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未来の会

「病床再編」時代に備える

「病床再編」時代に備える
公立・公的医療機関再編・統合リストは議論を促す材料

9月26日、日本の医療界に衝撃が走った。厚生労働省が、再編・統合が必要と判断した全国424の公立・公的医療機関の実名入り公表に踏み切ったのだ。同日、2018年度に医療機関に支払われた概算医療費が42兆6000億円(前年度から3000億円増)であることも発表されている。

 改めて424病院の意味を考察する。厚労省は地域医療構想に関するワーキンググループ(2016年設置)で公立・公的医療機関などの役割について民間では担えないものを中心に据えるよう再検証すべきとしている。具体的にはがん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能が該当する。

 今回は全国1652の対象病院のうち、2017年度の医療データを集計した1455病院を、実績の分析に基づき2類型に分けた、すなわち、(A)9領域すべてで診療実績が特に少ない(B)6領域(がん・心疾患・脳卒中・救急・小児・周産期)で相互の診療実績が類似かつ近接(人口100万人以上の構想区域を除く)に代替病院が存在するか——を基準とした。(A)該当が277、(B)のみ該当が147で、計424病院は集計病院の3割に達する。これらの病院に対して再検証を求め、再編・統合を行わない場合は本年度中、行う場合には2020年9月までに議論の結論を出すよう要請した。

 公立・公的病院は政策医療の砦で、戦後、離島や過疎地域など民間病院の進出が見込めない地域で医療を提供し、救急や小児など不採算部門や災害医療も担ってきた。

 しかし、全国に約8000ある病院の約7割に当たる民間病院(病床数では約6割)は不満を抱えている。民間病院と異なり、公立・公的病院は、公的資金の投入や税制上の優遇措置を受けているためだ。公立病院や地方独立行政法人は非課税であるのみならず、自治体の一般財源からの繰入金は約8083億円(2017年度)に達し、ランニングコストに対する繰入金だけで1病院当たり7億円になる。

 今回公表された病院は総じて中小規模で、急性期を冠していても名ばかりで、実際には回復期・慢性期医療を提供しているという実態も見受けられる。さらに大半は、人口減少が進行し、かつ、医師不足も進んでいる地域にある。

多治見市民病院は厚労省に抗議

 医療機能再編に向けた改革は待ったなしだが、唐突に名指しされた病院や自治体からは反発の声も上がる。例えば、多治見市民病院(岐阜県)は、根拠が不十分で名誉毀損に相当と、業務妨害の疑いで厚労省に抗議文と公開質問状を提出するという。10月4日には地方3団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)と総務省、厚労省の「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」が開催され、全国知事会社会保障常任委員長の平井伸治・鳥取県知事が一律の基準での公表は不適切だとして撤回を求めたい旨を表明した。

 しかし、日本の医療費は増大し続けており、国は病床削減に躍起だ。他の先進諸国に比べて日本は人口当たりの病床数が多いことも、入院医療費を押し上げる。とりわけ、団塊の世代の大半が75歳以上の後期高齢者入りし、高齢者医療の需要が増大する2025年に向けた医療提供体制の再構築は急務となっている。

 医療介護総合確保推進法(2014年可決・成立)により、地域医療構想が制度化された。地域医療構想は、2025年に必要となる病床数を医療機能ごとに推計した上で、地域の医療関係者の協議を通じて病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を再構築するものである。2015年に、2025年時点の必要数は約119万床と推計されており5万床の削減が必要だ。2016年度中に全都道府県で地域医療構想策定を終え、2017年度には2次医療圏を基本単位とする全国341構想区域で、関係者による地域医療構想調整会議がスタートした。しかし、議論は個々の病院の自主性に委ねられているため、年4回の会議を重ねても、遅遅として再編の歩みは進まない。

民間病院が物申しにくい雰囲気

 厚労省では、公立・公的病院に「新公立病院改革プラン」や「公的医療機関等2025プラン」を提出させ、調整会議で検証してもらうよう仕向けた。しかし、地域の基幹病院でもある公立・公的病院から急性期患者を受け入れている民間病院側からは物申すことは憚られるという雰囲気がある。しかも、医師の供給を受けている大学病院もあるので、なおさら意見を出しにくい。一方、公立・公的病院が老朽化などでの建て替えに伴い回復期などへ機能転換すれば、同じ機能を担う民間病院の経営圧迫に繋がる懸念もある。

 また、厚労省は①地域医療構想の実現②医師・医療従事者の働き方改革③医師偏在対策を三位一体の改革と位置付けているが、今後これが進むと、支援が必要になると考えられる病院は少なからずあり、名指しされた424病院にも含まれているはずだ。民間病院の経営にはむやみに介入できないため、口出ししやすいところをまず名指ししたという見方もできなくはない。病院運営を巡って、厚生省には強制力はなく、決定権はあくまでも地方の側にあるし、最終結論でもない。病院名公開は突然で過激だが、地域医療を引き続き支えていくために本気の議論を促すための材料を提供したまでと考え、地域ごとに実情を踏まえて議論すべきだ。

 公立・公的病院に検討が促されたのは「統廃合」でなく「再編」で、診療科の一部の他院への移管といった規模の縮小や機能の転換・集約なども含まれる。ただ、首長が医療サービスの削減に消極的なのは、住民理解を得られにくいからだ。千葉県銚子市では2009年、市長が経営難の市立総合病院に追加支援はできないと休止を表明し、市民からのリコールで解職された。一方、病院再編について知事の権限は強化されており、都道府県の積極関与も鍵を握る。

 地域医療構想で、民間病院こそ手をこまねいていてはいけない。自治体からの補助はなく、より一層の経営努力を強いられていることは言うまでもない。厚労省では、民間病院についてもデータを収集しており、近く地域医療構想調整会議に示される予定だ。

 全国には、地域医療連携推進法人を立ち上げ、地域の医療・介護関係者が調整会議とは別に話し合いの場を設け、機能分化や連携を進めている事例がある。山形県では公立病院が核となった日本海ヘルスケアネット、千葉県には民間の亀田総合病院が公立病院を支える房総メディカルアライアンスが設立されている。兵庫県では、県立姫路循環器病センターと社会医療法人製鉄記念広畑病院を統合した医療センター設立の計画が進められている。官民一体となって地域医療を支えていく意識は不可欠で、自院の生き残りのための選択にも繋がるはずだ。

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