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未来の会

第208回 政界サーチ
〝高市バブル〟の裏に潜むもの

第208回 政界サーチ〝高市バブル〟の裏に潜むもの

院選は高市早苗総裁(首相)率いる自由民主党が憲政史上最多の316議席を獲得した。単独で衆院定数の3分の2を超える圧勝劇である。盤石な政権基盤を確保した高市首相は持論の新たな〝富国強兵策〟に邁進する事になるが、過熱気味の「高市バブル」の先行きが前途洋々という訳でもない。

 60年ぶりの通常国会冒頭解散で封じ込めを図った旧統一教会絡みの不祥事が国会運営の不安要因として残っているし、大勝で緩んだ与党からは醜聞が出易い上、圧勝後は内輪揉めが付き物だ。衆院の圧倒的な力で国会を牛耳る事も可能だが強権を振りかざせば、メディアや国民の反感を買い兼ねない。それは↘支持率の低下に繋がり、じわじわと政権運営に響いてくる。

 新たに臨む対中国外交でも依然、活路は見えていない。米国の第2次トランプ政権が激変させた世界情勢を見極める力も試されるし、トランプ後の世界を遠望する心構えも必要だろう。公約に掲げた飲食料品の「消費税2年間ゼロ」を巡っては財界等に反対論が根強い上、与党内にも異論が燻っている。実施するなら丹念な調整が不可欠だし、撤回するのなら国民が納得する様な説明と代替策が必要になる。何れにしても、慎重且つ迅速に事を運ばなければ信用失墜に直結するだろう。

 自民大勝で終わった衆院選だが、東京・永田町↘では〝高市自民〟の躍進よりも衆院選直前に結党した中道改革連合の大敗ぶりが耳目を集めている。

 自民党幹部が指摘する。

 「ネーミングを聞いた時点でダメだと思ったね。略称は〝中道〟なんだけど、与党との対立感が薄れてしまい中途半端な印象になってしまった。対置される存在じゃないと自ら言っている様なものだから、選択肢になり難い」

 自民党右派の高市政権に対抗するには、右派の弱みを突く様なエッジの利いた名前でないとならなかったという事らしい。確かに「中道」にはどっち付かずのイメージが付き纏う。自民党幹部が続ける。

 「略称が〝中革〟だったら、エッジが利いたかも知↖れないけど。これは、新左翼の〝中核派〟を彷彿させるから、高齢者層はドン引きだろうな。野田佳彦共同代表等はバランスの取れた真ん中をイメージしたんだろうが、世間からは革新性が薄れ、右にすり寄ったとしか映らなかったんじゃないかな。中道と改革という本来相反するワードを結び付けた時点でアウト。これは貰ったと思った」

 学生運動が盛んだった全共闘世代だという自民党幹部は政党名批評をした後、こう付け加えた。「世界的な潮流が自民党支持に繋がったと思うね。国民は身近な問題として世界情勢をしっかり見ている。自国中心主義の大国の我儘には嫌悪感も有るが、その中で生き残るべき道筋が何なのか。現実もしっかり見据えている。生活者中心も結構なのだが、国民の視野は存外広いし、世界を見据えていると俺は思うね。中道は其処を見逃していた」。

NISA民が衆院選を変えた

 自民党の経済閣僚経験者はこんな指摘をしている。

 「今回の選挙は初の本格的NISA(少額投資非課税制度)選挙だと思う。政策は勿論大事だが、〝NISA民〟にとって一番大事なのは株価が上昇するかどうか。株式の世界では、昔から自民党が大勝すれば株価が上がるというアノマリー(経験的に観測出来る規則性)が有るが、これは一部の投資家の間での事だった。今回は国民の4分の1がNISAを使っているという国民総投資家時代での選挙であり、これ迄と状況がまるで違った」

 経済閣僚経験者は石破茂政権から高市政権に代わった際に起こった株価の高騰、所謂「高市トレード」の成功体験で、国民の政治を見る目が変わったという。日本と米国の株式に好影響を与える政権なのか否かが、投票行動の重要なファクターになったと見ている。

 そう指摘されると、日本国民が揃って守銭奴になったと言われている様で、少し不愉快なのだが、今回の主な争点となった「消費税減税」も突き詰めれば、身銭が増えるかどうかという問題だ。投資で利益を得るには、それ相応のリスクも負わなければならない点を考慮するなら、投資家となった有権者はそれぞれの政党、候補者と真剣に向き合ったのだと言えなくもない。

 中道の候補者等はこうした指摘をどう捉えていたのか。立憲民主党出身で辛くも議席を維持した中道中堅議員に聞いてみた。

 「トランプ大統領ら大国の指導者による自国第一主義、排外主義の横行で世界は混乱に見舞われている。他国の主権を平気で侵す様な振る舞いが正当化される様なら、世界は無秩序になる。米国ベッタリでも中国寄りでも本来はいけない筈だ。中道とはAとBとの中間という消極的な意味じゃなく、主体的な立場を志したものだった。只、結果を見れば、国民にその意味を伝え切れなかった。理由は様々だろう。ネーミングのミスとの批判も有るが、私はそうは思わない」

 では、敗因はどの辺に有るのだろうか。

 「旧立憲民主の連合と、旧公明党の創価学会という2つの組織票に恵まれた筈だった。固い票をベースにし、政権への批判票を上積み出来ると思ったが、今考えれば、組織票への依存に腐心し過ぎた。右派にも左派にも賛同出来ない良心的な無党派層を取り込んでこその中道なのに、そのアピールがまるで足りなかった」

 NISA民の台頭をどう感じたのか。

 「国民が投資に関心が高い事は知っていたが、それを生活者ファーストを掲げた我々の政策と結び付ける具体的な主張が足りなかった。選挙中に支持者から『中道が勝つと株価は下がるのか』と困った顔で質問された事が有った。投票行動の奥底に株価への思いが潜んでいると実感した。NISAの影響は少なからず有ったと思う。只、これは岸田文雄元首相がやった事で、高市さんの手柄じゃない。今考えれば、岸田政権は将来の選挙への影響も考慮していたのだろう。自民党というのは本当に怖い政党だ」

 敗者の弁を一通り紹介する形になったが、中道の敗因を一言で言えば、同時代性を欠いていた事だろう。初の女性首相をリーダーにした自民党に比べ、中道は清新さを欠いていた。リベラル勢力と公明党がくっ付く形での新党結成は1994年の新進党の事例が有る。今回は選挙直前の結党であったが、何処か陳腐感が漂っていた。

 政策の主張も高市政権を正面で捉え、がっぷり四つに組むという姿勢に乏しかった。生活者ファーストは日本ファーストへの当て付けだろうが、消費税減税ばかりがクローズアップされ、日本経済再生への視点が十分ではなかった。

 旧立憲民主党の支持母体の連合は大手企業を中心とした労働組合がベースだし、長らく政権内部に居た公明党にも大手金融出身者ら経済通が大勢いる。政権選択選挙である衆院選に臨むなら、日本再生の目玉になる経済政策を前面に出しての選挙戦でなければいけなかった。

 大敗を喫した中道の党勢立て直しには時間が掛かるのだろうが、当面は国会論戦が主戦場になる。与党のスキャンダルを追及する事で存在感を示す鬼っ子路線も良いが、党の将来を見据えるのなら、経済分野での本質を突いた指摘が欠かせない。政権を任せるに足る力量を示さなければ只の批判勢力に埋没するより他ないだろう。

巨大与党に問われる〝中道〟?

勝した与党も安穏とはしていられない。長期国債の金利急上昇を招いて迄推し進めた財政拡張策が実りをもたらさなければ、政治そのものへの失望が広がる。替わり得る野党も当面は現れないのだから、一身で国政を担う重い責任が有る。

 「自民党の常だが、大勝は内部分裂の種なんだ。それは歴史が証明するところだし、或る意味、政党の健全性の証左でもある。今回、自民党は右から左迄、幅広い層の支持を得た。その責任は重い。高市さんは我武者羅に進むのだろうが、その内、敢えて中道(中庸)を選ぶ勇気が試される場面が来る。それが出来れば盤石だ」。自民党長老は洒落交じりに語った。やはり、自民党は一枚上手の様だ。

 

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