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未来の会

巻き返し図る「和製バイオベンチャー」に勝機はあるか

巻き返し図る「和製バイオベンチャー」に勝機はあるか
先端買収、コロナ薬開発等に挑戦するも先にまだ高い壁

日本のバイオベンチャーから新たな動きが起きている。その1つは大規模な買収への挑戦だ。

 2020年11月9日、アンジェス(大阪府茨木市)は米エメンド・バイオセラピューティクスを約260億円で完全子会社化すると発表した。02年の上場以来赤字が続くアンジェスだけにこれだけの大金をはたく事に疑問の声も上がるが、「遺伝子治療プログラムと次世代ゲノム編集プラットフォーム技術を有する世界初の企業になる」と山田英社長は全く意に介さない。

 19年に日本企業で初めて遺伝子治療薬「コラテジェン」を国内で承認・上市させたのがアンジェス。日本の遺伝子治療のパイオニアだ。ただ、今あるのはDNAプラスミドを運び手(ベクター)にして改変遺伝子を体内に送り込む技術だ。

 山田社長も認めるように「究極の遺伝子治療」はゲノム編集だ。生命の設計図である、人の遺伝子情報(ゲノム)を直接改変する、つまり異常遺伝子の破壊や正常遺伝子への書き換えで疾患を治癒するのが、ゲノム編集という技術だ。

 エメンドはこのゲノム編集の中でも、特定標的の塩基配列をより正確に切り取り出来る独自の高度技術を持つ。これを買収で入手出来るのだから、選択しない手はない。19年には武田薬品工業も系列ファンドを通じ出資済みの事実も、エメンドに魅力がある証左だろう。

 アンジェスは既に20年6月に株を追加取得し持ち分会社化していた。当時も完全買収の願望はあったが、巨額資金の確保がネックだった。今回は主に自社の新株発行で買収対価に充てる事でクリアした。一方で8%を超す株の希薄化となり、収益化しなければ大型買収だけに将来のしっぺ返しが大きくなるのは必至だ。

幸い発表後の株価上昇からは市場はひとまず評価したようだが、当面は年間10億円超のエメンドの赤字がアンジェスの赤字(前期33億円の営業赤字)に上乗せされる。のれん代も加わるはずで、短期業績への影響は完全にマイナスだ。

 エメンドは非臨床等8つの開発候補を持つ。21年には人への臨床試験(治験)に進む物も出るし、高精度ゲノム編集技術もあるため、この資産を武器に他社提携やライセンス等で早めに収益化を図る事も可能とアンジェスは踏んでいるようだが、そううまく問屋が卸すかどうか。

そーせいは400億円級買収?

 日の丸バイオベンチャーの老舗、そーせいグループ(東京都千代田区)も大買収を計画する。20年6月に新株や社債を海外で発行し209億円の資金を調達、そのうちの188億円を企業買収や新技術の獲得等に使うと発表した。8月の中間決算説明会で田村眞一・会長兼社長がこの戦略を説明した。①年間収益が最低50億円かつ増収中②複数の治療領域を持ち、そーせいとは補完的なビジネスタイプ、という2つの条件を満たす企業が買収対象になる事を明示している。

 背景には同社の業績停滞がある。17年3月期に欧州製薬大手のアラガンとの新規大型開発提携で巨額の契約一時金を獲得し売上高189億円、営業利益124億円となったが、その後、収益はつるべ落とし。最高経営責任者(CEO)の座を一旦は外国人に譲ったが、19年1月に創業者の田村氏が復帰、戦略転換と経営再建に乗り出している。

 2期連続の営業赤字から19年12月期(その前に決算期変更)には営業利益4億円に盛り返したが、20年12月期は再び営業赤字転落もあり得る状態になっている。これでは田村氏が目指す東京証券取引所への上場は覚束ない。

 年商100億円の安定確保とその先の成長エンジンの獲得が喫緊課題となっていたわけで、田村氏が出した答えが先述した大型M&A(企業の合併・買収)だった。

 実はそーせいには良い先例がある。15年に480億円で買収したバイオ企業の英ヘプタレスだ。グループの研究開発や事業は現在ここが中心になっている。全株取得へ契約時に約220億円を投じ、残る260億円はヘプタレスが後に生み出す収入を充てるスキームだった。

 CEO復帰後の田村氏が「ヘプタレス級の大型買収をする」意欲を公言してきた事を考え合わせれば、先述の資金調達額に借金や様々の支払い手法も組み合わせ、400億円超の大型買収になる可能性もあり得るだろう。

日本発の新コロナ薬開発も

 新型コロナ向けワクチンや治療薬開発への挑戦も活発化している。

 ワクチン開発で国内勢唯一気を吐くアンジェスは、5月から入った人への初期投与試験(治験)を終え、11月に被験者500人規模の国内第2・3相に進んだ。更にこの後で1万人〜数万人対象の海外も含むグローバル治験を開始する予定である事を明らかにした。いよいよ最終段階が視野に入ってきたわけだ。

 中分子創薬開発の先駆者・ペプチドリーム(神奈川県川崎市)もコロナ治療薬の開発で大胆な一手に乗り出した。11月12日に富士通など4社とコロナ治療薬開発会社を設立すると発表したのだ。21年初に非臨床(動物)試験、同秋に治験入りを目指す。その後の日米欧3極の後期治験入りをにらみ、開発・製造承認で提携する製薬大手との交渉も同時に進める構えだ。

 米ファイザーがワクチンの承認や緊急使用許可を英米で取得、「レムデシビル」等承認治療薬も既に複数出ている中では、いかにも出遅れ感があるが、新会社の社長に就くペプチドリームの舛屋圭一副社長の見方は全く異なる。

 ワクチンの一般普及には長い時間が掛かる。ワクチンがあってもその恩恵にあずかれない人も世界には多く、患者を救う治療薬が依然不可欠になる。しかし、現在の承認治療薬「アビガン」や「レムデシビル」等の効き目は高くない。ウイルス複製阻害能力の具体的数値を見ると、自社の開発薬が「効き」では潜在的に既存承認薬を大きく上回るというのが、その自信の背後にあるようだ。

 米イーライリリー等の抗体治療薬は大量製造に難があり価格も高い。この点でもペプチド薬が優位。後発でも勝機は十分というのがペプチドリームの読みだ。

 日本の製薬大手はコロナワクチン・治療薬の開発で欧米や中国勢に大きく遅れたが、これは彼我のバイオベンチャーの実力の違いと言えなくもない。

 ファイザーのコロナワクチンは提携するドイツのバイオベンチャーの、イーライリリーのコロナ抗体薬もカナダのバイオベンチャーの技術というのを考えればよい。

 アンジェスのワクチンは、承認等で前を走るファイザー等が現時点で謳う95%に伍す有効性を叩き出せるのか、現時点ではそれを保証するデータはない。万人規模のグローバル治験やその後の申請・承認・販売も考えれば、製薬大手との戦略提携は必須だ。「交渉はしている」と会社は言うが、提携先の具体的な名前は未だ出てこない。

 和製バイオベンチャーの雄が積極果敢に挑戦する姿勢(そーせいも11月にコロナ治療薬の候補物質を選出したと発表した)は高く評価出来るし期待もしたいが、先行する欧米勢に本当に追い付き対抗出来るかと聞かれれば、不安も課題も大きく残るというのが、偽らざるところだろう。

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