査を行うような機会が減り、逆に高齢者は長生きしているというのだ。新型コロナは日常の手洗いといった健康管理をしっかりすれば、「コンビニ受診」とも揶揄される漫然とした通院等は不要という事を証明してしまったともいえる。

 日本医師会(日医)は4月28日の定例記者会見で、定期的に行っている診療所経営に対する新型コロナの影響の調査結果を発表。入院以外の外来や在宅医療の総件数を前年同月比でみると、昨年3月以降、11月まで一貫して下回っており、それに伴い1施設当たりの医業収入もほぼ毎月、前年より減っているとの実態を明らかにした。昨年4月〜今年1月の10カ月間の1施設当たり医業収入の増減額の累計は、有床診療所でマイナス573万8000円、無床診療所でマイナス1091万7000円にも上ると強調。それは診療所の収入が減って死亡数も減るという開業医主体の日医にとっては〝不都合な〟結果でもあった。

 医療費が減っているのに高齢者は長生きする—。社会保障費の抑制に血眼の財務省が、そんな好機を見逃すはずがない。財務省は4月15日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関、財政審)財政制度分科会で、新型コロナ以外の医療について、死者数が11年ぶりに減少していると強調。医療提供体制に関し「新型コロナに対応する一部の医療従事者に負担が集中する一方、医療従事者全体としては、必ずしも労働時間が増大していない実情がうかがわれる」とも指摘し、医療機関相互の役割分担の徹底等により人的資源の再配置が必要だと訴えた。

財務省にとっては社保費抑制の好機

 22年度には診療報酬改定を控えており、財務省は医療提供体制の改革に並々ならぬ決意を固めている。この日の分科会でも、厚労省が進めてきた生活習慣病予防の徹底や平均在院日数の短縮といった従来の医療費抑制策が十分効果を発揮していないとして、「2005年末以降の医療費適正化の枠組みがエビデンスに基づかない実効性を欠くものであった事が明らかになっており、15年来の医療費適正化の〝蹉跌〟からの立て直しが求められている」とまで言い切った。

 更に、人口当たりでみると、日本は世界でもトップクラスの病床数を確保しているにもかかわらず、新型コロナで医療が逼迫している状況について、財務省は「医療資源が散在し、手薄な人材配置となっている我が国の医療提供体制の脆弱さの一端が明らかになった」と分析。背景として、急性期を標榜しながら実際には低密度の医療しか行わない「なんちゃって急性期」の病床が数多く存在する事を示唆してその見直しを強調、診療所に対しても「かかりつけ医」を法制化して病院との機能分化を更に推進すべきだとした。次期診療報酬改定を巡っては、民間医療機関の改革が大前提だとして「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」と結論付けている。

 こうした踏み込んだ提言をまとめたのは、主計局で医療・介護分野を受け持つ厚労係第一担当の一松旬主計官だ。一松氏は財務省の中でも「厚労オタク」と称されるほど社会保障制度に精通しており、奈良県出向時には「医療費カットに繋がる」として日医が毛嫌いする地域別診療報酬の導入を提唱して物議を醸した。その際に日医側で反対論を強硬に主張したのが中川俊男副会長(当時)で、中川氏は昨年6月に会長に就任してからも一松氏の動向には常に注意を払っているという。

 4月28日の定例記者会見でも中川氏は、15日の財政審分科会の参考資料に地域別診療報酬の検討を求める文言がある事に言及。「1点単価を変える事は公的医療保険制度による国民皆保険の崩壊の第一歩となるものであり、絶対に容認出来ない」と強く反論した。

 年末の来年度予算編成に向け、新型コロナの動向もにらみながら始まった日医と財務省のバトルだが、大型連休明けの5月11日、激震が走った。4月20日に新型コロナのまん延防止等重点措置が適用されていた東京都内のホテルで、中川氏が自民党の自見英子・参院議員の政治資金パーティーに出席していた事を、文春オンラインがスクープしたのだ。

 自見氏は日医の政治団体である日本医師連盟の組織内議員で、中川氏(同連盟委員長)が後援会長。パーティーも中川氏が発起人として主催する形で、日医の常勤役員14人全員が参加していた。

次期診療報酬改定は〝敗戦モード〟

 中川氏は今年1月、全国会議員に対し「夜の会食は人数にかかわらず全面自粛してはどうか。範を示していただきたい」と要求。3月には厚労省老健局の深夜宴会を巡り「医療関係者等の努力を踏みにじる行為だ」と舌鋒鋭く批判していた。パーティー翌日の4月21日の定例記者会見でも「自粛を基本とした対策では限界がある」として、政府に3度目の緊急事態宣言を発令するよう求めていたが、自らの対応の甘さに世論の非難が殺到した。

 中川氏は文春報道の翌12日の定例記者会見で、パーティーには100人以上が参加したものの、感染防止対策として「徹底した検温、手指消毒、マスク着用、十分な距離の確保を講じ、食事の提供は一切なかった」と釈明。「時期が悪かった。(開催を)慎重に判断すべきだった」とも述べたが、その一方で明確な謝罪はなく、進退についても「これまで以上に責務を果たしていく」と辞任を否定した。こうした甘い対応に改めて強い批判が噴出している。

 「副会長時代、政治活動に疎かった中川氏は、今回も当初から『何が悪いのか』との態度で、初動対応に失敗した」(日医関係者)というが、もう後の祭り。世論の支持を失った日医を与党の厚労族も応援しづらくなり、既に日医内では「年末に向けて財務省に一方的に切り刻まれる」と悲観論が渦巻いている。

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