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米国第一主義がもたらす世界の激変

米国第一主義がもたらす世界の激変

日本が生き残る為に取るべき道とは

 

前嶋 和弘(まえしま・かずひろ)1965年静岡県生まれ。90年上智大学外国語学部卒業後、中日新聞記者を経て渡米。2007年メリーランド大学大学院政治学博士課程修了。敬和学園大学准教授、文教大学准教授等を歴任し14年から現職。専門は現代米国政治・外交。

 

米トランプ政権の外交政策が世界情勢の波乱要因となっている。「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げ、関税を武器に各国へ自国の要求を突き付ける一方、国際協調の枠組みや関係を次々と見直す等、嘗て国際秩序の構築を主導してきた米国の姿は今や見る影も無い。今年1月にはベネズエラで軍事作戦を実行し、反米政権のマドゥロ大統領夫妻を拘束した他、3月にはイラン国内の軍事施設を空爆する等、一連の対応は国際法違反との批判も浴びている。こうしたトランプ政権に日本はどの様に対応していけば良いのか。米国の現代政治と外交を研究する前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授に、トランプ政権の現状と課題、日本外交の在り方を聞いた。


—共著『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)で、米国でのメディアの分極化やフェイクニュースの拡散の現状について分析されました。

前嶋 米国では最早「真実は1つ」という前提が揺らいでいます。中国や北朝鮮等の共産主義国家と違い、米国のメディアは政府から独立した存在ですが、世論の分断が進む中で、どちらか一方の勢力に肩入れした報道をする様になってしまった。特に熱烈なトランプ支持のメディアは露骨で、従来の報道を否定し、トランプ支持者の側に立った「もう1つの真実」を語り出した。これは根深い問題で、嘗てジャーナリズムのお手本だった米国のメディアは質的転換を遂げつつあると言わざるを得ません。

——そうした中、トランプ政権は「アメリカファースト」を掲げています。

前嶋 第2次大戦以降、自由貿易体制や法に基づく国際秩序等は米国主導で作られ、米国が世界の覇権を握ってきました。しかし、今のトランプ政権は「アメリカファースト」で、「西半球重視」です。これは米国が築き上げてきた国際秩序の崩壊に繋がり兼ねません。トランプ政権の一部では、米国と中国が世界を主導する「G2」構想の様な発想も見られますが、それを現実の秩序として成立させる程の総合力が、現時点で中国に備わっているとは言い難い。米国の影響力が後退する中で、世界は「Gゼロ」へ向かうとの見方も有る。覇権国家が不在となれば、国際社会が混沌化するリスクは小さくありません。

——中国は世界秩序の構築を目指している?

前嶋 中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路構想を通じて、戦後の米国型秩序をなぞる枠組みを整えつつあり、秩序形成への意欲は明らかです。只、途上国支援を巡っては「債務の罠」が指摘される等、自国利益優先との見方が根強い。覇権とは単なる力の優位ではなく、他国が自発的に従うだけの規範的正当性を伴って初めて成立します。その意味で、中国に対する信頼は尚限定的です。

——米国は中国をどの様に見ているのでしょうか。

前嶋 歴代の米国政権では、中国に対し融和的な「エンゲージ(関与)」と、競争相手と見る「ヘッジ(防護)」のどちらのスタンスを取るかによって、外交戦略も変わりました。オバマ政権の終盤ではエンゲージとヘッジの組み合わせが必要だとされましたが、第1次トランプ政権では、中国を敵視し、行動を抑止するという方針に転換。それは次のバイデン政権にも引き継がれました。特にバイデン政権は、台湾海峡での武力による現状変更に対しては、軍事的対抗も辞さない姿勢を明確にしていました。ところが、第2次トランプ政権は競争しながら共存を図るG2戦略へと方針を変えた。最早米国も、中国と上手くやらざるを得なくなったという事です。しかし、これ迄米国と日本、韓国、台湾は、半導体産業の分野で連携し経済安保を進めて行こうとしていました。今後、米中共存が図られる様になると、他の国は難しい状況に置かれてしまうかも知れません。

西半球優先の政策に拍車

——米国はベネズエラのマドゥロ大統領の身柄を拘束しましたが、その目的は。

前嶋 西半球重視戦略の一環と捉えるのが妥当でしょう。トランプ大統領は、グリーンランドを含む南北アメリカ大陸を米国の手で守るべきだとの立場を明確にしている。この考えはMAGAと呼ばれる彼の支持層には強く支持されていますが、民主党支持者や穏健な共和党員の間には疑問も少なくありません。問題は、その国際的影響です。米国は今回の拘束を国内法の執行と説明していますが、国際法違反との批判も根強い。仮にこの論理が通れば、ロシアのウクライナ侵攻や、中国による台湾への圧力に対し、国際ルールの遵守を求める説得力が弱まる。西半球戦略は、同時に国際秩序の規範基盤を揺るがし兼ねない側面を孕んでいます。


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